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日本內戰錄 第十三號記錄 ― 医療所待機 ―
七月二十七日。
まだ歩けるが、走ると傷が引きつく。
軍医は「三日は無理をするな」と言った。
だが三日も寝ていたら、部隊がどうなるか分からない。
包帯の内側で脈が響くたび、
あの日の森の影が浮かぶ。
撃たれた瞬間の音より、
相手の“こちらを狙う気配”のほうが残っている。
医療所は静かだ。
外の砲声が布の屋根を震わせ、
隣の兵がわずかに身を縮めた。
彼は昨日、胸を撃たれたらしいが、
まだ意識があるだけ運は良い。
向かいの兵は顔を撃たれた。
鏡を手渡されても見ようとせず、
靴先だけを見ていた。
戦場で撃ち合うより、
この“待つ時間”の方が遥かに長い。
何もできないまま呼吸だけが続き、
生きている理由すら曖昧になる。
部隊から伝令が来た。
「状況により後方勤務の可能性あり」。
降格なのか保護なのかは分からない。
ただ、前線に戻れない兵は
静かに部隊から薄れていく。
まだ終わっていない。
撃たれた程度で線を引かれたら困る。
屋根の隙間から光が落ちている。
外は晴れているようだ。
だが、その陽の下で今も
誰かが撃ち、誰かが倒れている。
森の向こうに、
あの日撃ち逃がした相手がいるかもしれない。
その事実だけは、傷より深く残った。
回復したら戻る。
戻らなければならない。
―― 中原 光太




