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夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
三章 永遠の姫君
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新たな愛

あれから、結構な歳月が経過した。


私は家を転々としながら前に使っていた鈴花や斎凛などの名前を使って各地を転々として過ごした。


雨利は今何をしているのだろう。




初めてその人に会ったときは、もうほとんど覚えていないけれど、少なくともいい人そうだととは思ったのは確かだった。


隣の家に住む、溌剌とした女性。


一緒にお祭りに行って、おそろいの根付を買った。


ご飯も食べて、お泊り会もして、愚痴を言いあった。


しばらくして、私はその人を“好き”になったのだと自覚した。


笑う顔、不安な顔、はしゃぐ顔。全てに目を奪われ、心が温かくなって、苦しくなる。


こんな経験、友にすらしたことがない。


けれど私はその想いを告げることはしなかった。


私は歳を取らない。たとえ一緒になれたとしても共にいられるのはほんの少し。影に情を抱いてどうする。


そして彼女は結婚する。


「斎凛も旦那さんを見つけないとね」


ありがとう。でも私は死ねないの。どこまで行っても死ねないの。人はひとりで死ぬのが怖いから結婚するのだと聞いた。私はそれを果たせないの。


彼女は私よりも早く、産褥熱で死んだ。しかも子供も同じ頃に死んでしまった。


「ありがとう、斎凛。あなたのおかげで私の人生は明るくなったわ」


ここに来ても、本名を呼ばれない。けれど、その言葉は救いとなった。


それからは、私は彼女の姿を使っている。




私は旅の間、普通の人生を何度か送った。歳を取らないので五年と同じ土地にいられないことを除けば満ち足りていて、普通の人生を送れていると思った。


出会う人も優しく、京家のことなんか忘れてしまいたいと囁く心の声はたくさんあった。


時折発動させて聞く声は、もううるさい騒音ではくなり、人の心の望むところだけを見られるようになった。




さらに時はすぎ、いい加減戻らなくてはと思い始めていた頃、一人の尋人がきた。


「はい」


私はその頃山小屋に住んでいた。たまに旅人や村の人が来る以外、一人で過ごしていた。


外を見て飛び上がった。


あの特徴的な髪型。途中までを三つ編みにして2回輪っかにして後ろでお団子にした髪型をした、スラリとした女の人。


あの頃とちっとも変わらない、雨利が雨に濡れて立っていた。


「雨利?」


「あら利音。嬉しいわ、覚えていてくれて。姿が変わったのね」


あの頃と変わらないのにどこか疲れた様子の雨利。ここに訪ねてくるなんて、何かあったのかな。


「ここ、仙人の館みたいね」


「今はそうは思わなくなったけどね」


雨が屋根を伝って落ちる。火がはぜた。


「私も逃げてきた。」


「え?」


衝撃的なことを、なんてことなさそうに言うために細心の注意を払って雨利はしゃべった。


「利家から、逃げてきた」




雨利は元々霧雨の名を持っていたらしい。


京の姫として次期当主候補として教育を受け、そのままなら利家にならず当主となっていたはずの人物だった。


「でも私は失敗したの」


同じ頃に当主候補だった天弓の両親に病にさせられ、抵抗しきれずに死んでしまった。


「私はあなたたちの言う”偉大な小夜さま”と同年代なの。」


そう笑って教えてくれた。


「早い死だった。心残りがないと言えば嘘になるし、もっと生きていたいと思ったのも本当。」


幸か不幸か彼女の願いは叶えられ、利家として永遠に近い人生を手に入れた。


「あなたがくるまでは利風について各地を旅していたの。」


まだ幼かったから、利家としての仕事をするには精神が成長する必要があった、らしい。


利風と旅をし、各地を巡り、成長していった。


「幸いにもあの時美利が京家を切り盛りしていたと言っても良かったから、ちょうどいい頃だったの」


美利の能力は、式神。何体もの式神を使役し、京家の使用人すべては美利の式神だ。


そして、あの偉業が行われる。


「桜守に小夜さまを守らせたのは命令の力を使った利風。華の方に認めさせたのは利風。ぜーんぶぜーんぶ利風。」


妹のように可愛がっていた小夜が切り開く道は、すでに整備されたものだった。


それを隣で見ていた雨利には絶望がたまる。


たまって、積もって、山となる。


「私は、小夜が自力で切り開いたのだと、思っていたかった。」


小夜を思いながら利風のやり方に意を唱えるつもりもなく、雨利はだだ過ごし、そして私がやってきた。


「驚いたわよ。小夜に育てられたのですって?」


まあ、そうなるのか。


「私は、利家を壊したい。んー、もう少し優しい感じ。利家の人たちにも選択の権利を与えたい。うん、これがしっくりくる。」


ぶつぶつ言っていたが、要は内部反乱を起こそうという提案だ。


けれど、あなたは幸せなのよ。私は死ねない。でもあなたは死ねるから。


いつかわからない救いでも、確かにあるじゃない。あなたには、”死”があるじゃない。ほかに何を望むのか。


「ねえ、利音。あの二人が元は姫だったことは知ってるよね」


あの二人とは、利風と美利のことか。


「どうかしたの」


「利風は、風家の人だった。貴族には向く力だったのに京家に追いやられて、補佐官と教育係として立派に人生を終えた。美利は当主候補だったけれど死んでしまった。」


いきなり何を言い出すのか。初めて聞く二人の過去だ。


「不満がなくて満ち足りた人生でも、何も残せていないと判断されたら利家になる」


利家は、姫君の中で何も残せなかった人がなるのだといった。


「生きていてら京家に利用され、役目を果たせないまま死んだら利家として死んでも利用される」


外の雨はやまない。


雨利が泣いている。きっといつまでもやむことはなかったのだろう、この雨は。


「悲しい思いをするのは、私たちで最後にしようとは思わない?」


差し出してきた雨利の手を、私は掴んだ。

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