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私は、ロイド達に気づいてないふりをするように伝えて、三人で作業をしているふりをする。
ヒールの音が私たちのいる部屋の前で止まった。
――カツカツ。
一瞬とも舞った足音が、建物の奥に向かっていく。
全員が緊張を解いて息を吐こうとした瞬間だった。
奥に行ったはずの足音が戻ってきて、ドアが開く。
「あなた達は誰なの?」
「昨日からお世話になっている者です。先ほど、この階の指示役の方に書類を仕分けて箱に詰めるように指示をもらいました」
ターニャが私たちの前に立って、叔母様に対峙する。
「そうなのね。あなたたち文字は読めるの?」
「いえ、数字は分かりますが文字は読めません。そのことは指示役の方にも伝えてます」
「そう……大事な帳簿もあるから決して雑に扱わないようにね」
「はい。かしこまりました」
三人で頭を下げると、足音が遠ざかっていく音がして顔を上げる。
とりあえず、急いで三人で数字だけを合わせて箱に詰める。
しばらくして、ほとんどの帳簿を箱に仕舞い終わるとロイドに箱を運んで先に降りてもらった。
最終確認をしていると、またヒールの音がする。
ターニャと気にしていないふりをして作業を続ける。
扉が開いて、入ってくる叔母様が急に手を伸ばして私のウィッグを掴む。
「もしかしてと思ったけれど、やっぱりユリアーナだったのね!」
掴まれたウィッグが叔母様の手の中にいき、私の黒髪が見えるようになる。
そうすると、きつめに私を睨んできたけれど私も睨み返す。
「なんて目で見ているの! 本当に生意気! あの弟と弟嫁の娘だけあるわね!」
何も言わないで私は、ただ叔母様を睨む。
「あんたがロゼリアン公爵家の令嬢と仲良くなったせいで私の計画がぶち壊しよ」
「叔母様の計画ですか? そんなの私に関係ないですよね?」
言い返すとそれも面白くないのか眉間に皺を寄せる。
「あんたが今まで通り人づきあいが苦手で誰とも関わらなかったら、私はこのまま国一番の商会の副商会長から、流行を生み出す貴族の中心として返り咲けたのに!」
「そんなに貴族社会は、簡単なものではないでしょうに……」
私が呆れるようにそう言うと叔母様は、私の髪を掴んでくる。
ターニャがこちらに来るのが見えたので、手でバレないように制した。
ここで、私とターニャの繋がりがバレるのは、絶対にマズイ。
「社交なんてしてこなかったあんたに何が分かるのよ!」
「何もわかりません! それでも、学園で保守派のご令嬢と戦えるだけのものは持っています」
「そういう生意気なところも本当に! 弟夫婦に似て腹が立つわね! あんたがクラリス様と揉めて侮辱したからこんな危険な橋を渡る羽目になったのよ」
「私のせいにしないでください! 叔母様が見誤ったからでしょう!」
叔母様の怒鳴る声に商会員たちが集まってくる。
ベテランの商会員が、ターニャをこの場から引き離してくれた。
横目で確認だけをして叔母様をじっと睨む。
この人にとって、私のデザインも貴族社会で影響力を持って返り咲くための道具だったのだと思うと、悔しくて仕方がない。
叔母様に言わせれば、私がクラリス嬢に口げんかで買ってプライドを傷つけたから、保守派の中での立場を守るためにこのようなことをしたと言いたいのだろう。
だけど、それだって自業自得だ。
私に言えばお父様に伝わるから話さなかったのだろう。
自分が保守派であることも彼らに協力してやっている悪事についても……。
「何を騒いでいるんだ!」
出来上がった人垣をかき分けて一人の男性だ現れる。
それは、叔父様だった。
彼は、私を見ると大きく目を見開いて驚く。
「ユリアーナ……」
「なんですか? 叔父様がこの階の手伝いをするように言われたのですよ?」
私がそう言うと、叔母様が叔父様に文句を言い始める。
でも叔父様はそれどころではなかったらしい。
さっき直しておいた隠し扉の仕掛けを作動させて、扉を開ける。
もちろんそこには、『何も入っていない』。
「ここにあった帳簿をどこへやった?」
「さぁ、存じ上げませんわ」
あえて令嬢として返事を返すと叔父様と叔母様が私を睨んでくる。
叔父様に文句を言うために私の髪から手を離してくれていたので、埃を掃って立ち上がる。
反撃をするにしてもさすがに人が多すぎる。
女性たちは、奥に追いやられたり持ち場に戻されていて、目の前にいるのはチンピラみたいな商会員数名と叔父様と叔母様。
私としてはやりたいことはもうできているから、ここは大人しくする。
「そんなわけないだろう!」
「私は、私の友人を救うために信念を持って行動するだけです」
そういうとどこに帳簿を送ったのか想像ができたのか、二人の顔が青ざめていく。
わなわなと震えながら叔父様が声を振り絞る。
「こいつをあの家の地下に捕まえろ」
叫ぶ叔父様の声に反応したチンピラにあっさりと捕まってあげて、目隠しをされた。
私がしたかったのは時間稼ぎだ。
だからこれで大丈夫なはず……。
――グランヴァルト商会の方から包みを抱えて走る少年が一人。
彼は学園の門の前に着くと、サントス伯爵家の印章を見せて門兵に伝える。
「サントス伯爵令嬢ユリアーナ様からのお使いでヴォルマー商会のエドガー様にお届け者です」
門兵は、彼の見せた紋章が本物であることを確認するとエドガーを門まで呼んできた。
「ユリアーナ様からの届け物ということだね。中身の確認をしたいから応接室に来てもらってもいいかな」
「かしこまりました」
エドガーに先導されて男子寮の応接室に着くとそこには、この国の王太子がすでに座っていた。
「王国の次世代の太陽にご挨拶申し上げます」
入ってきた少年の完璧な礼節にその場にいた全員が驚く。
しかし、少年が持って来た荷物がさらに彼らを驚かせた。
「これは……」
王太子が驚きながら少年を見る。
「グランヴァルト商会、副商会長の執務室に隠されていた『原石』とかかれた行方不明の子どもたちの取引名簿です」
その帳簿には、子どもの名前や出身領、どこに売られたのかが明記されていたのだ。
そして、その販売の仲介として名前が書かれていたのがロゼリアン公爵家。
その下には、元締めとしてクラリス嬢の生家であるオレリアン家の名前があった。
「ユリアーナ様は! 無事なのか」
エドガーの問いかけに少年は、俯く。
そんな少年の様子に部屋の中の空気が重たくなる。
「ユリアーナお嬢様は、俺がここに来る時間を稼ぐために……囮になられました」
――バンッ。
「それは、本当なのか?」
突然現れた隣国の皇子は彼の肩を掴みながら大きく揺さぶる。
その問いに、少年はただ……悔しそうに涙を流しながら頷くだけだった。




