日本內戰錄 第十八號記錄 ― 前線静観 ―
八月六日。
昨夜の北斜面での交戦は、
こちらにも断片的に伝わってきた。
帝国側に新しい兵が加わったらしい。
射撃の質が変わったという噂が、
前線のあちこちでささやかれている。
本日の任務は、第二防衛線の補強と見張り。
戦闘は起こらなかったが、
静けさがいつもより重い。
敵が動いていないときほど、
嫌な予感だけが濃くなる。
観測所から見える森の縁が、
やけに暗く感じた。
風の流れが変わり、
葉の揺れ方が昨日と違っていた。
こういう違和感は当たることが多い。
午前九時すぎ、
北方の斜面から断続的な銃声。
距離があるので状況は分からない。
撃ち返す音は少ない。
帝国側の射撃が勝っているのか、
あるいはこちらが下がっているのか。
前線の兵が二名、
急ぎ足で後方に向かった。
片方は腕を押さえていた。
血が布に滲んでいたが、
本人は「掠っただけだ」と言い張っていた。
嘘だと分かったが、
指摘しても仕方がない。
昼過ぎ、
偵察の戻りが「敵の動きは少ない」と報告した。
しかし報告の声は落ち着いていなかった。
何かを見てきた顔だ。
射撃訓練を兼ねて、
弾の湿度を確認しながら三十発だけ撃った。
風の向きを読む感覚が少し鈍くなっていた。
ここ数日の緊張で、
身体のどこかが固まっている。
夕方になり、
北斜面の銃声が完全に途絶えた。
戦闘が終わったのだろう。
勝ったのか負けたのかは分からない。
ただ、
“何かが動いている”
という感覚だけが、森に残っていた。
本日の行動は以上。
―― 河合 慎




