少しの変化
クラリス公爵令嬢との小競り合いがあった後。
少しだけ変わったことがある。
「ユリさんは、今日も図書館に行くの」
「うん、ミリィさんも来る?」
ミリアム嬢と愛称で呼び合うようになり、前世で言うタメ口で話すようになった。
彼女はやっぱり自然と肩の力が抜ける相手だし、こちらに警戒心を抱かせない。
たまーに眉をしかめるご令嬢がいるけど、この学園、意外とフランクに話す方も多くて気にしないことにした。
そして、
「今日は、その意匠の本を読まれるんですか」
「あっ、エマさん。今日も図書室にいらしてたんですね」
「えぇ、どうしてもお嬢様が学校にいらっしゃる間、時間が空くもので」
「そうなのですね」
「そちら読み終わられたら私も読んでみてもよろしいですか」
「もちろんです。面白いかどうかわかりませんが」
エマさん…、学園に通うご令嬢に着いて来ている侍女の方。
たまたま前を歩いていたエマさんが落し物をして拾ったのが縁で時々お話をするようになった。
どのご令嬢の付き添いかは知らないけれど、落ち着いていて話しやすい雰囲気だからか声をかけられたら話をしてしまう。
「サントス伯爵令嬢様は、ファッションにご興味があるのですか」
「そうですね。王都に来るとオシャレな方も多いので興味を持ち始めたばかりなんです」
必要な…嘘ってあるよね。
「興味を持ち始めたばかりで、それだけオシャレなら将来は社交界の流行をリードされるでしょうね」
うぅ…、多分高位のご令嬢の侍女なんだろうな。
観察眼が本当に鋭い。
「そろそろ、授業に行かれなくて大丈夫ですか」
そう聞かれてミリアム嬢と時計を見ると授業開始10分前で慌てて教室に向かう。
授業開始ギリギリに席に戻ると隣の席から声をかけられる。
「君がこんなにギリギリに戻ってくるなんて珍しいね」
「ちょっと、図書室で知り合いの方にあったので」
「へぇ、それもどこかのご令嬢なのかな」
「さぁ、それはどうでしょうね」
「教えてくれてもいいじゃないか。商売敵なわけだから」
「別に、私はそういう風には思ってないですけど」
「君は、本当に欲がないなぁ。僕の商会を倒せたら君の叔母さんたちの商会が潤うじゃないか」
「以前にも言いましたが、私はそれぞれの得意分野で活躍できたらいいと思いますよ」
あのクラリス公爵令嬢との騒動から、エドガー様がすごく、気安く、話しかけてくるようになった。
エドガー様は、今年からアレクシス王太子殿下の政策で優秀な平民の方も特待生として学園に入学できるようになった。
一応、説明では身分の差なくとは言われてたけど、どうしても平民の方が通うには敷居が高いらしい。
そこで、学年に3人ほど優秀な方を特待生として招くことになったと聞いている。
だいぶ、揉めたらしいけどまずは王太子としての政策として推し進めたらしい。
それで入学されたのがエドガー様とあと2人はCクラスにいるらしい。
「にしても、毎回洋服に関する本なんだね」
「おしゃれは詳しい方がいいと思うので」
「ふーん、十分おしゃれだと思うけどね」
そう言われて何か返事をしようと思ったら先生が入ってきて前を向く。
ファッションデザイナーの端くれとしては、おしゃれと言われてちょっぴり嬉しくなった。
でも.…、変わったことは、それだけじゃなかった。