日本內戰錄 第二十三號記錄 ― 静地の残痕 ―
八月十二日。
昨日使った高地を再度確認するよう命じられた。
敵が警戒を強めている可能性があるため、
単独での潜入は避け、今日は一名の歩兵が後方で待機した。
夜明け前に出発。
気温は低いが、湿度が高く息が重い。
草の匂いが濃く、地面の冷たさが足首に残った。
観測点に着いてみると、
昨日の射撃位置の前に新しい土嚢が積まれていた。
高さは胸ほど。
敵が昨夜のうちに急いで設置したのだろう。
双眼鏡で確認すると、
昨日自分が倒した一人のあたりだけ、
地面がわずかに荒れていた。
小さな黒い染みが草の上に残っている。
雨も降っていないので、昨日のままだ。
誰が片づけたのかは分からない。
ただ、そこに人が倒れていたことだけは確かだ。
七時半頃、
敵陣から三名が鉄条網沿いを歩いてきた。
距離は三百弱。
巡察のようだが、昨日より緊張した動きをしていた。
射撃位置からは角度が悪く、
狙えばこちらの所在が露見する。
報告のみで射撃は行わず。
その後、敵はさらに土嚢を追加し、
観測所のような小さな張り出しまで作り始めた。
作業員らしき兵が二名、交代でシャベルを振っていた。
撃てば止まるのは分かる。
しかし今日の任務は「観察」。
命令を逸脱する理由もない。
視界に入り続ける人影を
ただ見ているだけの時間は長い。
引き金に触れない狙撃手は落ち着かないものだ。
十時、撤収指示。
草を踏む音が普段より大きく聞こえ、妙に神経が立った。
帰隊後、射撃報告書を簡単にまとめたが、
“撃っていない任務報告” は書く字数が少なく、
手元の紙だけが白く余った。
―― 榊原 明良




