第6話:美蘭 vs 鬼神クラウス(ランキング1位)
武神ランキング――頂点に君臨する男、《鬼神クラウス》。
身の丈ほどもある漆黒の大剣を、まるで細枝のように振るう絶対王者。五期連続防衛、勝率100%、タイマン戦未だ無敗。
「お前が……あの“拳聖”か」
観客席が静まる中、闘技場に黒い影が降り立った。
全身に黒鋼の鎧をまとい、角の生えた鬼面を被る大男。その背に、黒炎のようなオーラを纏った大剣。
一方の美蘭は、いつもの道着姿。武器もエフェクトもなく、たった一人、拳を構えていた。
「拳聖如月美蘭。……今日は、武器に頼らない“武”が、どこまで通じるのか試させてもらいます」
クラウスは微笑の気配を見せると、剣を肩に担ぎ上げた。
試合開始。
大剣が唸りを上げる。
踏み込みと同時に、クラウスの剣が風を裂いて迫る。初撃から全力、相手を舐めるつもりなど毛頭ない。
美蘭は瞬時に腰を落とし、斜め前に崩すようにステップ。
大剣の軌道を紙一重で逸らし、すれ違いざまに一撃。肘打ちが鎧の脇を叩く。
(重い……だが、通る)
美蘭はすぐに離脱。間合いを測る。
クラウスは眉一つ動かさず、ただ剣を振るい続ける。
二撃、三撃、四撃。風が裂け、地面が抉れ、衝撃波が観客席を震わせる。
だが美蘭はその全てを見切る。“気”を読む。剣が振られる前の重心移動、膝の沈み、肩の僅かな沈下。
読める。——だが、“追いつける”とは限らない。
(これは……剣ではなく、“術”)
クラウスの剣技は、筋力や反応速度だけでなく、“戦場全体”を使ったものだった。揺動、錯覚、意識誘導。まるで一つの“武道”。
「拳聖よ、何度か俺の剣を避けたな」
クラウスが呟く。
「なら、次は“避けられない技”を見せてやろう」
クラウスが大剣を逆手に構え、深く腰を落とす。
全身の魔力とシステムが連動し、大地が黒く震え始めた。
《武神奥義・黒滅斬》
一撃で戦場を削り尽くす、鬼神の必殺技。
観客が固唾を呑む中、美蘭は一歩、前に出た。
「ならば、こちらも……真の拳で応じます」
気を整える。深く吸い、吐き。拳に意識を集める。
《如月流・気円突》
クラウスが剣を振り下ろすと同時、美蘭が拳を突き出した。
衝撃音。空気が引き裂かれる。
黒滅の剣が地を焼き、地形を変えるほどの斬撃が走る。
しかし、その中心、美蘭の拳がクラウスの胸に届いた瞬間——“技”が、崩れた。
「なっ……!」
剣の気流が、乱れた。それは、完璧なタイミングで突き込まれた“一点突破”によって、バランスを崩された証。
クラウスの身体がよろけ、そのまま後方に倒れた。
《Winner:如月美蘭》
観客席が爆発するような歓声に包まれた。
《鬼神クラウスが……敗れた!?》
《武器なしで!?》
《拳聖、ランキング1位に!!!》
クラウスは仰向けに倒れながら、微かに笑った。
「参った……“剣の届かぬ間合い”を狙い撃つとは。完全に、俺の負けだ」
美蘭は静かに立ち、深く礼をした。
「武を尽くした戦いに、感謝します」
その瞬間、全サーバーに告知が流れる。
《全ユーザー通知:新武神ランキング1位、如月美蘭に更新されました》
少女拳士の名が、VR世界中に轟いた瞬間だった。