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モブ令嬢、原作にいません  作者: 紫乃てふ
プロローグ

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私だけのお城

こちらは、「原作に存在しない私は自由に過ごしたい」の改訂版です。

より読みやすく、よりキャラクターたちの魅力を伝えられるように書き直しをしました。

ぜひ、楽しんでいってください。

 学園の正門前で馬車を降りた瞬間、領地とは違う空気に背筋が伸びる。

 今日から私は、セレスティア王立学園の寮で暮らすのだ。


 初めての一人での生活に、今朝の領地での光景が脳裏をよぎった。

「ユリ、体調には気を付けるのよ」

 お母様がそう言って、私の手をそっと握りしめる。

 あたたかい手の感触に、思わず胸が詰まった。

「お姉様、ほんとにマリーは連れて行かないの?」

 目に入れても痛くないほどかわいい妹のマリーが、寂しそうに私を見上げる。

 昨夜——「寂しい」と私のベッドに潜り込んできた甘えん坊さん。

「大丈夫よ。お姉様は自分の事は自分でできるもの」

 頭を撫でてあげると、彼女は俯いて小さく頷いた。

 そのまま鞄を受け取り、馬車に乗り込む。

「無理だけはしないように」

 お父様は短いながらも優しい笑顔でそう言った。

 お兄様は外せない予定があり、見送りには来られなかった。

 だけど、昨日の夜たくさんの文具をくれた。

 大好きな家族に見送られて、領地を出た朝の光景。

 けれどここからは、私一人だ。


 貴族が通うこの学園は、今年から優秀な平民の子も受け入れることが決まっている。

 王太子殿下の政策で、何年も議論を重ねてようやく通された。

 殿下は私と同い年だと聞いているけれど、その実力には驚かされる。

 平凡な私との違いを痛感させられるばかりだ。


 学園の寮は、全寮制となっている。

 貴族の子女は、使用人を一人帯同することが許されているが、私は誰も連れずに入寮することにした。


 領地から荷物を運ぶのに付いてきてくれた侍女のナタリーは、馬車の横で私のを不安そうに見つめている。

「何か言いたいなら言ってくれていいわよ?」

 私がクスクス笑いながら話しかけると、彼女はさらに眉間に皺を寄せた。

「……やはり、私が学園でお世話をいたします」

「はいはい。大丈夫よ。ナタリーは優秀だから、領地で働いてほしいの。あなたになら安心してマリーの事を任せられるわ」

「かしこまりました」

 納得してはいないのを隠そうともしない態度に、、つい笑ってしまう。

 彼女は唇を尖らせながらも、私の荷物を寮の部屋へ運ぶ手配をしていた。


「それじゃあ、また部屋でね」

 搬入してくれる職員の方たちと話すナタリーと一旦分かれる。


 私は一人で女子寮のエントランスへと足を進めた。

 エントランスには数名の新入生がいて、寮のスタッフの方たちが名前を確認している。

「ユリアーナ・サントスです」

「ユリアーナ・サントス伯爵令嬢様ですね。ご入学おめでとうございます。こちらがお部屋のカギになります」

 私の番が来て、名前を告げる。

 すると入学のお祝いの言葉と共に、部屋番号が刻印されたルームキーと、寮の規則が書かれた栞を渡された。

 高位貴族の方々もいらっしゃるのに、こんなに事務的でいいのかなと思う。

 けれど今日一日で新入生は全員の受付をするのだ、仕方ないのだろう。

 何より学園では『身分を振りかざすことは許されていない』という理念の表れなのかもしれない。


 三階の自室は、角部屋だった。

 なんだかちょっと嬉しくなって、鍵を開ける。

 部屋の扉を開けた瞬間、ふわっと木の香りが風に乗って私を包んだ。

 今日からここが、私の部屋。

 期待に胸を膨らませて、部屋の中を見回す。

 開いた窓からは風が入り、シンプルな純白のカーテンを揺らしている。

 家具は全体的に木目調で統一されていて、落ち着いた雰囲気。

 柔らかい光が当たる木目調の学習机に、大きめのクローゼット。

 ベッドもサイズは大きいけれど、圧迫感はない。

 お茶を淹れたり簡単な調理ならできそうなキッチンに、専用のお風呂まで付いている。、

「こんな素敵な部屋だなんて思ってなかった!」

 あまりの嬉しさに、その場でくるくると回る。


「お嬢様、誰かがいらしたらはしたないと思われてしまいますよ」

 不意に背後から呆れたような声がした。

 振り向くとお風呂の方を整えてくれていたナタリーが立っていた。

「た、たしかに。それはそうね」

「お嬢様が自分で片付けると言われた荷物以外は、全て荷解きが済みました」

「えっ、もう? ナタリー、ありがとう」

 さすが仕事が早い。

「夏休みのお迎えの時には来てね。半日とはいえ馬車に一人は寂しいもの」

「かしこまりました。……お嬢様、健康に気を付けてください」

 それだけ言い残して、ナタリーは深く一礼し、領地へ帰っていった。

 なんとなく寂しく感じるのは、彼女が子どもの頃から傍にいてくれたからだろう。



「……よしっ。片付けよう」

 感傷を振り払うように、気合を入れる為に声を出す。

 自分で片付けると伝えていた荷物の荷解きを始める。

 この中には、私が作ったワンピースや部屋着、ヘアアクセサリーなどが入っている。

 なんとなく見られるのが恥ずかしくて、「自分で片付ける」と言ったのをナタリーは、守ってくれたのだ。

 最後に、鞄に入れて大事に持ってきたスケッチブックを取り出し、机の上に並べていく。

 この中には、大好きな家族にも教えていない私の『夢』と『秘密』が詰まっている。

 そっと表紙を撫でる。

 何度もめくっては書き込み、消しては書き足してきた、私だけの宝物。

 このスケッチブックだけは、誰にも見せない。


 ふう、と息をつき、明日からの学園生活に少し思いを馳せる。

 上手くやれるのだろうか……。

 幼い頃に参加した、子どもだけのお茶会

 『失敗』とは言われなかったけれど、私にとっては消えない傷となった、小さな粗相。

『この失敗の事は忘れてはダメよ。あなたの家族は許してくれるでしょうけど、伯爵家の恥であることには変わりないのだから』

 誰の声だったのか、今は思い出せない。

 でもあの時の冷ややかな空気だけは、まだ胸の奥に澱みのように残っている。

 家族は気にしなくていいと言ってくれたのに、私はどうしても忘れられない。

 ――ズキン。

 そのまま、疲れた身体をベッドに鎮めようとした瞬間、急な頭痛に襲われる。

 あまりの痛みにぎゅっと目を閉じる。

 視界が静かに、けれど強烈な真っ白の光に包まれていく。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

この物語は毎週月曜日と木曜日も21時に更新します。

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