表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/18

第13話:止まった時を“気”で超える

「また……止まった」


 世界が、静寂に沈んだ。


 冥王バルザロスは、かすかに笑みを浮かべる。

 破壊された魔法陣群を再構築し、第二段階に移行したのだ。


「気配を感じ取って殴るなど……それは初見殺しに過ぎぬ。ならば今度は、時間そのものを凍結しよう」


 それは“第二の時間停止”——今度は魔法陣を用いず、冥王自身の魔力だけで行使される純粋な時の支配。


 その瞬間、美蘭の意識は深い闇の中に沈み込んだ。


 視界は白く、聴覚も遮断され、筋肉すら動かない。


 ……なのに。


「“気”は……まだ流れている」


 美蘭の中にある“気の流れ”は、誰よりも敏感に、世界の変化を感じ取っていた。


 死者の王の動き、わずかに指先が動き、魔法陣が展開される気配。目にも見えない、音もない。それでも、美蘭の精神はそれを“読む”。


 ──体は動かない。ならば、どうする?


 美蘭の思考は、修行の日々を思い出していた。


 豪雪の中、動けぬ身体で呼吸だけに意識を注ぎ、

 暗闇の稽古場で、師父の気配を読んでいた日々。


「動かなくても……感じられれば、打てる」


 ゆっくりと、意識の中で拳を握る。


 “心で打つ”。


 VRゲームであろうと、操作が遮断されていようと——

 フルダイブとは、精神と肉体をつなぐもの。


 意識が動けば、気も動く。

 気が動けば、拳は打てる。


 ズンッ――!


 世界に一撃の衝撃が走った。


 止まっていた時間が、一瞬だけ歪みを見せた。


「な……何者だ? この空間で、なぜ拳が届く……!」


 バルザロスの表情が歪む。


 美蘭の拳が、動いた。


 一瞬だけ再開した動作を利用し、冥王の側頭部に打撃を放つ。


 ズガァン――!


 周囲の空間が大きく振動し、ログが走った。


《冥王バルザロスの“完全時停止”スキルに干渉する動作が検出されました》

《対象プレイヤー:拳聖(如月美蘭)》

《本行動はバグではなく、プレイヤーの入力精度による“意識干渉”と判断されます》


 運営のモニターには、手動観測により判定されたログが表示された。


「まさか……止まった時の中で、“気配”を読んで行動した? 人間の反応速度じゃない……」


「いや、これは意識の領域……“気の探知”と“意識打撃”の合わせ技だ。……彼女は、時を読んだんだよ」


 運営スタッフがざわつく中、美蘭は静かに呼吸を整える。


「拳とは、肉体だけじゃない。意識と気、全てを鍛えた者だけが“超える”ものです」


 その言葉と共に、バルザロスの胸元に再び拳が打ち込まれる。


 時間停止が崩れ去る。


 冥王はついに、膝をついた。


《レイドボス:冥王バルザロスが撃破状態に移行しました》


 未討伐レイド二体目、ついに陥落。


 しかも、それは“ソロ討伐”であると記録された。


「バグじゃない……仕様内だ……!」


 美蘭はログアウト画面にも目をくれず、空を見上げて小さく呟いた。


「さあ、次の拳を打ちましょうか」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ