その言葉撤回なさいませ【後編】
「ぜひ、私も証拠を見せていただきたいですわ」
「そうでなければ、皆さまの家に我が家から訴えを起こさなくてはなりませんもの」
そう言って、頬に手を当てながら全員をしっかり見回す。
「クラスメイトを訴えるなんてそんな悲しいことありませんわ」
ため息を吐きながら言うと1人が前に出てくる。
確か、クラリス様の領地に近い男爵家のご令嬢だったかしら。
「アイリーン様はなぜこのような子をかばうのですか」
彼女はクラリス様の前に出てきて、アイリーン様に食って掛かる。
「そうですわね。私が彼女の家系を把握しているからじゃないですか」
「えっ」
教室にいる全員が今度は驚きからアイリーン様を見る。
我が家とアイリーン様の家に、特に関りがあるとは思えなかった。
「私、王妃教育で皆様のお家の家系図。顔つきで覚えておりますわよ」
何事もないように言っているけど、家系図なんて100人以上覚えないといけないのに。
この人は、小説を読んでるときには 分からなかったけど本当に努力を惜しまない人なのね。
「サントス伯爵令嬢、あなたの母方の曾祖母様が東方の方でしたわね」
それまで鋭かったまなざしが、ふっと柔らかくなる。
まるで私を誇らしく思うような、そんな目だった。
「はい。とても神秘的な方だったと聞いています」
「我が国にはまだまだ東方の方は少ないですものね」
前世のように飛行機なんてない。
この世界の船旅は危険も要している。
だから、陸続きでない国の移住というのは少ない。
「南方で起きた内乱の際に活躍されたと聞いております」
「はい、傭兵として参加していた曾祖母様を曽祖父が見初めたと」
「隔世遺伝という物なのでしょうね」
「父からはそのように聞いております」
アイリーン様からクラリス様に向き直ると強いまなざしで彼女を見る。
「クラリス公爵令嬢様、なんでしたら血縁証明書もお見せできますよ」
私が伝えると、クラリス様たちは顔を引きつらせる。
あえて、ここで彼女がどの地位にいるのか分かってもらうために公爵令嬢と付ける。
そういえば、曾祖母の代に内戦のあった南方は、宰相閣下やクラリス様のお家の領地がある方面だなと薄っすら思い出す。
チャイムが鳴った瞬間、教室内の空気が弾けるように動き出す。
目を逸らして教科書を広げる者、ため息をついて席に戻る者。誰もが、何もなかったように振る舞おうとしていた。
けれど、確かに今.…、この場の“力関係”は、塗り替えられたのだ。
クラリス様は、何か言い返そうと口を開きかけたが、何も言えずに歯を食いしばって席へ戻っていった。
私は、席に戻る前にアイリーン様に向き直る。
「アイリーン様、先ほどは我が家の名誉を守ってくださりありがとうございます」
「べ、別に私は間違っていることを間違っていると伝えただけです」
「それでも、私は救われました」
「それなら、いいですわ」
そう言って踵を返して席に着くアイリーン様の後ろで微笑むエマさんは私に会釈だけする。
そして、アイリーン様に届け物を渡して去っていく。
私も席に着き、ふと視線を向けると、アイリーン様の耳がほんのり赤く染まっていた。
「ふふっ」
教室の奥の席から見える王太子妃殿下は小説で読んで想像していたよりも、ずっと可愛らしい方なのかも知れない。
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