日本內戰錄 第三十八號記錄 ― 新兵、空へ出される日 ―
八月二十五日。
正式配属からまだ十二日しか経っていないのに、
今日、前線出撃命令を受けた。
本来なら攻撃機乗りは
三ヶ月の訓練課程を終えてから前線に送られるはずだ。
俺はまだ“半分”しか終えていない。
だが航空隊の損耗が激しいらしく、
中隊長は書類を机に叩きつけて言った。
「新人でも飛ばすしかない。
ここはもう、平時の軍じゃない」
笑うしかなかった。
怖さをまだ自覚できていないから、
笑えてしまう。
今日与えられた機体は
F–86F 改修型。
整備兵が油に汚れた手で翼を叩きながら言った。
「新兵が乗るには重い機体だ。
でも数が足りねぇんだ、すまんな」
すまんな、じゃないだろうと思ったが、
言葉にはしなかった。
出撃先は大淵隊がいた前線付近。
地図で見ると穏やかだが、
報告書には“戦闘頻発”“損耗大”の文字ばかりが並ぶ。
初任務は 地上部隊の援護と補給路への阻止攻撃。
新人には荷が重い任務らしいが、
誰が新人を守ってくれるわけでもない。
格納庫を出る前、
同じ中隊の先輩パイロットが肩を叩いてきた。
「守。
空は地上より安全だと思ってるうちは死ぬぞ」
軽口みたいに聞こえたが、
目だけは笑っていなかった。
エンジンを始動させると、
金属の震えが操縦桿を通して腕に伝わった。
訓練では感じなかった重さだ。
飛び立つ直前、
ふいに胸がざわついた。
ここから先は、
“戻れる保証のない仕事”なのだと理解した。
今日は記録をここまでにする。
戻ってこれたら、続きは書く。
―― 日比谷 守(帝国軍)




