第11話:一人で戦場を制圧する拳
王国ギルド戦争・二日目。戦場の中心地《王都跡地》に、白い服を翻しながら歩く少女がひとり。
如月美蘭。無職、ノークラス。スキルも装備もなし。
だがこの日、彼女は戦場のすべてのプレイヤーから“危険存在”としてマークされていた。
「敵味方問わず、見つけ次第で排除せよ!」
《聖華連盟》《黒鉄の誓い》、両陣営が同時に出した命令はただ一つ。
——あの拳使いを止めろ。
その言葉通り、数十人のプレイヤーが美蘭を包囲する。弓兵、魔法使い、盾兵、剣士。ギルド最精鋭の混成部隊だ。
「——構えましたね」
美蘭は一歩踏み出し、指を鳴らした。
刹那、気功掌が放たれる。
音もなく、空気がうねり、十人が吹き飛ぶ。
「何っ……!」
盾兵が驚きの声を上げる前に、彼女の掌底が腹を穿った。
後方からの火球魔法が飛来するが、美蘭はわずかに身体を傾けるだけで回避。その動きにスキル名はなかった。ただ「気の流れを読んだ」だけ。
敵の集中砲火すら、彼女の中では“ただの修行”。
「おかしい……魔法無効スキルなんて、どこにも書いてないのに……!」
誰かが叫ぶが、もはや誰にも止められない。
全方向から襲いかかる連携攻撃を、すべて見切り、すべて迎撃するその姿。
「拳、とは即ち……戦場に生きる理」
気を練り上げた掌が、地を穿ち、天を裂く。
ドオォォォンッ!
範囲攻撃《気功・天砕掌》。全てを無に帰すその技に、両軍が後退する。
戦場が静まる。
次の瞬間——
《速報:無所属の拳使い、単独で王都中央を制圧》
《戦場スコア、片軍より上!?》
《GMコメント「えー……開発に報告します」》
実況チャットは混乱。ギルドチャットは悲鳴。
それでも彼女は変わらない。ただ、修行のように拳を振るう。
「……次はもう少し数を増やしてみますか」
誰かが言った。
「……あれはもはや“プレイヤー”じゃない。イベントの裏ボスだ……!」
やがて、ひとつの異名がチャットで広がる。
——『拳一つで戦争を終わらせる女』
この日を境に、彼女の存在はPvPバランスの脅威として公式にも記録されることとなる。
だが、彼女にとってはただの一日。ひとつの修行。
「……少し、拳が鈍っていたかもしれませんね」
淡々と、次なる敵を探して、美蘭は戦場を去っていく。
——次回、第12話「冥王バルザロス、現界す」