素敵な出会い
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叔母様の商会を出てから遠回りをして、職人街の方へ歩いていく。
正直、もう叔母様を信じることはできない。
だから、商会から付けられていてもいいようにわざと寄り道もしてみたりした。
エドガーさんがくれたメモの住所を見た時も驚いた。
なぜなら、紹介していただいた工房と生地の卸業者は、隣同士にあるのだ。
大きなミシンの音がする工房ではなく、黄色いレンガ造りの店舗の方に入る。
一歩店内に踏み入れる。
中央に大きな木のカウンターがあり、その奥にはたくさんの生地が棚に並んでいた。
「いらっしゃいませ」
「あの、ヴォルマー商会のエドガーさんからこちらを紹介をされて来たのですが……」
私がそう伝えると、顔を明るくしてカウンターからこちらに出てくる。
「ヴォルマー商会のお坊ちゃんが、話していた新人のデザイナーさんですね」
そう言って、クララさんは目をキラキラさせながら私の手を握ってくる。
ブラウンの髪にグリーンの瞳が綺麗で、シンプルなシャツにパンツスタイルの彼女は、私と同じくらい興奮しているようだった。
「あなたのデザインをお坊ちゃんから、見せてもらいました。斬新なのに『これを作りたい』って職人魂をくすぐられました」
ど、どうしよう。
私が貴族だって聞いてないのかしら…。
でも、それを伝えて距離ができるのは、少し嫌な気がする。
「私の名前はクララと言います。工房に母のマーサが居るので紹介します。付いてきてください」
クララさんは、私の手をそのまま引いて隣の工房に突撃していく。
「お母さん、ユリアーナ様がいらっしゃったよ」
クララさんが大きな声で叫ぶと工房の奥から慌てたように女性が走ってくる。
「クララ! ユリアーナ様の事をまさか引っ張ってきたの! ユリアーナ様、クララが大変失礼をして、申し訳ございません」
マーサさんは、こちらが恐縮するくらい謝ってくれて戸惑う。
というか、マーサさんの言っていることが本当なら――もしかして、貴族だと知っていたの!
驚いてクララを見ると、「忘れてた!」と言わんばかりの顔をしていた。
「マーサさん、頭を上げてください。クララさんも接し方は今のままで大丈夫です。私の方が年下ですし、その……。私が趣味で描いたデザインを褒めてもらえて嬉しかったので……」
「ユリアーナ様のデザインは、本当に素敵です。あんな新しいラインのドレスや素敵な構図! 私が選んだ生地で作られるなんて、考えるだけで興奮します」
「私もファッションの事を話せるお友達ができたみたいで、嬉しいです」
私がそう言うと、クララさんが、ぎゅっと抱きついてくる。
さっき叔母様に抱きしめられた時の不快感とは真逆の、温かな安心感があった
「クララ! 本当にやめなさい」
「はーい」
そう返事をして、クララさんが離れていくと、マーサさんが私の目の前に来た。
クララさんと同じブラウンの髪にグリーンの瞳。
シンプルな水色のワンピースに白いエプロンをしている。
「ヴォルマー商会のエドガーくんから、他にも二枚デザインがあると聞いています。本日お持ちですか?」
そう言われて、慌てて鞄からデザインを描いたスケッチブックを見せる。
「エドガーさんにお渡ししたのはまだ仮の物で、こちらが作りたいドレスのデザインの完成画になります」
私がそう言って、二人の前にスケッチブックのページを開いて見せる。
「拝見してもよろしいですか?」
「はい、もちろんです」
二人の後ろでは、工房の職人さんたちがミシンで洋服を作っているのが見える。
そして、二人は真剣にデザインを見ながら、
「ここは、あの生地が……」
「この形ならあっちの生地がいいんじゃない」
など、相談をしていた。
しばらく二人のことを見ているとクララが急に走って店舗の方へ行く。
「大変失礼しました。お客様を立たせたまま……」
「いいえ、いいんです。後ろで洋服を作っている職人さんを見るのもマーサさんとクララさんを見るのも楽しかったです」
嘘ではないので、心からの笑顔で言うと、マーサさんが工房の奥に応接間に案内してくれた。
私が席につくタイミングで、びっくりするくらいの生地を抱えたクララが、部屋に入ってくる。
「ユリアーナ様のデザインを見て、合うと思った生地を持ってきました」
「学園のデビュタントパーティー用のドレスで、お間違いはないですか?」
「はい。その後、私の学園の卒業後になりますが、私がブティックを開いたときにそのブランドの服もお願いしたいです」
マーサさんの問いに、素直に答えたけれどマーサさんはゆっくりと首を横に振った。
「卒業後のお話をしてもらえるのは嬉しいですけれど……。それは今回の仕事の出来を見てから決めてください」
その横にいるクララさんもマーサさんの言葉に同意するように頷いている。
二人はしっかりとプライドを持って、このお仕事をしているんだ。
なら、私はこの二人の気持ちをしっかり受け止めないといけない。
「わかりました。では、今回のデビュタント用ドレスの出来で、また話をしましょう」
「はい。おまかせください」
そう言うと、クララさんがデザインを一つ一つ見ながら、生地を見せてくれる。
ヘアアクセサリーや細部の刺繍糸まで、たくさんのサンプルを出してくれた。
クララさんもマーサさんも生地や糸の特徴を説明してくれて、すごく白熱した議論をすることができた。
こんなにファッションについて熱く語り合えたのはいつぶりだろう。楽しくて仕方がなかった
――、そうして話をしているとクララさんが驚いたように声を上げる。
「えっ! 外真っ暗! ユリアーナ様大丈夫ですか?」
その声に応接間の窓から外を見ると、大きな満月が見えていた。
「た、大変! 門限に間に合わないかも」
「まぁまぁ、ちょっと待っててくださいね」
マーサさんは、そう言うと誰かに声を掛けに出て行った。
「うちの父、私の生地の店の商品を運搬するのに馬車が運転できるんです。きっと、送ってくれると思いますよ」
「そんな! そこまでしてもらうなんて……」
「いいんです。私もお母さんもこんなに服の事で熱中できたのは久しぶりで……そのお礼だと思ってください」
「それなら、お言葉に甘えさせていただきますね」
そんな話をしていると、マーサさんが、旦那さんのビルを連れてきた。
クララさんの予想通り、ビルさんが送ってくださることになり、さすがに男性と二人きりだと良くない噂をされるかもとクララさんが付いてきてくれた。
「では、続きは来週で大丈夫ですか?」
そうクララさんに聞かれる。
「いいえ! 明日朝からお伺いします」
二人とファッションの話をした時間が楽しすぎて、食い気味に答えてしまう。
クララさんが、ぷっと噴出して笑ったのを見てハッとした。
「す、すみません。お二人にもご予定がありますよね」
恥ずかしくなって、慌ててそう言う私にクララさんが優しく声を掛けてくれる。
「大丈夫です。今、うちにとってユリアーナ様以上に大切なお客様は居ないので……。なにより、失礼かもしれませんが、お話しするのがとても楽しかったです」
その言葉が嬉しくて、胸の奥がぽかぽかする。
「私も、お二人と服の話をするのすごく楽しかったです」
「ありがとうございます。引き留めてしまい申し訳ありません。では、明日の朝。工房で母とお待ちしております」
そう言って、ビルさんが馬車を発車させる。
クララさんは、馬車が見えなくなるまで手を振ってくれた
門限ギリギリでの帰宅になった。
だけど、前世でブランドを立ち上げた時のように、お互いが情熱を持って進んでいこうとする空気を感じることができできて、興奮してなかなか夜寝付くことができなかった。
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