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日本內戰錄 第二十八號前日記錄 ― 北側斜面観測 ―
八月十八日。
本部からの指示で、
北側斜面の偵察を任された。
先日の位置よりも広い範囲が見渡せるが、
その分こちらも目立つ。
六時頃に射撃位置へ到着。
地面は少し湿っており、
腹ばいになると冷たさが服越しに伝わった。
風は弱く、射撃には悪くない。
ただ、森の奥の音がいつもより静かで、
距離感がつかみにくい。
双眼鏡で観測。
敵側の鉄条網の向こうに、
新しい土嚢の塊がいくつか作られていた。
高さは低いが、
観測所のように使うつもりなのだろう。
七時前、
土嚢の影にゆっくり動く影が一つ。
距離は三百を少し切る。
姿勢が低く、
通常の歩兵の動きではないように見える。
射撃体勢に入る手前のような、
腰を落とした構え方だった。
こちらを探っている可能性あり。
射線を切るため、
少しだけ位置をずらした。
地面の下に根の固い部分があり、
肘が安定しない。
今のままでは正確に撃てそうにない。
一度深呼吸して、
姿勢を組み直したが、
胸の奥にわずかなざわつきがあった。
昨日の観測任務以来、
どうも集中が長く続かない。
七時十五分頃。
敵側の土嚢の上に、
細い影がかすかに浮いた。
形は分からない。
銃かもしれないし、
ただの枝かもしれない。
もう少し観察する。
―― 榊原 明良




