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七夕のあやまち

・あらすじ

 学校の七夕祭りの準備の最中、生徒会長が乱心した。

自分はしてはいけない罪をしてしまった。その責任を取る。

生徒会長は校舎の3階から身を乗り出し、飛び降りようとする。

生徒会長が犯した罪とは何なのか。なぜ飛び降りが3階からなのか。

女子生徒である高山真紀と、真紀が親しい細田譲先生の二人が、

生徒会長の乱心の原因を明かしていく。


 夏本番を控えた7月7日、七夕。

女子生徒の高山たかやま真紀まきが通う学校では、

夕方から夜にかけて七夕祭りが開催されることになっていた。

生徒や近隣住民が短冊に願いを書き、笹に結び、学校の屋上に飾る。

笹を屋上に運ぶのは、生徒会長の役割になっていた。

まさかその生徒会長が、

校舎から飛び降りようとすることになるとは、

誰も予想していなかった。


 夜の学校の校庭には今、生徒や先生達が集まって大騒ぎになっている。

学校の校舎の3階の窓の外、庇部分に女子生徒が一人立っている。

足場は悪く、今にも落ちてしまいそうだ。

「そこは危険だ!早く校舎の中に戻りなさい!」

教頭先生が大声で言う。

するとその女子生徒は、嫌々をするように頭を横に振った。

「嫌です。わたし、とんでもないことをしてしまいました。

 その責任を取るために、ここから飛び降ります。」

女子生徒の決意は固く、脅しや演技のようには見えない。

誰もが女子生徒を説得すべく、知恵を絞っていた。


 そこにバタバタと走ってやってくる足音。

真紀が騒ぎを聞きつけて校庭にやってきたところだった。

「何々!?どうしたの?」

手近にいた人の中に、見知った顔がある。

真紀が特に懐いている、先生の細田ほそだゆずるだった。

「細田先生!」

「おや、高山君も来たのかね。」

「そりゃ来ますよ、こんな大騒ぎなんだもの。

 七夕のお祭りどころじゃないです。

 一体全体、何があったんですか?」

「うむ、私が知っている限りでは、こんな話のようだ。」

細田が、息を荒げて膝に手をつく真紀に説明を始めた。


今日、7月7日、七夕の日。

学校で七夕のお祭りをするために、短冊を笹に飾っていた。

短冊には、各々の人の願い事が書いてある。

やがて短冊を笹に飾り付け終わり、

七夕祭りの会場である学校の屋上へ運ぶため、

生徒会長である、あの飛び降りようとしている女子生徒が、笹を運んでいた。

するとやがて、生徒会長は、泣きながら屋上から走って降りてきた。

「わたしは取り返しのつかないことをしてしまった。」

そんなようなことを叫びながら、校舎の3階の教室から飛び降りようとした。

そして未だ飛び降りを躊躇したまま、今に至るという。


 真紀は息を整えて、細田に聞き返した。

「細田先生、生徒会長は、何をしたんですか?」

すると細田は眉尻を下げて八の字を作った。

「それがよくわかっていないんだよ。

 調べたところ、生徒会長が運んでいた笹は、問題なく屋上に飾られていた。

 どこかが傷んだり、折れてしまったりすることもなく、きれいな状態だ。」

「それなのに、笹を運んだ生徒会長は、

 自分は取り返しのつかないことをしてしまった。

 と言って、校舎から飛び降りようとしてるんですね。

 でも、なんか変じゃありません?」

「ほう、君もそう思うかい。どこが変だと思う?」

「それはもちろん、高さです。

 こんな事を言っては物騒かもしれませんが、

 普通、飛び降りするのって、

 建物の屋上や高いところからするものだと思うんです。

 でも生徒会長は今、たかだか3階から飛び降りようとしてます。

 あれじゃ飛び降りても死ぬまでもなく、怪我程度で済むかも。」

真紀の意見に、細田は腕を組んで頷いた。

「そうだね、それは非常に重要な手がかりだ。

 生徒会長は、3階という低い位置から飛び降りようとしている。

 生徒会長は元々屋上にいたのだから、

 もしも飛び降りて死ぬのが目的なら、

 わざわざ低い場所に降りてきて飛び降りする必要がない。

 屋上からそのまま飛び降りることができたはずだ。」

「じゃあ何で生徒会長は、わざわざ3階から飛び降りようと?」

「これは私の予想になるんだが・・・。

 生徒会長の起こした過ちは、

 死んで償うほど重いものではないのではないか、

 少なくとも生徒会長本人はそう思っているのではないだろうか。」

「死んで償うほど重くはないけど、でも罪は償いたい。

 だから3階なんて中途半端な高さから飛び降りようとしている、か。

 ・・・うん、確かにありそうですね。」

「高山君もそう思うかい。

 3階程度の高さでも、頭から落ちれば、

 記憶障害や後遺症が残るような怪我をするかもしれない。

 なんとかして飛び降りを辞めさせたいのだが・・・。」

「細田先生、生徒会長が犯した罪って何なんですか?」

「それが皆目見当がつかないんだよ。」

「実際に本人に聞いてみては?」

「飛び降りてまで償いたい罪を、人に聞かれて素直に言うとも思えない。

 たとえ情報が得られるとしても、刺激はしたくないんだ。

 まあ、おおよその見当はついているが、今は私の推測でしかない。」

「細田先生は、生徒会長の犯した罪が何かわかるんですか?」

「おそらくね。現場を見ないことには断定はできないが。」

「じゃあ、実際にあたし達で調べてみましょうよ!

 生徒会長が犯した罪を。」

「どうやってだね?」

「行くんですよ、現場まで。

 生徒会長がやったことは、笹を屋上に運んだこと。

 だったら、屋上に行ってみれば、なにか分かるはずだと思います。」

「高山君はフットワークが軽いね。

 確かに、今なら屋上には誰もいないだろう。

 私達二人でこっそり屋上まで行ってみよう。」

そうして真紀と細田の二人は、騒ぎの輪をこっそりと抜け出すと、

学校の校舎に入り、階段で屋上へと向かった。


 校庭での騒ぎの割に、校舎の中に人は少なかった。

幾人かの教職員が電話対応などに追われているだけだ。

校舎に入ってきた真紀と細田のことなど、誰も気にしていない。

真紀と細田は階段をぐるぐると駆け上がっていく。

だが、健脚の真紀に比べ、細田は鈍足で、ぜいぜいと息を切らし始めた。

真紀が足を止めて細田が追いつくのを待つ。

「細田先生、だらしないですよ~。

 それとも、階段に手がかりでもあるんですか?」

「ぜぇぜぇ・・、面目ない。

 だが僕の予想では、階段には手がかりはないだろうから、

 気にしなくていい。ただの疲労だよ。」

「そうですか?じゃあ屋上まで一気に行っちゃいましょう!」

「ぜぇぜぇ・・お手柔らかに・・。」

軽快な一人と鈍重な一人の影が、学校の階段を登っていった。


 「わぁ・・・!」

屋上の扉を開けると、満月ではないものの、

大きな月をたたえた星空が頭上いっぱいに広がっていた。

「こんなにきれいなお月さまに見られてたら、

 悪いことをしたら反省するのもわかる気がしますね、細田先生。」

「そういうものかい?

 高山君も案外ロマンチックなところがあるんだね。」

「ぶー、あたしだって乙女ですよ。」

「ははは、それもそうだ。悪かったよ。」

「ところで、手がかりって、どこにあるんですか?」

「私の考えでは、笹の短冊に何かがあると思うんだ。」

「笹の短冊?願い事が書いてあるあれですか?」

「そう。それを一つ一つ、調べてみよう。」

すると真紀は口を突き出して文句を言った。

「細田先生は気が利きませんね。

 七夕の短冊の願い事は、

 人に見られたら叶わなくなっちゃうんですよ。

 それを一個一個調べろだなんて。」

「その言い伝えは私も知っている。

 だからこそなんだ。

 この言い伝えが、今回の事件に重要な意味を持っている。」

「本当に?興味本位とかじゃないくて?」

「当然さ。そのためにも、人がいない今を選んだんだ。

 さあ、手分けして、短冊を調べていこう。

 何か手がかりになりそうな短冊が見つかったら、お互い集まろう。」

「はーい、わかりました。

 短冊に願い事を書いたみんな、ごめんね。

 ちょっと見せてもらうだけだから。」

真紀は手を合わせてすりすり謝って、笹に吊るされた短冊を見ていった。


 七夕の笹飾りの短冊には、様々な人達の願い事が書かれていた。

「足が早くなりますように。」

「成績が上がりますように。」

「お金持ちになれますように。」

「お小遣いが増えますように。」

「両親が仲良くしますように。」

「病気が良くなりますように。」

などなど。

短冊に書かれた願い事には、冗談程度のものから、

切実な願いまで、内容も重さも様々だった。

夜空の星の数ほどたくさんの短冊を一つ一つ調べていく。

すると、一つの短冊を掘り当てた。

その短冊には、こんな事が書かれていた。

「小野さんと結ばれますように。 吉田大輔」

ご丁寧に署名まで残した短冊だった。

「あれ?これって、どこかで聞いたような・・・ああああ!」

真紀の叫び声に細田がビクッと驚いて顔を覗かせた。

「びっくりした。高山君、大声を出してどうしたんだい?」

「これ!見つけました!」

真紀は手にした短冊を細田に見せた。

細田は内容を目にして、すぐにポンと手を打った。

「これは、恋の願い事だね。

 しかも、この宛先と差出人の名前は・・・」

「そう!生徒会長と、副会長です!

 生徒会長の名前は確か小野美穂、副会長の名前は吉田大輔です!」

「なるほど、この短冊を生徒会長はうっかり見てしまったのかもしれないね。

 そうすると、もしかして・・・」

まさに織姫と彦星のように、もう一つの短冊はすぐに見つかった。

その短冊の内容は、半ば予想通りのものだった。

「吉田君と仲良くなれますように。 小野美穂」

二枚の短冊を並べて、細田は納得して頷いた。

「高山君、よく見つけてくれた。

 実はこれが、私が予想していた事件の原因なんだ。

 もしも、自分の想い人が、自分への好意を短冊に書いてくれた場合、

 それを見てしまったらどうなるだろう。」

「見ちゃったからには、自分のも副会長のも無効になる?」

「と、生徒会長は考えたんだろうね。

 生徒会長は、副会長と仲良くなりたいと短冊に願いを書き、

 副会長は、生徒会長と結ばれますようにと短冊に願いを書いていた。

 全く偶然にも、片思い同士の両思いの二人が、

 同じ内容の願いを短冊に書いていたんだ。

 しかし、生徒会長は笹を運ぶ途中かどこかで、

 偶然、副会長の短冊に書かれた願い事を読んでしまったんだろうね。」

「あたしだったら大喜びするところだけど、生徒会長は違ったんですね。」

「うん、どうやら生徒会長は本当に信心深い子のようだね。

 七夕の短冊に書かれた願いを他人が読んではならない。

 そうでなければ、その願いは叶わない。

 そんな言い伝えを信じて、

 副会長の短冊を見てしまった罪滅ぼしをしようとしたんだ。

 対になる自分の短冊の願いも守るためにね。」

「それが、3階からの飛び降りになったんですね。」

「飛び降りて死にたいわけではない。

 軽く頭でも打って、短冊を見た記憶を消したかった。

 そんなところだろう。

 ここにある二枚の短冊と、生徒会長が3階にいること、

 その二つで十分、この事件の真相を説明できるはずだ。」

二人の想い人同士が願った恋の短冊。

それを片方が偶然に目にしてしまったために起きた騒動、事件だった。


 明るい月明かりの下、学校の屋上。

真紀と細田の二人は二枚の短冊を前に考え込んでいた。

考えるべきことは一つ。

「この騒動は、どうすれば収まるんでしょうね?」

真紀の言った通りのことだった。

生徒会長が、飛び降りなどという大それたことを考えたのは、

生徒会長が好いている副会長が、

自分のことが好きだと書いた短冊を見てしまったから。

しかし、短冊の中身を見られたら願いが叶わないなど、

本当に起こることとは思えない。迷信に近い。

しかし生徒会長は頑なに本当だと信じている。

そんな生徒会長に、そんな行為が無駄だと教えるには、

どうしたらいいだろう。

「まさか、校庭から大声で言うわけにもいきませんよね?」

「そうしたら、生徒会長と副会長の仲が公になるだろうね。

 それ自体は問題ないが、今の状況を悪化させかねない。

 なにせ二人分の願い事を暴露することになるからね。」

ふーむと真紀と細田は考える。

「やっぱり、話すしかないんじゃないですか?

 細田先生なら知ってるんでしょう?

 短冊の願いを見ても無効にならない理由を。

「それなら、七夕の成り立ちから説明するのがいいだろうね。

 よし、試してみようか。」

そして真紀と細田は腰を上げた。

屋上の扉を開け、階段を下っていく。

行く先は3階。困った織姫のところへ。


 真紀と細田は、学校の3階まで降りてきた。

窓の外に立つ生徒会長と話ができる教室を探す。

すると、警備員が配置されている教室があった。

どうやらあの教室が、生徒会長のいる教室のようだ。

真紀と細田が近づくと、すぐに警備員が行く手を遮った。

「ここは立入禁止ですよ。

 見ての通り、生徒が窓の外に出て危険なんです。」

真紀はあわあわと言い訳を探す。

すると細田がにっこりと笑顔で警備員に話しかけた。

「ご苦労さまです。私はこの学校の教員の細田譲です。

 ちょっと中の生徒に話がありますので。」

「いや、しかし・・・」

「まあまあ、このままというわけにはいきませんから。」

強く押して弱く引いて、細田は警備員を言いくるめてしまった。

「細田先生、ナイス!」

小声の真紀の言葉に、細田はウインクしてみせた。

こうして真紀と細田の二人は、生徒会長がいる教室の中へ入っていった。


 真紀と細田の二人は、生徒会長のいる教室へ入り込んだ。

窓の外の生徒会長はまだ二人のことに気が付いていない。

そっと近づいて無理やり引き戻すこともできるかもしれない。

でもそれは決してしない。それでは生徒会長を傷つけてしまうから。

第一声は真紀だった。

「生徒会長、小野さん、だよね?

 ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

すると生徒会長は驚いて振り向き、悲しそうに答えた。

「近づかないで!わたしはとんでもない罪を犯したの。

 今から飛び降りてやるんだから!」

「それで頭を打って、記憶を消したいのかい?

 そんなにうまくいくかなあ。」

細田の言葉に、生徒会長はギクリと体を強張らせた。

しかし強情さは止まらない。

「う、うまくいかせてみせる!」

「そこまでして短冊の記憶を消したいのかい?」

「!、どうしてそれを・・・」

驚く生徒会長に、真紀と細田は、

できる限り刺激しないよう近づき、話し始めた。

「私達二人で、屋上を調べさせてもらった。

 そして見つけたんだ。

 生徒会長である君と、副会長が、

 お互いにお互いと仲良くなりたい、結ばれたいと願い、

 それを七夕の願い事として短冊に書いていたことをね。」

「ひどい!人の短冊を見るだなんて!」

生徒会長は怒りに肩を震わせている。

しかし細田は動じず、静かに話し始めた。

「小野君、知っているかな。

 七夕は元々は願い事を書く行事ではなかったんだ。

 織姫と彦星の二人が年に一度逢える、ただそれだけの日だったんだ。

 しかもその話もおとぎ話の類でしか無い。

 だから短冊に願い事を書いても、悲しいかな、叶うとは限らない。

 でも、本人の努力や環境次第で、願いが叶うこともあるだろう。

 だから私は七夕の願い事の短冊を否定しない。

 だが、ただ一つ、明確に否定できることがある。

 それは、願い事を他人に見られたら無効になる、という部分だ。

 七夕はただでさえ願いを叶える日ではなかった。

 そうであれば、短冊に書かれた願いを無効にすることなど、

 できるはずもない。そんな方法は用意されていない。

 ただの言い伝え、迷信でしかないんだよ。」

真紀も懸命に声を掛ける。

「小野さん、あたしも短冊見ちゃったよ。ごめんね。

 それも小野さんと吉田君だけじゃない、みんなの分も見た。

 これであの笹に吊るされた短冊全てが無駄になったのかな?

 あたしはそうは思わない。

 願い事を一生懸命考えて、お月さまに祈って、

 それだけでも十分にご利益があるはずだよ。

 だって考えてもみて。

 片思い同士の両思い、しかもその両方が七夕に仲良くなるよう願うなんて、

 そんなの奇跡だよ。短冊を見られたくらいで消えるような願いじゃないよ。

 だから無茶しないで!

 記憶を消すなんて、そんな都合の良いことはできないよ。

 無駄な怪我をするだけ。怪我では済まないかも。

 それに、そんなことする必要もないんだよ。

 せっかく両思いだってわかったんだもの!

 だから戻ってきて!」

「でも、わたし、七夕祭りを台無しにしちゃって、

 このままじゃみんなに顔向けできないし・・・」

真紀と細田の言葉が届いたのか、生徒会長は揺れている。

だから細田は、その揺れをこちらに向けるために言った。

「知ってるかい?

 今日、7月7日は、本当の七夕の日じゃないんだよ。」

「えっ?それってどういう・・・」

「カレンダーはね、人間の都合で書き換えられたりしてるんだよ。

 今日は新暦の7月7日。本当の七夕は旧暦の七月七日。

 今日からまだ一ヶ月は先の話なんだ。

 どうだろう。今年の学校の七夕祭りは、一旦保留にして、

 今後、旧暦合わせでやってみるのは。

 そうすれば、今日の七夕は保留。

 見たことも何もかも、一旦は無かったことにできる。」

「なるほど!それは良いですね!

 そうすれば、今日は短冊を書けなかった人も参加できるかも。」

七夕の笹に吊るされた、願い事を書いた短冊。

それを他人が読んではいけない。そうすれば願いは無効になる。

七夕を新暦の7月7日に行うこと。

それらは全てが新しく作られたおとぎ話でしかないことがわかった。

だとすれば、もう生徒会長は自らの行為を悔いる理由はない。

生徒会長は目に涙を浮かべ、窓から教室の中へと戻ってきた。

抱き合う生徒会長と真紀に、細田はそっと手を添えるのだった。


 こうして学校の七夕祭りの騒動は無事に解決された。

生徒会長は危険な行為をしたとして教頭先生からお説教を受けたが、

お祭りの準備中の不注意ということで、処罰は免れるよう計らわれた。

騒動の影響で七夕祭りは一旦中止、

旧暦の七月七日に改めて行うことが決定された。

おおよそ全て、真紀と細田が願った通りの結果になった。

しかし一つだけ予期しない誤算があった。

それは。

「おはよう、大輔君。今日もお弁当持ってきたから、一緒に食べようね。」

「おはよう、美穂ちゃん。いつもお弁当ありがとう。

 美穂ちゃんの味付け、好きだよ。」

あれだけ奥手だった生徒会長と副会長が、

七夕の短冊で両思いだったのが公になった途端、

急接近したことだった。

最初はあいさつも赤面していた二人の仲は、

あれよあれよと進展して、今やいつもいっしょ、

毎日一緒に弁当を食べる仲にまでなってしまった。

あの二人にはもう七夕の短冊は必要ない。誰が見てもわかる。

一方、生徒会長と副会長の二人のために尽力した、真紀と細田はと言うと。

二人ともやはり生徒会長の説得に勝手な行動をしたとして、

怒られはしなかったものの、教頭先生からお小言を頂戴した。

今も仲良さそうに身を寄せる生徒会長と副会長を見て、

真紀は大声を上げる。

「あー!暑苦しい!人前でイチャイチャするな!

 あたしは何のご褒美も貰ってないってのに。」

細田が苦笑してたしなめる。

「まあまあ、高山君。

 今回の君の功労は、ちゃんと私が勘定しておくから。」

「うー、お願いしますよ。もう!」

新暦の七夕を過ぎ、夏がやってくる。

旧暦合わせの七夕祭りの頃には、きっと夏本番だろう。

真紀も、織姫と彦星のようになれるだろうか。

今はまだ早いかもしれない。誰ともなくそう思うのだった。



終わり。


 七夕が近いので七夕の話にしました。


七夕に願い事を書くのは日本くらいなものだそうで、

じゃあ人に見られてはいけないという話はどこから?

と考えて、それを使っていく話にしました。


七夕の願い事どころか、そもそもカレンダー自体も変わってるということで、

信心深い生徒会長を説得することができました。

現代の行事や儀式は、そのくらいの心構えでいいのではないかと思います。


お読み頂きありがとうございました。


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