35/77
日本內戰錄 第三十五號記錄 ― 静かな穴のあいた中隊 ―
八月二十二日。
昼過ぎ、
第二中隊から負傷者が四名搬送された。
河合が所属していた中隊だが、
彼は今ここにはいない。
血に濡れた担架が二つ、
泥にまみれた制服が二つ。
いずれも前線の土の匂いが強い。
まず一人目。
右上腕部貫通。
出血量は多いが、骨は無事。
止血と洗浄後に縫合。
二人目は胸部に浅い裂創。
破片が跳ねたものと思われる。
呼吸音に異常はなく、処置後に安静指示。
三人目は左足首の裂創。
破片が骨のすぐ近くに入り込んでいた。
摘出に時間を要した。
四人目だけは重かった。
右脇腹に深い貫通。
弾は背側に抜けているが、
周囲の筋肉が広範囲で損傷していた。
輸血が必要かと思ったが、
ぎりぎり踏みとどまった。
処置を終えたころ、
第二中隊の兵が外で待っていた。
彼は泥と血で顔が汚れていた。
「河合は…あいつは今どうしてるんだ?」
そう聞かれた。
怪我で離脱していること、
命に別状はないことだけ伝えた。
彼はほっと息をつき、
それから小さく呟いた。
「……あいつがいないと、
前線がやけに静かなんだよ」
意味は分からなかったが、
その表情は不安に沈んでいた。
中隊の“穴”というものは、
こういう形で表れるのかもしれない。
今日の診療は以上。
―― 坂井 苑




