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モブ令嬢、原作にいません  作者: 紫乃てふ
プロローグ
2/57

夢の中の前世

 目の前の眩しい光が点滅し始める。

 中学生くらいの女の子がスマホを食い入るように見ている。

 スマホの画面にはランウェイを歩くたくさんのモデルさんたち。

「私もいつかこんな風に人を輝かせたいな」

 女の子の胸の奥に芽生えた小さな夢。

 その高鳴りを、私も感じた。

 そうだ、この子は…私自身だ。


 そのまま場面は高校時代へ。

 服飾の専門学校へ行きたいと両親に伝えた日の場面に切り替わる。

「あぁいうのは、才能がある人がなる仕事なの」

「そんなことに学費は出さないからな」

 何で、何でわかってくれないの…。

 結局その日から両親と口を効かなくなった。

 自分でバイトをして学費を稼ぎ、昼は学校、夜はキャバクラで働いた。

 夜はキャバクラでキャストの皆さんのドレスを選ぶお仕事。

 最初はキャストとして働くつもりだったけど、面接でオーナーに

「服飾を学んでるのか。ならドレス選びを手伝ってやってくれないか」

 突然の申し出に目を真ん丸にしていると、

「あの子ら、意外と似合う服選べなくてねぇ」

 そうして、私はキャストたちのドレスを選ぶことになった。

 営業が終わり、裏方の片付けのお手伝いをしていると先輩たちの笑いあう声が聞こえてくる。

「ねぇ、今日のドレスどう」

「最高だった!あの子が選んでくれたやつ、お客さんの反応すっごくいいんだよね」

「わかるー!あっ、こっちおいで~」

 先輩たちと目が合って、手招きされる。

「あんたの選んだドレスを着ると自信が背筋に通るっていうか、いつもより胸張れるんだよね」

 何人かの先輩が私にジュースを入れてくれて談笑に混ぜてくれる。

「あなたには、人を着飾らせるセンスがあるんだよ。これは才能だよ。大事にしな」

 私の選んだ服が、この人たちの武器になるんだ。

 あのとき確かに思った。

 服には、人を笑顔を咲かせる力があるって。

 キャストさんたちにかわいがってもらいながら私はその人に似合う服を見極める目を養うことができた。


 そのまま縁あってドレスの販売やお直しの会社に就職をした。

 お客さんも、先輩たちも、私の夢を応援してくれた。

 不規則な仕事の合間に夢中になったのが『聖女は三度恋をする』という恋愛小説。

 天真爛漫なヒロイン、不器用なサブヒロイン、そして魅力的なヒーローたち。

 私がブランドが立ち上がる1週間前にアニメ化が決まった時は嬉しくて仕方なかった。


 ブランド名は、【Re:Flora(リ:フローラ)

 私の服で、色んな人の笑顔が魅力が幸せが咲きますように。

 そんな想いを込めた。

 ブランドサイトが立ち上がり、初めての注文が入った瞬間。

 一緒に走り続けてくれたスタッフとハイタッチをして小さく乾杯した。

 スタッフが帰った後、ひとりで『聖女は三度恋をする』のキャラクターに着せたい服をスケッチブックに夢中で描いた。

 スケッチブックの上を滑る鉛筆の感触も夢中でページをめくる高揚感も思い出せる。

 いつか、あのキャラクターたちの衣装を作ってみたいな。

 新しい目標ができた夜だった。

 だけど……。

 ふっと机に突っ伏した私は、そのまま二度と目を覚ますことはなかった。

 気づけばまた、光の中に戻った。

 ふっと意識が戻り、天井を見上げる。

 頬に感じる一筋の暖かさに、私は気づく。

 泣いていたんだ。

 夢を叶えたはずの私が流した涙の意味はまだ、分からなかった。

ここまでお読み頂きありがとうございます!

明日プロローグ3話も投稿しますので、また読みに来て貰えたら嬉しいです^^

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