日本內戰錄 第十七號記錄 ― 斜面交戦 ―
八月五日。
傷は完全ではないが、歩く分には問題ないと判断され、
大淵中隊への転属が言い渡された。
前線の配置転換が続いているらしく、
手の空いている兵を集めているのだという。
大淵中隊は規律が厳しいと噂されていたが、
中隊長本人は思ったより淡々としていた。
「撃てるなら構わん」とだけ言われ、
弾薬と銃を渡された。
午前九時過ぎ、
北側の斜面に革命派の影が見えた。
数は七から十。
散開が速い。
鬱蒼とした森を利用して、
こちらの射線を断つ動きが徹底している。
大淵が「撃てる者から撃て」と指示。
狙いをつける時間は短い。
呼吸を整えるより早く、引き金を絞った。
一人、倒れる。
二人目も、肩を撃ち抜いた。
動きの速い三人目に弾が届いたのは偶然だ。
四発撃って三名。
そこからは、
自分でもよく覚えていない。
気づけば七名撃っていた。
だが、こちらの被害も同時に増えていた。
敵は撃ち返すだけでなく、
斜面下から回り込み、
味方の側面を抉った。
一人が胸を撃たれ、
次に、近くにいた兵の頭上で土嚢が砕け、
破片が顔を切り裂いた。
負傷者が一気に四名。
叫び声で射線が乱れ、
敵の姿が完全に見えなくなった。
大淵が撤退を命じた。
押し返せる状況ではなかった。
敵も深追いしてこなかったが、
撤退路の土埃の匂いが、
しばらく喉に張りついた。
七人撃った。
だが勝った気はしない。
味方が倒れる音の方が、
まだ耳に残っている。
―― 中原 光太
八月五日。
午前九時十二分、
斜面上部の樹列に複数の革命派兵力を確認。
散開速度が速く、
一斉射撃ではなく局所的な攻撃意図が見えた。
新たに配属された中原は、
射撃に関しては申し分ない。
位置取りと呼吸が整っており、
初弾から三射目まで無駄がなかった。
射撃結果は七名。
数字だけ見れば優秀だが、
戦局はそれだけで決まらない。
敵は撃たれながらも、
こちらの側面を探っていた。
撃ち返すだけの部隊ではない。
下方の茂みを利用して、
三名ほどがこちらの右側へ入り込んだ。
右翼の警戒が遅れ、
一名が胸部貫通で倒れた。
続けて二名が負傷。
負傷兵の移動が混乱を招き、
射線が互いに干渉した。
このまま戦闘を続ければ、
味方の損耗が増えるだけだと判断。
九時二十五分、撤退命令。
敵は追ってこなかった。
おそらくこちらの損害を見て、
十分な成果と判断したのだろう。
撤退後、中原は黙っていた。
七名を撃ち倒した者の顔ではなかった。
撃った数と損害の釣り合いを、
兵は本能で理解する。
数字で勝つか負けるかではなく、
“持ちこたえた”だけの戦闘だった。
本日の交戦は以上。
―― 大淵 貞男




