日本內戰錄 第十二號記錄 ― 七月二十五日・補給路掃討任務 ―
七月二十五日。
昨夜のうちに補給路の掃討任務を言い渡された。
黒田たちが襲われた地点に、敵が残っている可能性が高いらしい。
医療所で黒田の生存を確認したが、あいつは目を覚ましても
「別に死ななかっただけだ」とだけ言った。
それ以上は何も話さなかった。
森は湿気がひどく、歩くたびに泥が足を奪う。
補給路と呼ばれてはいるが、実際にはただの獣道だ。
昨日の銃撃戦の痕跡は鮮明で、木の皮に残る弾痕の角度から
敵がどの方向に展開していたかまで分かる。
弾が乾ききっていない箇所もあり、
時間の経過があまりないことを物語っていた。
斥候が手信号で停止を示した。
全員が膝をついた瞬間、森の奥からかすかな鉄の擦れる音。
あの金属音──銃のスリングが枝をかすめる音に近い。
敵の残りがいる可能性が高い。
こちらは六名。
向こうの数は不明。
ただ、深追いしてくるタイプではないと黒田の話から推測できる。
奇襲をかけて、被害が出たら撤退する。
帝国側の小隊は、そういう戦い方が多い。
茂みの奥で影が動いた。
撃つべきか判断がつかなかった。
迷った瞬間、影のほうが早かった。
乾いた発砲音。
俺の左横の兵が跳ねるように倒れた。
頭ではなく肩を貫かれたらしいが、声が出ないほど痛んでいる。
反撃。
その二拍目で、俺は木の幹の陰に身を押しつけた。
弾は飛んでこない。
敵は一発撃って逃げたようだ。
負傷兵の止血を済ませ、周囲の確認をしたが
敵の足跡は浅く、途中で途切れていた。
方向は北西。帝国の補給所のある方角だ。
本部に報告を上げるべきだが、
追跡は命令に含まれていない。
今動いても無駄に森で迷うだけだろう。
帰路の途中、医療所の屋根が見えた。
あの中に黒田が寝ている。
あいつは今、何を考えているのだろうか。
負傷兵を運び込み、
坂井が迷いなく処置を始めるのを見て
ようやく息が落ち着いた。
戦闘というより、
“森に潜む何かに触れただけ”の一日だった。
―― 河合 慎




