第8話:未討伐レイド出現!暴嵐獣フルグラディス
ログインと同時に、空は裂けた。
《緊急レイド発生!未討伐ボス・暴嵐獣フルグラディスが出現しました》
全サーバーに緊急アナウンス。数百人のプレイヤーが転移され、空中浮島《ノア=クレーター》に集結していた。
遥か上空、風の渦を纏った巨大な獣が咆哮を放つ。
「うわ……でっか……!」
「どうやってあんな空中を飛び回るやつに攻撃当てんだよ……」
それが《フルグラディス》――LBO最大級の飛行レイドボス。翼の展開だけで突風が吹き荒れ、魔法も弓も軌道を逸らされる。
討伐チームの先鋒が攻撃を試みるが——届かない。
飛行魔法で近づいても、風圧で弾き返される。ソードマン系はそもそも届かない。
《現状、攻撃成功率は3%未満!》
《誰か当てろよ!》
《こいつ、バグボスじゃね!?》
戦場のチャットは混乱し、参加者たちは半ば諦めムード。
その中に、美蘭の姿があった。
もちろん、装備もスキルもない。拳ひとつ。
だが彼女は、フルグラディスの挙動を見上げ、静かに言った。
「……風の流れが見える」
「は?」と近くのプレイヤーが言った。
美蘭は目を細め、拳に気を込める。
風が舞い、空気が震え、獣の翼が空を切る——その動きの“流れ”を、彼女は“気”で読む。
(……あそこに入れば、風の渦は薄くなる)
美蘭は地を蹴った。
一段、高く。足場を蹴り、さらに高く。
「二段跳び……!? ノークラスで!?」
だがそれで終わらない。
美蘭は拳を腰に引き、風の気流を感じながら、空中で姿勢をひねった。
「如月流・気功脚術……《風裂跳》!」
三段目の跳躍で風を切り裂き、爆発的な推進を得る。
地上の技を、空中戦に転用する“発想の勝利”だった。
美蘭の拳が、フルグラディスの腹部に命中。
獣が呻き声を上げ、ふらつく。
《ヒット!?》
《拳聖が攻撃当てたぞ!!!》
《飛んでるのになんで接近できんだよ!?》
その瞬間、観戦チャットが爆発した。
美蘭は落下しながら、軽やかに浮島の縁に着地。
着地の際、膝を突いたものの、その目に迷いはなかった。
「風に乗るのではなく……風を読む。ただそれだけのことです」
ギルドもスキルもない少女が、空の王者に一撃を与えた。
その事実は、レイド史に深く刻まれることとなった。
《拳一つで未討伐ボスに初ダメージ記録!》
《拳聖、美蘭。新たなる伝説の始まり》
だが、これは序章に過ぎない。
彼女は、これを“ソロで倒す”と宣言する。