潜入開始
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あの会議から、それぞれが動き始めた。
ルーカス様からの助言で、私とエドガーさんは教室や学園内ではぎくしゃくしたように装っている。
「本人は、その気はなくても、親に話したことがそのまま保守派に伝わっていることは多い」
と言われてしまった。
叔母に教えていないのに、私の学園での交友関係を知っていたのはこのためらしい。
そして、もう一つ。
「もう、ミリィとは価値観が合わないですわ」
「私だって、リーンがそんなにわからずやだと思いませんでした」
「二人とも、落ち着いて」
「ユリもなぜ私にMuguetNoirの商品を譲ってくださらないの」
「さすがに、商品だからそんなことできないよ」
「ほら、ユリも困ってる。リーンは、わがままなのよ」
笑いそうになり、顔を伏せる。
少し周りを見回すと、クラスの全員が注目していた。
茶番が過ぎるのだけど、意外と多くの人が騙されているようだ。
そう、これからそれぞれが動くために仲たがいしたように見せる。
教室でこんなに大声出すのも恥ずかしいけれど……。
二人が大根役者過ぎて、面白い。
「もういいですわ。あなた達とは話しませんから」
そう言って、リーンが昼休みの教室から出ていく。
そして、私の手をミリィが引いて、リーンが言った方向とは反対に歩いていく。
「本当にこれで大丈夫なのかな」
私の手を取りながら歩く、ミリィが呟く。
私は後ろを振り返って、笑ってしまう。
「本人があんなに明るく歩いているのだから大丈夫よ」
リーン本人は、これから革新派や中立派の人たちと交渉するのを楽しみにしているらしい。
彼女は何と戦うつもりなのか……。
「それじゃあ、私はここで」
ミリィの声にハッとする。
ミリィはこれからルーカス様と人目のつく所で、交流を深めていくらしい。
外堀を固めていくというやつ。
「それじゃあ、また」
手を振って、ミリィと分かれて私は、エドガーさんとの待ち合わせ場所に向かう。
そこは、過疎化している商業クラブの部室。
部屋に入るとすでに、エドガーさんが資料を片手に待っていた。
「ユリアーナさん、まずは確認してほしい項目をまとめているので頭に入れてください」
「わかりました」
リストには、品目と大体の金額、どこの商会がいくらで売っているかの表が、5枚。
文字がびっしり書き込まれている。
これを覚えるのかと、彼の方を見るとにっこりと微笑まれた。
「不正を見抜くためですから、頑張ってください」
「……頑張ります」
結局、下校時間ギリギリまで必死に詰め込んで覚えた。
覚え終わると、それを燃やして処分した。
「ユリアーナさんに頼まれていた生地とそれを縫製するための工房を見つかました。どうされますか。実際に見たいですよね」
「そうですね。ぜひ伺いたいですね」
「ヴォルマー商会商会と繋がりが薄いところを選びました。それと父が今回は支援ということで我が商会が制作料と材料費は負担するそうです」
「えっ……そんな、悪いです」
「サントス伯爵領での孤児院との取引がうまくいってる御礼だと思ってください」
「ありがとうございます。ヴォルマー商会長にも、この件が終わり次第必ずお礼に上がります」
「わかりました。こちらを」
そう言って、私に小さなメモを渡される。
どちらも王都の職人区画にある。
週末、グランヴァルト商会に行ったあとに立ち寄ることにした。
――そして、週末。
今日は、私にとって初陣だ。
緊張が伝わらないように私はいつも通りのふりをする。
「叔母様、サンプルを見に来ました」
「ユリアーナ、いらっしゃい。こっちにサンプルを並べてるから見てほしいの」
叔母様の執務室に行くとサンプルが見やすいように並べてある。
荷物をソファーに置いて、ワンピースを手に取ると工房を変えたのか、縫製が荒い。
一度、全部見てみようと別の商品を手に取ると、珍しく話しかけられる。
「ローゼンベルグ公爵令嬢と喧嘩していると噂に聞いたわ」
週末の休み初日にその話を知っているなんて、叔母様に直接誰かが伝えているのかもしれない。
前までの警戒をしていない私なら、驚くだけで普通に話したと思う。
「やっぱり身分の違いがあるのか……。仲良くなりたかったのに残念です」
頬に手を当てながら言うと一瞬、にやりと笑ったのが見える。
「そうね。あなたのお父様もお母様も王都を嫌っているのか……王都に全く顔を出さないから、王都の貴族のマナーとか分からないことが多くなるわよね」
「そうですね。私もお兄様も学園に来るまでは、王都に来ることがありませんでしたし」
「そうでしょう。そうだわ、ユリ。私は社交界でも顔が効くから今度、王都の貴族の交流を教えてあげるわ」
……目的は分からないけれど、これに乗れば叔母の交友関係が探れるチャンスだ。
「えっ! いいんですか。叔母様にしか話せないんですけれど、私、卒業後は王都でブティックを開きたいと思っていて……でも、交友関係が狭いから不安だったんです」
私が大袈裟に喜んでみせると、優しい笑顔で近寄ってくる。
その笑顔は、目が笑っていなくて……本当に気持ち悪い笑顔。
「そんな夢があったのね! 教えてくれて嬉しいわ」
「はい。お父様に話すのは、反対されそうで怖くて……」
「そうね。あの弟ですもの、きっと反対するわ。でも、安心して、私はいつでもあなたの味方よ」
そう言って、私の事を抱きしめてくる。
気持ち悪い!
本当に気持ち悪い!!
吐き気がする!!!
叔母様がしていること、私のデザインを利用したことを考えると胸から込み上げる気持ち悪さをなんとか我慢する。
「ありがとうございます。私の味方は叔母様だけです」
そう言って、抱きしめ返すとすぐに離れる。
「私今日は、叔母様にお願いがありましたの」
「どうしたの。ユリがそんなこと言うなんて珍しいわね。なんでも私が叶えてあげるわよ」
『なんでも』――この言質を取った。
「さっきも話したように、将来はブティックを開きたいんです」
「えぇ、とっても素敵な夢だと思うわ」
「ありがとうございます。それで、生地の値段などを今から知っておきたくて、帳簿の書き方や見かたを勉強したいんです」
私がそういうと苦い顔をしたのを見逃さなかった。
やはり、何か隠していることがあるんだ。
「ユリは、どのくらい帳簿を読めるの?」
「全くです。領地でもその辺りはお母様やお兄様の管轄でお勉強もしていません」
まぁ、嘘ですけど……。
「そうなのね。なら少し見やすいように整理するから、来週からでもいい?」
これで、証拠を隠滅されるのは困る。
どうしたものかと悩むけれど、怪しまれないようにと考えるとここは頷くべき……よね。
「わかりました。ぜひ、お願いします」
私がそういうと、あからさまにホッとしたような表情になる。
「それと、こちらのワンピース。サンプルとはいえ、ほつれてますわ」
そう言って、最初に見ていたワンピースを叔母様に渡して、他の商品の確認に戻った。
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