日本內戰錄 第三十四號記錄 ― 補給路の終端 ―
八月二十一日。
第三補給点への移動中、
林道の曲がり角で前を歩いていた伍長が
突然地面に沈んだ。
銃声は一発だけ。
その後すぐに、左右の斜面の茂みが揺れた。
帝国側の待ち伏せだった。
護衛の兵が反射的に撃ち返したが、
相手は最初から射線を限定した位置に潜んでいた。
補給車両を中心に三方向から撃たれ、
隊列は一瞬で崩れた。
自分でも驚くほど冷静だった。
「これは崩れる」と理解した瞬間に、
足が勝手に木陰へ下がった。
だが状況は最悪だった。
護衛の二名が倒れ、
残った者は散開したものの、
補給物資を守る形で動くこともできず、
それぞれ孤立した。
後ろで爆ぜたのはトラックのガソリンタンクだ。
火柱が上がり、
弾薬箱がはじける乾いた音が連続した。
退路はもうなかった。
斜面の上から降りてきた影が三つ。
銃を構えたまま、
こちらに日本語で叫んだ。
「武器を捨てろ! 動くな!」
ここで抵抗すれば撃ち殺されるだけだと分かった。
補給兵の自分には撃ち勝つ術がない。
背中の汗が冷たくなった。
隣にいた若い兵が震えながら小銃を捨てる。
俺もゆっくり手を上げて、
泥の上に身を伏せた。
帝国軍の兵士が近づき、
手首を荒く縛られた。
肩を押されて立たされる。
銃口が背中に押しつけられた。
視界の端に、
倒れた仲間の靴だけが見えた。
生き残ったのは、
俺を含めて四名ほどだ。
捕虜という言葉を、
自分が背負う日が来るとは思わなかった。
これが今日の記録のすべてだ。
次に書ける日は、来るのだろうか。
―― 黒田 翔




