日本內戰錄 第十五號記錄 ― 七月三十日・狙撃観測点 ―
七月三十日。
夜明け前に指定された丘へ移動し、
観測と狙撃を命じられた。
ここは前線の南端で、
帝国側の陣地が森の切れ目に沿って伸びている。
射撃姿勢を取る前に、
風を一度深く吸った。
湿気のある南風。
弾がわずかに流れる。
視界に入るのは土嚢と天幕の影。
敵兵の動きは見えにくい。
だが、斜面の上を行き来する土煙で
人数の多さだけは分かった。
射撃命令は下りていない。
撃つかどうかの判断は、
俺に任されている。
午前七時二十二分、
帝国兵が二名、
斜面の中腹を横切った。
距離は二百五十。
息を殺せば当てられる。
だが撃たなかった。
二名を撃ち取るより、
敵の配置の仕事を止める方が大事だと判断した。
あの二人の動きだけでは、
何を狙っているのか判断できなかった。
八時頃、
森の奥で断続的に銃声。
おそらく北側の部隊が交戦している。
反響で距離はつかめない。
敵の狙撃手がこちらを探している気配があった。
双眼鏡のレンズがかすかに光り、
その角度が一定で止まっていた。
撃てなくはなかったが、
こちらの位置が割れれば終わりだ。
今日は撤退路が悪い。
午前九時四十分、
帝国側の兵が一名、
担架で運ばれていくのが見えた。
包帯が腹部に厚く巻かれていた。
撃たれたのは、
今朝の北側の戦闘かもしれない。
狙撃手は敵兵の死を数える仕事だ。
だが今日に限っては、
撃つ必要がなかった。
撃たずに状況を読み、
部隊全体に危険を近づけないことの方が重い。
部隊に戻る途中で、
汗が冷えているのに気づいた。
一発も撃っていなくても、
身体は戦闘していたらしい。
本日の観測および狙撃行動は以上。
―― 榊原 明良




