二重スパイ
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リーンの部屋で目が覚めたのは、登校までぎりぎりの時間。
エマさんに目にも留まらぬ速さで身支度が整えられた。
ドタバタと始まった一日だったが、平和に放課後を迎えた。
全員が一斉に向かうと怪しまれるので、私たち三人は少し教室で時間を潰してから、昨日の部屋に向かう。
「さぁ、全員揃ったし昨日の話の続きをしよう。ユリアーナ嬢もミリアム嬢も大丈夫かい」
「はい。昨日は取り乱してしまい申し訳ございませんでした」
私とミリィが声を揃えて言うと、アレクシス殿下は、私たちを優しいまなざしで見る。
「いや、どう考えても君たちに負担のかかるようなことを伝えたのは僕だ。だから、気にしないでくれ」
そういうと、大きな紙を広げる。
それは、我が国と隣国の地図だった。
何か所かに色分けされてピンが刺さっており、それを不思議に見ているとアレクシス殿下の言葉が続く。
殿下の説明だと、このピンは南部にあるグランヴァルト商会の支店を表しているらしい。
殿下の調べによると、どこの支店も領地の運営が怪しく貧困地域が放置されている場所だという。
そして、そういう領地では人の統計が甘く人が消えても気づかれにくいらしい。
そこまで説明を聞くと隣のミリィのきつく握られた拳を私とリーンが包む。
「ミリアム嬢。君にとって領地を健全な姿に戻すのはとても大変な道だと思う。それでもやるかい」
少し覚悟を試すように殿下がミリィに聞くけれど、殿下に対して真摯に目線を合わせる。
「はい。これは領地から目を背けた私の罪です。どんなことがあろうと私は、領地を立て直します。それが、仮初の家族を断罪することになろうとも……後悔はありません」
ミリィの言葉に殿下は頷くと今度は私の方を見る。
「グランヴァルト商会がしていたことは、この二つの派閥の資金作りと武器の部品の密輸。そして、人身売買だ」
「資金作りに、MuguetNoirが利用されていた」
エドガーさんが、殿下からの話を引き継いで、話始める。
「子供たちの件だけじゃなく……ですか」
「残念だがな。さらにわが国では輸入に関して品目の提出を求めているがMuguetNoirは輸入の申請をされていない」
「それって……」
「密輸だ。もちろんそれを検品するのが国境の検閲官の役割なんだが……」
「南部の国境の検閲官は、南部貴族の子息が多い……そういうことですわね」
リーンが殿下の言葉を引き継いで話すと、殿下は大きく頷く。
「装飾品や服くらいならこちらに報告をごまかすことができるだろうな」
「さすがに我が国で街とかに入るタイミングで荷馬車は検閲してるけど、そのリストに入っていればいいからね。子どもたちの荷物まではもちろん見ないし」
セレス殿下が話しながら、南部の領地から一番近いところにある街を指でさす。
「ここが、南部からだと必ず寄る街だ。そして、俺の亡き母上の故郷。だから、監視の目は薄かった」
悔しそう唇を噛むセレス殿下見て、察する。
「続きは、私からお話してもいいですか。アレクシス殿下」
背後から声がして、驚いて振り向く。
そこには銀髪を後ろにまとめて結い、銀縁の眼鏡をかけた青年が立っていた。
「あぁ、その前にみんなに紹介する。私の側近で、保守派に送り込んでいるスパイのルーカスだ」
紹介されると軽く会釈をされてから、殿下の隣に立つルーカス様。
「皆さん、びっくりですよね。保守派の筆頭と言われている宰相の息子がここにいるなんて」
そう言いながら、地図に目を落とす。
「我がジルコシア領があるのは、ご存じの通り南部でも中心地になります」
そう言って、トントンと地図の一点を指で指し叩く。
「しかし知られていませんが、事件が起きた領地には我が家の人間が執事や文官として身を潜めています」
淡々と説明を続けるルーカス様。
「そして、我が父の息がかかった人間は、グランヴァルト商会にも身を潜めてます。あなたの事も我が家には筒抜けだったんですよ」
「えっ……」
私がルーカス様を見ると、殿下がため息を吐かれる。
「知っていたなら教えてくれてもよかったのに、なぜ黙ってたんだ」
「いやいや、アイリーン様とユリアーナ嬢が仲良くなると思っていなかったもので」
「それは私に友人などできないと思っていた、ということかしら」
リーンが頬を膨らませながら、ルーカス様に話しかける。
「そんなことないですよ。ただ、私がユリアーナ嬢がどちら側なのか探る前に接触されてしまったので」
「確信を持ってから伝えたかったと」
「そうですね。せっかくアイリーン様にできた友人です。私の勝手な憶測で敵認定したくなかった」
頭のいい人たちの会話は、どうしてこうも無駄なく伝わるんだろう。
三人での空気感を見るに、濃密な時間を共にした来たのだと伝わってくる。
「つまり、ルーカス様は保守派ではなく革新派でいらっしゃると」
ミリィがそう聞くとルーカス様は頷く。
「南部に領地のあるウィナー男爵令嬢はご存じだと思いますが、南部は腐敗しきった貴族のたまり場です。入学前に父から南部の歴史を聞かされ、決めました。領民を苦しめるような人間が貴族を名乗るなど許せない」
「その翌日には、私にスパイとして使ってほしいと言われた時は驚いたけどな」
「こういうことは、早くから動くことが大事ですからね」
「あっ、あの。私もルーカス様のお仕事でお手伝いできることはありませんか」
殿下があきれ顔をされて、それに表情を変えずに答えるルーカス様。
そこに、ミリィが声を上げた。
「ウィナー男爵令嬢、私はまだ保守派でも力のある家の子息です。でも、あなたは違います。見つかればきっとしっぽ切りに遭う。とても危険ですよ」
「はい。分かっています。それでも、我が領で起きた事件を解決したい。領で暮らす領民たちを守りたいんです。そのためなら、なんだってします」
サントス伯爵領で、決意を新たにしたときよりも強い光がミリィの目には宿っている。
ルーカス様は、一度アレクシス殿下を見るけど、この件はルーカス様に決定権があるみたい。
「わかりました。今後、保守派の会合に私の婚約者として一緒に潜入して下さい。父上にはちょうどいい手駒が手に入ったとか言えば、何も言ってこないでしょう」
「こっ、婚約者ですか」
「嫌ですか。簡単にしっぽ切りに遭わない身分になれますよ」
そうじゃない気もするけど、合理的な人なのだなと思う。
「わかりました。よろしくお願いします」
ミリィが承諾すると、ルーカス様がミリィの前に来て手の甲を取り口づけをする。
長身の彼の所作は、場所が庭園なら絵画のように美しかっただろうと思わせるほどだった。
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