一体……
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私は突然のノックの音に驚いて固まってしまう。
しばらく、無言の時間が続いたその瞬間だった。
「ユリアーナ様。ポリーです。副商会長からユリアーナ様経理のことを教えるように言われてまいりました」
ドアの前から聞こえた声に驚いて、さっきまでポリーがいたところを見る。
――彼女の姿はなく、閉まっていたはずの三階の窓が開け放たれているだけだった……。
私がその光景にまた身動きが取れなくなっていると、書庫の入り口が開く。
そちらに目をやると、ブラウンの髪を三つ編みにした、丸メガネの可愛らしい女性が入ってきた。
「ユリアーナ様、よかったです。同僚がこちらにご案内したと言っていたので」
そう言いながら彼女は、手早く数冊のノートを私の前に置く。
「経理の事は初めてだとお伺いしておりましたので、私なりに簡単にまとめてみました」
「ポリーさん、ありがとう……ございます。その、あなたに私の居場所を教えてくれた親切な同僚さんはどんな方でしたか?」
「どんなと言われると難しいですね。その……どこにでもいそうな平凡な子なので」
そう言いながら私に見せる為に持ってきてくれた書類を並べてくれる。
私は、ふとさっきまであった不正の証拠のことを思い出して、目線をさまよわせたけれど……そこには何も置かれていなかった。
さっきの彼女は一体誰だったのか……。
思い出そうにも彼女の顔が思い出せない。
彼女が言っていたことのどこまでが本当なんだろうか……。
ポリーさんの説明は、エドガーさんが話してくださったことが中心だった。
「もしかして、経理のことはご存じですか?」
「はい。実は経済学の授業を受けようと思って、勉強をしていたんです。でも、ポリーさんの丁寧な説明、とても分かりやすいです」
本当に丁寧に説明をしてくれるので分かりやすい。
なにより話しかけやすい雰囲気なので、疑問をすぐに聞けるのはありがたかった。
エドガーさんの教え方が悪いわけではないけれど、スパルタなのよね……あの人は。
そんなことを想いながら、各項目や今の相場の金額などを聞いていく。
ポリーさんの出される資料は、エドガーさんに聞いていたものと何も遜色がないものだった。
怪しい点は一つもないのだ。
そうなるとさっきの怪しい帳簿が気になってくる……。
書き写したノートは鞄の中に閉まっているので、目の前の彼女にバレてはいないはず。
ひと段落したところで、私は彼女に質問してみた。
「ポリーさんは、グランヴァルト商会の経理を担当していらっしゃるんですか?」
「そんな! 私なんて商会長と副商会長に頼まれてたまにお手伝いさせていただく程度です」
「そうなんですか? 教え方もお上手ですし、とても見やすくまとめていらっしゃるのでずっと経理なんだと思っていました」
「私もそうなれたら嬉しいんですけど、商会長と副商会長が優秀過ぎて、経理は繁忙期以外はお手伝いすることないんです」
「へぇ……。そうなんですね。では、ポリーさんは普段は商会でどんなお仕事をされているんですか?」
「基本的には、在庫の搬入と簡単な物の管理ですね。高価な物になると商会長が管理されているんです」
「在庫の管理を任されるなんて、ポリーさんが誠実で真面目だと評価されているんだと思いますよ」
「そんな風に言われたの初めてなので、とても嬉しいです」
……普段は、叔父様と叔母様しか経理の仕事をしていないとなると、隠蔽なんてし放題ね。
それに高価な物の管理を叔父様がしているのか。
それなら、帳簿に書いていようと書いてなかろうと困ることは無い。
もし、あの謎の帳簿に書かれていたことが、本当なのだとしたら『原石』と書かれていたあれは……何を指していたのだろう。
私が考えているとポリーさんが机の上を片付け始める。
「さすがに詰め込みすぎるのは良くなかったですね。もう外も夕暮れですし今日はこのくらいにされておきませんか?」
そう言われて、外を見ると綺麗な夕日が見える。
「お気遣いありがとうございます。あの……来週も色々と教えていただきたいのですが、ポリーさんのご予定は空いてますか?」
「来週ですか……確か隣国へ行く商隊の荷物を詰め終わってからになりますが、それでもいいですか?」
「はい。私は教えてもらう立場ですから! ポリーさんに予定は合わせます」
「それでは、副商会長にお伝えしておきますね」
「はい。ありがとうございます」
私は、ポリーさんにお礼を伝えて寮に戻る。
寮の部屋で、書き写したノートをまた書き写す。
こうすることで一つが無くなっても、困ることは無い。
殿下にもお渡ししないといけないしね。
書き写し終わると私は、机に肘をついて考える。
どっちのポリーが本物なのかというのは、愚問だ。
帰るときにポリーさんと一緒に居たら、すれ違う商会の人たちが彼女を『ポリー』と呼んでいた。
だから、あとから来た人が本物のポリーさん。
じゃあ、私をあの部屋に案内した彼女は一体……誰だったのだろう?
――王都のシンボル時計塔の上に二つの影があった。
「ユリアーナ様に、私が見つけた不正の証拠を見せることはできました」
「そうか……これで――様も動きやすくなる」
「えぇ……きっと、――様は納得してくださるでしょう」
「あとは、早く平和になればな。あの方が今よりも自由に動くことができるようになるだろう」
二つの影はそのまま二手に分かれて夜の闇に消えていった。
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