第18話:拳覇オンライン、完結。そして次なる挑戦へ
ラグナ・バースの世界が揺れた。
虚空の龍《ヴァン=アール》の討伐。誰も見たことがないボスであり、誰も接敵したことのない“確率0.0001%”の幻。それを、無職クラスの少女・如月美蘭がソロで倒した――
運営は緊急会見を開いた。
「今回の件を受けまして……近日、“拳専用クラス(仮)”を実装いたします!」
画面には、美蘭の戦闘ログが映し出される。拳の軌道、気配の読み、敵の芯を穿つ打撃。それはもはや武術であり、アートだった。
SNSは大荒れだ。
《美蘭の拳、バグじゃなかったんだ……?》
《拳専用クラスくる! 無職卒業できる!?》
《ってか美蘭はいつの間にか“拳覇”って称号ついてるんだが!?》
騒がしさとは対照的に、彼女は静かだった。
ログアウト直前、GMのキャラが彼女の前に現れる。
「如月美蘭さん。よければ拳専用クラスのテスターに……」
だが美蘭は、穏やかに首を振った。
「いえ。私はこのままでいいです。無職の拳――それが、私ですから」
その言葉に、一瞬GMが息をのむ。
「……かしこまりました。“拳覇”の称号は、あなたにこそふさわしい」
美蘭の画面に、《称号:拳覇》の文字が浮かぶ。システムすら認めた、唯一無二の称号。
そして、静かにログアウト。
VRゴーグルを外すと、静かな道場の空気が戻ってくる。外は朝の光。鳥の声が、ほんの少し遠く聞こえた。
鏡の前で一礼し、黙って黙想。深く、深く、息を吸う。
あの激戦も、時間停止も、虚空の龍も――すべては、己の“拳”が切り拓いた世界だった。
ふと、目を開ける。
「……さて、今日は何から始めようかしら」
そう呟いた顔には、柔らかな笑みが浮かんでいた。
道場の片隅に目をやると、そこには一つの小さな棚がある。
その棚には、VRゴーグルと並んで、一枚の称号証が飾られていた。
《拳覇:如月美蘭》
――無職ノークラスから、最強へ至った者。
次の挑戦は、現実の空気の中にある。
拳を構えた美蘭の目に、迷いはなかった。
これは、ただのゲームではない。
拳で築いた世界。拳で変えた世界。
そして、拳で貫いた信念の物語。
――完。