急展開
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先週に引き続き、クララさんたちの工房へ行った帰り。
ビルさんの運転する馬車で寮まで戻るといつもよりも騒がしい雰囲気だった。
「学生の寮というのは、賑やかなんですね」
ビルさんにそう言われたけれど、夕食前のこの時間に玄関ホールがあんなに賑やかなことは、今まで一度もない。
「いえ……普段であればこの時間は出かけていた令嬢たちが戻ってくるだけなので、こんなに騒がしくはないです」
「お父さん……裏の商会用の方が良くない?」
「そうだな……。ユリアーナ様、様子が違うのであれば裏に馬車を回しましょう」
クララさんがビルさんにせっかく提案してくれたけれど、少し遅かったようだ。
何人かが、馬車に気が付いて誰が出てくるのか……様子を伺っている?
「クララさん、ビルさん、ありがとうございます。ただ、見つかってしまったみたいなので私はここで降ります」
「あっ……もう少し遠くで気がつけばよかったのですが申し訳ありません」
「いえいえ、普段来ないところですもの。送ってくださってありがとうございます」
私はそう言うと、クララさんが扉を開けてくれたのでゆっくり降りる。
二人にお礼を言って、寮に向かって歩き始めるとクラスメイトの方たちが近づいてきた。
「ユリアーナ様……どちらに行かれていたのですか?」
「アイリーン様とはご一緒じゃないのですか?」
「さっきの方たちはグランヴァルト商会の方々ですか?」
矢継ぎ早に質問をしてくるご令嬢たち……。
いや、そんなに質問されたら私答えられませんよね?
――バサッ。
鮮やかな黄色に白い百合の花が描かれた扇子を音を立てて開くと口元へ持ってくる。
「皆さん、落ち着いてくださいませ。そんなに色々聞かれても答えられませんわ」
私がそういうと彼女たちは石のように固まってしまった。
「まず、先ほどの方たちは今お世話になっている職人さんです。我が家の妹へのプレゼントを選んでいて職人から厳選していますの」
そう言って、質問してきたご令嬢を見ると分かったというように首を縦に動かしてくれる。
「それと私の個人的な用事なので、アイリーン様はご一緒ではありませんわ」
それだけ答えると私は寮の中へ入る。
やはり普段と違って、そこかしこで令嬢同士が固まっておしゃべりをしている。
不思議に思いながらも旦自室に戻っているとと私の部屋の前にミリィが立っていた。
「ミリィ! あなたどうしたの?」
「ちょっとお話があります」
真剣な顔でそういう彼女を私の部屋に招き入れる。
「話って今寮内が変な雰囲気なのと関係がある?」
「はい。王妃様に不貞の嫌疑がかけられたの」
「……はい?」
不貞の嫌疑?
なぜ今……というかそんな無謀なことがあるだろうか?
公務には常に一緒に行かれているし、寝室も一緒だと聞いている。
国王陛下と離れている時間なんて日中だけではない?
「もちろん嘘なんだけど……」
「そうよね? なんでそんな嘘がこんな大騒ぎになっているの?」
「大騒ぎにすることが、目的だったみたい」
「どういうこと?」
「今日もルーカス様と保守派の集まりに行っていたの」
「うん。今日もあるって言っていたものね」
「寮に戻ってきたら急に険しい顔をしたルーカス様にいつもの地下室へ連れていかれて、そこにはアレクシス殿下たちもいらっしゃって……」
「うん。それで」
「保守派の集まりで話してたんだって……明日の貴族議会で王妃様の不義の疑惑の追及をするって」
「それは、ルーカス様がどこかの当主から聞いたのよね?」
「えぇ……ただ私たちみたいな学生ももちろんその集まりにはいたから……」
「人の口に戸は立てられぬってことね」
「私が寮に戻った時には、もう噂として話が漏れていたわ」
不用心というか……これで間違っていた時に自分が罪に問われるという意識がないのかしら?
誰が話したのかは、分からないけれど……この状況はまずいのは分かる。
「リーンは?」
私がそう聞くとミリィが横に首を振る。
「リーンは、今日ロゼリアン公爵領へ帰っていてその場にはいなかった。でも殿下の侍従の方が早馬で向かわれたから状況は知っていると思う」
さっき私に近寄ってきた令嬢たちも私から何か情報が欲しかったのだろう。
だって、リーンが不在なのだ。
彼女と仲の良い私やミリィに聞くのが早いと思うのもうなずける。
「ルーカス様が話すには、王妃殿下の疑惑なんて調べなくても嘘だってわかることだけど、騒ぎにして王家をかく乱したいのではないかって言われていたわ」
「王家をかく乱……ね」
南部の子どもたちの件で、国が動いている。
それで、保守派としても何かを隠す時間が欲しいのだろうか。
推理とか謎解きって苦手なのよ。
「私が思うに『陽動』なのではないかと思うんです」
「それはどうして?」
「別にバレる嘘じゃないですか……今回の疑惑は。そうなると彼らはこの騒ぎに紛れて何かしたいことがあるんだと思う」
「トカゲのしっぽ切りでも始めるつもりなのかしら?」
いつになく冷静に言葉を紡ぐミリィに驚く。
――コンコン。
部屋の扉がノックされる。
私とミリィが固まっている。
念のため護身用の短剣を握って、扉を開けるとそこにはフードのついた上着を着たリーンが立っていた。
「早く入って……」
「リーン! 大丈夫だった?」
「えぇ……アレクシス殿下が報せを下さって、王城へ行ったのだけれど怪しまれるから帰るように言われてしまったわ」
「でも、そんなフードを被っていたら逆に目立たない?」
「大丈夫。私もエマも裏口から入ってきていて……玄関前に生徒が多いのかこの辺りは誰も居なかったわ」
「エマさんは?」
「私の部屋にいるわ。誰か来たときに対応してもらえるように置いてきたの」
「そうなのね……これからどうするの?」
疲れ切った顔をしているリーンに、アイスティーを差し出すと一気に飲み干された。
「国王陛下もなんでそんなバレる嘘をって頭を抱えていたけれどすぐに対応はされるわ」
「それならよかった……」
「でも、陛下も不気味がっていたし、アレクシス殿下も目的が分からないから悩まれていたわ」
「そうよね……」
「殿下から、二人も気を付けるようにと言われたわ」
「わかったわ」
重苦しい空気が漂っているのが嫌だったのかそのあとはたわいもない話をして、深夜に二人は各々の部屋へ帰っていった。
翌日、あんなことが起きるなんて、この時は誰も予想していなかった。
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