日本內戰錄 第二十號記錄 ― 前線負傷報告 ―
八月八日。
午前中の巡察で、
北側の斜面に帝国兵の影を見た。
距離は遠く、撃ち合うほどの状況ではなかった。
ただ、あの静けさは嫌な予感しかしなかった。
十時過ぎ、
東側の偵察班から銃声。
二、三発の後に短い悲鳴。
判断する間もなく、こちらにも弾が飛んできた。
土嚢の陰に身を伏せた瞬間、
左腹のあたりに鈍い衝撃。
痛みよりも、
「息が続かない」という感覚だけがあった。
倒れた地面は湿っていた。
手を当てると、
指先がすぐに赤く染まった。
貫通かどうかは分からなかったが、
血の量が多い。
仲間が引きずってくれたらしいが、
その間の記憶は途切れ途切れだ。
医療所に運ばれた時、
坂井の声が聞こえた。
「まだ生きてる、急げ」
その言葉で、
自分が死にかけていたことを初めて理解した。
処置中の痛みはほとんど覚えていない。
むしろ、
“戦線に戻れなくなるのではないか”
という焦りだけが強く残った。
生きている。
だが、しばらくは前に出られないだろう。
今日の記録は以上。
―― 河合 慎
八月八日。
補給所で荷の整理をしていると、
担架の音が聞こえた。
軍靴が土を急くように踏む音。
あれは、良くない時の音だ。
医療所の前に兵が数名集まり、
担架の上の人物を見た。
視界に入った瞬間、
呼吸が止まった。
河合だった。
腹を押さえ、
包帯がすでに赤く染まっていた。
意識はあるが、
焦点が合っていない。
「黒田……か」
彼はそう言ったが、
声はかすれていた。
運び込まれた後、
坂井が必死に処置していた。
普段の淡々とした様子とは違い、
手がわずかに速かった。
戦場では、
仲間が撃たれるのは珍しくない。
だが、河合は“倒れない”と思っていた。
補給所に戻ると、
荷物が妙に軽く感じた。
ただの木箱のはずなのに。
今日の補給は予定どおり完了した。
だが、
一番必要な兵が抜けたままだ。
前線は、
少しずつ削り取られていく。
―― 黒田 翔




