表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

第4話:武神ランキング開幕! 無職(ノークラス)最下位からの挑戦

風が鳴いた。


 武神ランキング――その闘技場に、美蘭は立っていた。

 眼前の相手は、ランキング第97位《風刃のリュカ》。細身の体格に軽装のレザーアーマー。腰に下げた双剣は、すでに抜かれている。美蘭を警戒しているのだろう。


「素手……? 武器もクラススキルも無し? 本当に、君が推薦されたっていう“如月美蘭”か?」


 リュカの声には驚きと、どこか油断が混じっていた。

 当然だ。これまでに対峙したどのプレイヤーとも、美蘭は違っていた。彼女は無職ノークラスで、装備は布の道着のみ。武器スロットすら空欄だ。


「ええ。よろしくお願いします」


 美蘭は静かに一礼した。まるで道場の試合前のように。

 リュカは片眉を上げ、「はっ」と鼻で笑うと、構えた。


 ——開始の合図が鳴る。


 その瞬間、リュカが風と共に動いた。

 ステップ一つで距離を詰め、右手の剣が横薙ぎに走る。


 スキル《風牙斬》。高速移動と斬撃を重ねる、風剣士の基本にして強力な先制技。


 観戦者たちが「終わった」と思った、その一瞬。


 美蘭の体が、ふっと沈むように下がった。

 腰を落とし、剣の軌道の下を通るように滑り込む。


「なっ——!?」


 リュカの目の前に、美蘭の影が現れる。

 その拳は、既にリュカの腹部に届いていた。


 打突音。風を裂く音。


 一撃で、リュカの体が吹き飛んだ。


 場外ギリギリまで跳ね飛ばされたリュカは、膝をついて咳き込む。腹部には明確な衝撃判定、HPバーは一気に赤へと転落していた。


 観客席がどよめく。


「は!? 今の、見えたか……?」


「ノーモーションで避けて……カウンター入れた?」


「いや、入力履歴無いって話だろ。つまり、あれ身体操作だけでやってんのかよ」


 リュカは、苦しみながら立ち上がった。


「……お前、何者なんだよ」


「ただの拳法家です。でも、ちゃんと修行してます」


 そう言って、美蘭は構えた。

 重心は下、両拳は自然に前へ。無駄が一切ない。体全体が“一つの技”のようだった。


「面白い……なら、全力でいく」


 リュカがスキルを連発し始める。《風刃連突》《翔風》《疾雷》——風剣士の連続技が舞い、闘技場に風の渦が巻く。


 しかしその中でも、美蘭は一歩も退かない。風の切っ先を読む。剣の速度を見切る。そして、タイミングを見極めた瞬間——


 彼女の拳が、空を断ち、風を割った。


 ——バシュッ!


 まるで弾かれたように、リュカの体が宙を舞う。今度は闘技場の壁に叩きつけられ、HPバーがゼロになる。


 システムメッセージが流れる。


《Winner:如月美蘭》


 無職、無スキル、無装備——

 だが、その拳は誰よりも“武”に近かった。


 試合後、控室でリュカは笑っていた。


「ハハ、まいったよ。完敗だ。まさか……“本物の武道”が、ここまで通用するなんてな」


「ありがとうございました。あなたの剣も、風のように綺麗でした」


 自然体で頭を下げる美蘭に、リュカは素直に拍手を送った。


 


 その日の夜、武神サーバーは騒然としていた。


 ランキング下位から現れた“無職の拳聖”。

 剣も魔法もなく、ただ拳一つでランキング97位を沈めた彼女は、一躍注目の的となる。


 そして、次の対戦カードが決まる。


 ——対戦相手:第7位《黒牙こくがのグリード》。


 斧使い。破壊と殺戮を好む暴虐の戦士。


 だが、美蘭は変わらず拳を握り、次の闘いへと歩を進めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ