同じ誤答から導かれるもの
・あらすじ
学校の試験でカンニング疑惑が浮上した。
ある二人の生徒が同じ試験で結果が70点と60点。
その内30点分の誤答が全て同じだった。
選択式問題とはいえ、偶然では起こり得ない。
カンニングをしたのはどちらの生徒か。
疑惑の当事者である女子生徒、高山真紀が、
教師の細田譲とともに事件に挑む。
事件には動機と点数の理由が存在した。
朝からどんよりと厚い雲に覆われ、薄暗い日だった。
女子生徒である高山真紀にとっては、天気の話だけではない。
今日は学校で試験が行われる日。
どの教科もまんべんなく苦手な真紀にとって、
試験の日はそれだけで、気分がどんよりと重くなるのだった。
真紀が学校にたどり着くと、まもなく、HRが行われ、
そして粛々と試験が行われ始めた。
真紀はどの科目もほとんど一夜漬け状態。
真っ白な答案用紙を見て、頭を抱えていた。
「だー!こんな問題、勉強してないからわかんないよー!」
真紀の席は教室の中央付近で、やや窓寄り。
周囲を見渡しても、試験に取り組む生徒達の固い背中が見えるだけ。
「あーあ、せめて窓際の席だったら、窓の外を見て気分転換できるのに。」
教室の少し離れた場所にある窓に目をやる。
窓の外は相変わらず曇りで薄暗く、まるで夕方のよう。
遠くでは雷光も見える。
「こんな天気じゃ、眺めても気分転換にもならないか。」
真紀は諦めて、試験問題に取り組むのだった。
「・・・?」
その時、どこかから誰かの視線を感じた気がした。
しかし周囲を見渡しても、誰も顔をこちらに向けていない。
「誰かが見てたような?試験中にそんなわけないか。
それより、試験に集中しなきゃね。」
改めて真紀は試験問題に目を落とした。
その後、何事もなく、どの教科も低調に真紀の試験は終わった。
ともかくも試験から解き放たれて、真紀は機嫌を良くした。
「やった!試験終わった!さて、どこに遊びに行こうかな。」
すると、クラスメイトの女子生徒達が真紀に話しかけてきた。
「真紀、試験も終わったし、ハンバーガーショップにでも行かない?」
「あっ、いいね!行こう行こう。」
こうして試験を終えた生徒達は、試験のしがらみから解放され、
楽しい日常を取り戻した。
だが、その裏で、密かに困り事が進行していた。
その困り事が公になったのは、試験が終わって数日経ってからだった。
「高山さん、ちょっといいかしら?」
真紀にそう呼びかけたのは、厳津井貴子という女の先生。
三角眼鏡に引っ詰め髪、整えられた身なりは、
いかにも厳しそうな印象を与え、実際に厳しい先生だった。
その厳しい厳津井に声をかけられて、真紀は驚いた猫のように振り返った。
「はい!何でしょう!?」
「あのね、聞きたいことがあるから、職員室に来て欲しいの。
それと、宇多川さんも呼んできてもらえるかしら。」
「は、はい!」
宇多川増子は、真紀のクラスメイト。
貧しい家で、下の兄弟が多く、忙しい生活を送っている。
おとなしい性格で、成績は並だが勉強も頑張っていると評判の生徒だった。
真紀と宇多川に、厳津井は何の用なのだろう。
その話を今ここで聞くより、素直に呼び出しに応じた方が早いだろう。
真紀は宇多川に声をかけた。
「増子ちゃん!厳津井先生があたしたちのこと呼んでるって。」
「本当?何の用事なんだろう。」
「さあ?行って確かめたほうが早いよ。」
「そ、そうだね・・・」
そうして真紀と宇多川は、連れ立って職員室へ向かった。
空模様は、あの試験の日のように薄暗くなっていた。
「失礼しまーす。」
真紀と宇多川の二人が職員室の扉を開けると、
広い職員室に幾人かの先生達の姿があり、一斉にこちらを見た。
その中で、厳津井の視線は、職員室の奥の方から。
他の先生達はそれとなく視線を外した。
「二人とも、こっちに来てくれる?」
厳津井に言われるがまま、真紀と宇多川は厳津井の席の前に立った。
「それで厳津井先生、あたしたちに用事って何ですか?」
すると厳津井は、厳しい表情を崩さず、二枚の用紙を二人の前に出した。
それは、この間受けたばかりの試験の答案用紙だった。
70点、60点。
各々の答案用紙は採点が済んでいて、
それぞれの点数が赤ペンで記載されていた。
70点の方は宇多川の、60点の方は真紀の答案用紙だった。
真紀は点数を見てわっと沸いてみせた。
「あっ、これ、こないだの試験の結果ですね!
60点だって!やった!これなら十分!」
一方、宇多川の表情は固かった。
表情が固いのは厳津井も同じだった。
厳津井は三角眼鏡をクイッと上げて言った。
「これは、この間の試験結果の答案用紙です。
あなたたち二人は70点と60点でした。
高山さんの60点はともかく、宇多川さんの70点は及第点の結果ですね。
ですが、不可解なところがあるんです。」
「と、言いますと?」
真紀が60点の答案用紙を見てキョトンとしている。
「ちょっと、これを見比べてくれるかしら?」
厳津井が真紀の答案用紙を取り上げ、宇多川の答案用紙と並べる。
答案用紙は、全体の7割ほどが、数字を書いて答える選択式問題。
残りの3割が、記述式の解答欄で占められていた。
問題なのはその内容。
答案用紙の記述がほとんど同じなのだ。
選択式問題の正解は一つなのだから、解答が同じなのは当然。
二人とも記述式の問題は正答している。
問題なのは間違えた部分。
二つの答案用紙は、間違えた部分までほぼ全く同じだった。
「30点分の誤答が全く同じなど、偶然にしてはできすぎています。」
厳津井は足を組んで二枚の答案用紙を指さした。
何を言わんとしているのかわからず、真紀が尋ねた。
「厳津井先生、それの何が問題なんですか?」
「これは偶然ではありえない。
少なくともあなたたちのどちらかが、カンニングをしましたね?」
「カンニング!?」
真紀の素っ頓狂な声が、職員室に鳴り響いた。
真紀と宇多川、少なくとも二人のどちらかがカンニングをした。
厳津井にそう指摘され、真紀はすぐに反論した。
「カンニングなんて、あたしそんなことしてません!」
「それを証明することはできますか?」
「それは・・・」
真紀は黙り込んでしまった。
一方、宇多川は弱々しく首を横に振っている。
「わたし、カンニングなんてしてません。
そもそも、人の答案用紙を覗くなんてできません。」
「先生の目を盗んで覗いたりしていないと、証明できますか?」
厳津井の質問は相当に無理がある。
無いことを証明することは難しいのだから。
このままでは、真紀と宇多川の片方あるいは両方が、
カンニングをしたとして処罰されかねない。
真紀は眉尻を下げて訴えた。
「あたし、誓ってカンニングなんてしてません!
それは、ちょっとはズルしましたけど、
他の人の答案用紙を見たり、そういうことはしてません!
ちょっと運に頼っただけで・・・」
すると宇多川は真紀に尋ねた。
「真紀ちゃん、カンニング以外に何かしたの?」
それは厳津井も聞き逃してはいなかった。
「高山さん、あなた、ちょっとはズルした、と言いましたね?
そのズルというのは何ですか?運に頼るとは?」
「それは・・・」
「それがカンニングなのではなくて?」
真紀が言い淀んでいると、ポンと肩に手が置かれた。
振り返るとそこには、真紀があまり馴染みのない男が立っていた。
「その話、私に詳しく聞かせてもらえないかな?」
この男こそ、真紀の学年の現代文学を担当する先生、
細田譲、その人だった。
真紀と宇多川に、カンニング疑惑が浮上した。
教師の厳津井は、二人の内少なくともどちらかがカンニングしたと言う。
真紀も宇多川も、何か事情があるのか、あまりはっきりと否定はしない。
このままでは話を聞くことは難しく、
二人ともカンニングをしたことにされかねない。
そこに現れたのは、細田譲という先生だった。
細田は、真紀と宇多川と厳津井に向かって尋ねた。
「事のあらましを、もう一度教えてもらえませんか?」
そうして、厳津井によって事情の説明がされた。
先日の試験の答案用紙を採点していて、奇妙な点に気が付いた。
真紀の60点の答案用紙と、宇多川の70点の答案用紙の、
誤答部分が全く同じだったのだ。
正答の内容が同じなのは当然。
誤答した解答が同じなのは、一つや二つならありえるだろう。
しかし、誤答の箇所と解答が全て同じとなれば、これは偶然とは思えない。
真紀と宇多川のどちらか、あるいは両方がカンニングしたに違いない。
以上が、厳津井の説明だった。
話を一通り聞いて、真紀と宇多川はどちらも黙っていた。
カンニングの否定も肯定もしない。
これでは埒が明かないと、細田は弱々しい笑顔を浮かべた。
「えーっと、それじゃあ、僭越ながら私が調べさせてもらおう。
厳津井先生と、高山君と、宇多川君だったか。
私の質問に答えてくれるかな?」
三人とも、神妙な表情で頷いてみせた。
細田は頼り無げに、しかし振れること無く、言葉を口にし始めた。
「まず、厳津井先生。
二人の答案用紙で全く同じ誤答部分とは、どういうことですか?
解答の言葉遣いが同じだった、ということですか?」
「いいえ、違います。
記述式の解答欄は、二人とも別々の言葉で記述していました。
同じ誤答だったのは、選択式の問題です。」
「選択式の問題と言うと?」
「問題文から正答を数字で選んで答えるタイプの問題です。
解答は数字で書くようになっていました。」
「ほう、どれどれ・・・」
細田は、真紀と宇多川の二人分の答案用紙を見比べる。
お互いに30点分の誤答は確かに同じ箇所同じ内容。
それらは全て選択式問題の解答だった。
それから細田は、宇多川の答案用紙を見た。
宇多川の答案用紙には、真紀の答案用紙より選択式問題の正答が幾らか多い。
「・・・うん?これは・・・」
細田は一つの共通点に気が付いた。
気が付いたこととは、
真紀が2か5と解答した時は、宇多川は5か2と解答していた。
つまり真紀が2と解答した問題は、宇多川は5と解答し、
真紀が5と解答した問題は、宇多川は2と解答していた。
「ふーむ、なるほどなるほど・・・。」
「細田先生、何がなるほどなんですか?」
真紀が頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。
すると細田はこう答えた。
「いやね、ちょっと確認したいんだけど、
君達二人の席は、宇多川君だけが窓際で、
高山君はそこから比較的近い席じゃないかね?」
「あっ、そうです!すごい。どうしてわかったんですか?」
「なにね、あの試験の日の天気がよくなかったのを思い出してさ。」
「天気?」
「ああ、おおよそのあらましが分かった気がするよ。」
「えっ!本当ですか!教えて下さい!」
「もちろん。
では、厳津井先生も、高山君も、宇多川君も、
僕の話を最後まで聞いてくれるかな。」
微笑んでいる細田の言葉に、三人は固く頷いた。
細田により、カンニング疑惑の真相が明かされる。
「まず、この事件は、厳津井先生の言う通り、カンニングだ。
カンニングが行われたのは間違いない。
しかし、カンニングするための道具に不備があって、
カンニングは不完全な形で行われた。
それが、カンニングの発覚を遅らせることになった。
もし、カンニングの道具が完全だったら、
二人の点数はもっと似通っていたはずなんだ。」
「細田先生、カンニングの道具って?」
真紀の言葉に、細田は壁際を指さした。
「窓だよ。
カンニングをした生徒は、窓を使って人の答案用紙を覗き見したんだ。」
それには厳津井が疑問を呈した。
「細田先生、お言葉ですが、窓を見ても答案用紙は見えませんよ。」
すると細田は微笑んで答えた。
「ええ、晴れの日であればね。
しかし、この試験が行われた日は、曇天で、
昼間なのに夕方のように暗かった。
外が暗いと窓は鏡のようになって、教室の中が覗けるようになる。」
「暗い外の窓を鏡にして、カンニングをした?
そんな不完全なやり方、成功するとは思えません!
席も遠いし、書き写し間違えたら点数が下がっちゃいます。」
真紀は不平を述べた。
しかしそれすらも、細田は予想していた。
「うん、そうだね。
いくら外が暗くなって窓が鏡のようになったとはいえ、
そんな不鮮明な鏡に映る遠くの答案用紙なんて、
書き写すには不安定すぎる。
でも、それが返って、
この方法でカンニングをしたことの証拠になる。
何せ実際にカンニングで書き写し間違いをしたくらいだからね。
それに、カンニングをした生徒には、それでもよかったんだ。
まず私が一番強調したいのは、カンニングの方法は大して重要ではない。
カンニングの方法は、いくらでも考えられるからね。今のは一例だ。
大切なのは、このカンニングをした生徒の目的、動機なんだ。
この生徒は、決して試験で100点満点を取ろうとしたわけではない。
もし100点満点を狙ったのなら、成績がイマイチな高山君ではなく、
もっと成績の良い生徒の答案用紙をカンニングしただろう。」
「先生、あたしの成績がイマイチなんてひっどーい!・・・そうだけど。」
「ははは、高山君、済まないね。
その不平は、カンニングした生徒にでも言ってくれたまえ。
ともかくその生徒は、カンニングするのに高山君の答案用紙を選んだ。
その目的は、カンニングによって高得点を取ってしまわないようにするため。
その理由は、きっとその生徒も、元々の成績は大して良くなく、
高山君と大差無かったからだろう。
カンニングをした生徒は、大して良くない点数を取りたかった。
その理由は、私の憶測になるのだが、
きっと、この試験だけは何らかの事情で、
高山君すら下回る成績になってしまう危険性があった。
だからそれを防ぐため、目立たないように、
いつもの点数と同じ程度の点数が欲しかった。
そこで、成績が同程度の高山君の答案用紙をカンニングした。
ところがここでカンニングした生徒は、ある失敗をしてしまった。」
「失敗?」
「簡単なことさ。二人の答案用紙を見てみたまえ。」
言われて、厳津井、真紀、宇多川の三人は二枚の答案用紙を見比べる。
「特に、高山君が誤答した部分を見てみるといい。」
「・・・あっ!
この答案用紙、選択式問題の解答の2と5が逆になってる!」
言わんとすることが伝わって、細田は頷いた。
「そうだ。
カンニングをした生徒は、
外が暗いだけの窓などという不安定なものを鏡にしていたせいで、
2と5が鏡写しで似た数字になっているのを見逃してしまったんだ。
そうして、高山君の2を5、5を2と書き間違えた。
ところが、元の高山君の解答が間違っていたために、
カンニングをした生徒は、答案を写し間違えることで、
返って点数が上がってしまったんだ。
カンニングを間違えることで点数が上がるなんて、皮肉なことだね。
これが、鏡写しの窓がカンニングに使われた根拠だよ。」
ふふふっと笑う細田に、真紀は口を尖らせた。
「つまり細田先生。
このカンニングは、100点満点を狙ってはいないから、
あたしのような成績がよくない人の答案用紙をわざわざ狙った。
そして窓の鏡は見辛くて、2と5を写し間違えたら、
逆に点数が上がってしまって、目立つことになって、
カンニングの疑いが出てしまった、そう言うんですね。」
「そう。そういうこと。
つまりカンニングをしたのは、高山君ではない。
高山君の席の近くには、鏡になるような窓は無いからね。」
その先の言葉は厳津井が継いだ。
「宇多川さん、あなたがカンニングをしたの?
どうしてそんな馬鹿なことを。
カンニングは見つかったら厳罰、全て0点になってしまうのよ?
それだったら、一教科でも赤点の方がよかったでしょうに。」
「・・・ごめんなさい。ごめんなさい。」
そうして宇多川は涙ながらに語り始めた。
宇多川の家は元々裕福ではなかった。
両親とも共働きで不在が多く、
年の離れた数人の弟妹の面倒は、姉の宇多川が観る事になっていた。
そこに、不幸にも試験前になって、弟妹達が熱を出してしまった。
看病をするべき両親は仕事で不在。
だから宇多川は試験勉強をする間もなく、弟妹の看病をしていた。
そしてそのまま試験を迎えることになってしまった。
このままでは赤点になってしまう。
「だから、こんな愚かな、カンニングなんてしてしまったの。
真紀ちゃん、巻き込んでごめんね。
真紀ちゃんの解答なら、わたしと同じくらいだと思って・・・」
泣き崩れる宇多川を、真紀と厳津井が慰める。
こうして、カンニング事件の犯人は明らかになった。
ただし、事情が事情なので、大事にはしないよう細田はお願いし、
厳津井も大事にしないことを了承してくれた。
こうして、カンニング事件は一件落着したように思われた。
泣いている宇多川は厳津井が送っていくことになった。
二人を見送って、真紀は細田を見た。
その目は星のように輝いていた。
「細田先生、すごい!
話を聞いただけで、事件を解決しちゃうなんて、
まるで探偵みたい!」
「ははは、探偵はよしてくれよ。
私だってれっきとした先生だよ。
それに、私が解決したことなんて、些細なことさ。
厳津井先生の方が、よっぽど宇多川君の問題を解決するはずさ。
家庭の問題という難しい問題をね。
私からも、寛大な処遇をもう一度お願いしてみるよ。」
「・・・なるほど。細田先生って、結構気が利くんですね。
そして、それも細田先生が真相を究明してくれたからこそ。
細田先生がいなかったら、今頃あたしがカンニングの犯人にされてたかも。
あたし、細田先生のこと見直しました!尊敬してます!」
「それは光栄だね。見直したって言葉は引っかかるけども。」
「あはは、それは言葉の綾ですよ。
でもね、実は先生もまだ気が付いていないことがあるんです。」
「と、言うと?」
「・・・実はあたしもある意味、カンニングしてたんです。」
「まさか。どうやって?
窓からも遠い、教室の真ん中付近の席、
他の席の答案用紙を盗み見る道具なんて無かったはずだ。
もしかして、他に誰か共犯でもいたのか?」
「ううん、そうじゃないです。・・・これです。」
慌てる細田に、真紀はペロッと舌を見せると、手を差し出してみせた。
手に乗っていたのは鉛筆。
ただし、ただの鉛筆ではない。
書く方と逆端の部分を削って数字を入れ、サイコロにした、
昔懐かしいサイコロ鉛筆だった。
「あたし、選択式の問題は全然わからなくって、
全部このサイコロ鉛筆で解答を決めたんです。
これって、人の答案用紙は見てないけど・・・」
「・・・うん、広義のカンニング、不正行為に相当するだろうね。」
つまり真紀もテストをまともに解答していなかった。
だからこそ、それを書き写し損じた宇多川の方が高得点になったのだった。
細田は唸り、お手上げとばかりに両手を上げた。
「まさか、二人ともが不正行為をしていて、
カンニングした宇多川君の方が点数が良かったなんて。
だから、カンニングをしていない高山君もはっきり否定しなかったわけだ。」
「えへへ、あたし、細田先生から一本取っちゃいましたね。」
「高山君が私から一本取った?それは違うなぁ。」
「え?」
「高山君も不正行為を働いたとして、再試験ということだよ。」
「そんなぁ!あたし、ちゃんと自白したのに!
それに試験では60点を取ってますよ!」
「試験は結果の点数が全てじゃない。その過程が大事なんだ。
それに再試験は、生徒のためにあるんだよ。
さあ遠慮せずに、一緒に勉強しようじゃないか。さあさあ!」
「えーん、細田先生の鬼!」
そうして真紀は、細田に生活指導室へと連れて行かれてしまった。
結果として真紀も宇多川と同様の扱いとなった。
補講で試験勉強のやり直し、そして再試験。
しかし、終わってみれば、
誰も厳しい処罰を受けず、授業から置いていかれることも無く、
これがもっとも望ましい結果のように真紀には思えるのだった。
そしてこれが、真紀の細田への興味の、第一歩だった。
終わり。
好奇心旺盛な元気っ娘の、高山真紀と、
頼りな気な見かけに似合わず洞察力が高い、細田譲と、
女子生徒と先生のコンビで事件を解決する物語です。
今作は二人が一緒に行動するようになった、
その最初のきっかけの話です。
テストにカンニングは付き物、というのは言いすぎですが、
カンニングが無くならないのもまた事実。
テストでのカンニングをテーマにしました。
現代でのカンニングは、通信や替え玉など、
もう素人が捕まえられる限度を超えてしまいました。
この物語では、そういう悪質なカンニングではなく、
やむを得ずカンニングをしてしまう、それも小規模にという話にしました。
家の事情でもカンニングはカンニング。
でも悪意はないので、寛大な処遇になることを希望しました。
お読み頂きありがとうございました。
この作品は元々、短編作品として書き始めました。
もしよろしければ、そちらも御覧ください。
真紀と譲のライトミステリーな日常(短編版)
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