久しぶりの訓練
訓練場に入るとにこやかに副団長が出迎えてくれた。
「ユリアーナ様。肩慣らしに私の団員をお連れしましたよ」
「フィリップ。第二騎士団と遣り合えなんて、なまった私にひどいことを」
「よく言いますよ。もうほとんどの団員がユリアーナお嬢様に適わないのに」
呆れたような、嘘をつくなという目で見てくる副団長。
私はフィリップにジト目を向ける。
20代半ばで副団長になるだけの実力がある彼は私にとって兄のような存在でもある。
子どもの頃から挑んでいるけど、未だに勝てたことはない。
彼の率いる第二騎士団は、副団長の人柄そのままに、おおらかな団員が多く、領民にも慕われている。
そして、私と手合わせすることが多い騎士団でもある。
「じゃあ、だれからでもどうぞ」
みんなで準備運動をしてから、演舞場の真ん中に刀を構えて立つ。
四人の団員が横並びで、私の前に立っている。
その中の一人がこちらに突っ込んでくる。
私が見た事ないから、新しく入った団員なのかな。
私はそのまま相手の勢いを利用してくるっと体を反転させる。
そして、下から潜り一気に刀をのど元に突き付ける。
「ひぃっ」
と小さな声を上げてその団員は、しりもちをついてしまう。
「さぁ。お次の方どうぞ」
そのまま居合の構えで、残った三人を見ると、何やらヒソヒソと話している。
どうしたものか…。
「お姉様、かっこいいです」
突然の大きな声にびっくりして、そっちを見るとお母様とマリー、ミリィまでもが私の訓練を見ていたらしい。
その隙に次の団員が、私の近くまで間合いを詰めていた。
打ち付けられる剣の上段からの打撃をひたすら受け止める。
さすが現役の団員だけあって、一撃が重たくて、連続で受け止めると息が上がって、手もしびれてくる。
でも、こういう時こそ相手の出方をしっかりと見極める。
タイミングよく刀で相手を弾いて、バランスを崩したところに、一撃を入れる。
肩で息をしていると、近くにフィリップが来る。
「ユリアーナ様。もう少し手加減してくださいよ。うちの団員ボロボロじゃないですか」
フィリップが、そんな風に言うから私も少し拗ねてしまう。
「はははは。ユリは手加減してるさ」
豪快に笑いながら、サントス伯爵騎士団の団長のレオンが、お兄様と一緒に現れる。
「お兄様、遅いです」
「いやぁ、ユリアーナ様。刀は置いて行かれたのにさらに磨きがかかってますな」
学園では、基礎体力をつける為に毎朝走り込みと筋トレはしていた。
こんなこと言うと、私を騎士団にスカウトする隙を狙ってるレオン団長の思うつぼだから、秘密にしておく。
刀が、意外とやってみたら楽しかったなんて、口が裂けても言わない。
だけど、私たち兄弟はお母様側の遺伝を存分に受け継いだらしく、武芸は人並み以上なのだから仕方がない。
「さて、私とやりますかね。ユリアーナお嬢様」
レオン団長は軽く言うけど、勘弁してほしい。
「レオン団長…冗談はやめて。私は、フィリップとやりたいわね」
「えぇ。お、俺ですか」
「私、フィリップには勝ったことないんだもの」
「武器の相性が悪いですから」
そう、フィリップの武器は大剣。
大柄なフィリップの攻撃は受け止めるだけで大変なのだ。
「では、残りの二人の団員に勝てたらお願いね」
「わかりました…」
何がそんなに嫌なのか、思いっきり溜息をつきながら言われる。
さてと残りの二人には悪いけれど、私は本気の攻撃に一瞬で二人の団員が吹っ飛んでしまい…。
レオン団長にジト目で見られたけど…、気にしないことにした。
「さぁ。フィリップ、私とやりましょう」
「…。ユリアーナお嬢様。強くなられましたか」
「刀は置いていったのよ。そんなわけないじゃない」
私がにこやかに言うけど、信じてもらえなかったらしい。
向かい合って、お互い構える。
訓練場には、ピリピリとした緊張感が漂う。
相手の間合いに入れば、一瞬で勝負が着きそうな空気に、誰かが唾を飲む音が聞こえて…、フィリップがこちらに向かってくる。
今までより早いスピードで詰めてこられて、鞘に入れたまま、上から打ち付けられる大剣を受け止める。
足でしっかり踏ん張っていないと、地面にめり込みそう。
どう切り返すか考えてると、フィリップの上から抑えてくる力が強まった。
フィリップが、前のめりになったところで、逆に力を抜いて横に逃げる。
そのまま前に倒れそうになったフィリップの方に、鞘から素早く刀を出して切り込む。
しかし刺さった大剣をそのままにしてフィリップが、体を回転させて、私の後ろに回る。
慌ててそちらに向こうとしたところで、後ろから衝撃が来て、前に倒れる。
「ユリアーナ」
「おねえさまぁぁ」
みんなの声が聞こえる。
私を倒したフィリップが受け止めてくれる。
その顔は、眉を下げて情けないものだ。
「また、フィリップに負けたわ」
お兄様が走りよってくれる。
マリー、ミリィまで観客席から私のそばに来てくれた。
当の私は、ケロッとしながらフィリップに向かって悪態をつく。
「ユリアーナお嬢様もお強くなられましたよ」
「分かってるけどひどいわ」
子どもみたいにじたばたしてやろうと思ったけど、お母様が居ることを思い出して、背筋をピンとする。
「絶対にフィリップのこと、倒してやるんだから」
「お守りするお嬢様に負ける訳には行きません」
そう言うと、団長もお母様も笑っていた。
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