日本內戰錄 第十六號記錄 ― 補給再編成 ―
八月二日。
負傷から八日。
縫い合わせた脛はまだ引きつくが、
歩く分には問題ないと軍医が判断した。
「無理をするな」という言葉は、
前線に戻る兵には無意味だ。
補給班に復帰した。
本日の任務は、南西陣地への弾薬と食料の運搬。
普段と変わらない仕事だが、
昨日までとは違う感覚が残っている。
森に入った瞬間、
右足が勝手に強ばった。
あの日、
脛を撃ち抜かれた音が
木々の奥から聞こえてくる気がした。
仲間に悟られないよう歩いたが、
視界の端に動きがあるだけで
喉が乾く。
補給兵は撃たれない、という嘘は
もう頭では信じていない。
道中で聞こえた小鳥の羽ばたきに
一人が銃を構えかけた。
その瞬間、胸が跳ねた。
自分でも驚くほど大きく。
「黒田、大丈夫か」
後ろの兵に声をかけられ、
適当にうなずいた。
大丈夫ではないが、
言葉にしてもどうにもならない。
補給地点は無事だった。
警戒兵が二人眠そうに立っていて、
荷を下ろす間、何度か周囲を見回したが、
敵影はなかった。
だが静けさの方が不気味だった。
撃たれる前も静かだった。
帰路、
坂井が医療所の前で誰かに指示を出しているのが見えた。
あの日と同じ布の屋根。
視界の奥が少し揺れるような感覚があった。
撃たれた痛みより、
“撃たれるかもしれない”という感覚の方が重い。
それが身体に残った傷だ。
今日の補給任務は完了した。
怪我人なし。
だが、明日も同じとは限らない。
前線は、
いつも昨日と少しだけ違う。
―― 黒田 翔




