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夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
二章 姫君は家族を求める
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みつばち

ついに2章の幕開けです!

わたしの中のお母さまは偉大で揺るがなくて尊敬の対象で師匠で絶対だった。


わたしは偉大なお母さまの娘であることを誇りに思ってきたし、それに恥じない振る舞いをしていると思っている。


けれどそれは、同時にわたしが孤独であることの証明でもある。




「外が騒がしいようだけれど、何かあるのか?」


そう京宮の主、夜見妃(よみきさき)さまが聞いてきた。私は手にしていた櫛を置く。一つだけ簪で留められた夜見妃さまの髪は本当に艶々していて美しい。乳母子ながらいつも見惚れる。


「風宮に新たに妃が入るそうです。名は、華風のうみと。」


そうかと顔を伏せる妃。


妃はこれまでたった一人の妃だったから新しい人が来て不安なのかもしれないと思って私は笑った。


「うみ妃は夜見妃さまより5つ年下の9歳らしいですから、まだまだ子供ですよ。」


けれどこれには反論された。


「わたくしがここに来たのも十二の時であろう。子供だからと舐めてかかるべきではない。そもそも東宮さまとてまだお若いのだ。大人になればこの程度の歳の差はなんともない。」


気を抜くな、と言って宮の中へ戻っていく。


私は侍女をしているがあくまで乳母子。決して侍女というわけにはいかないが、京家での立場はむしろ夜見妃さまより高いので特殊な扱いを受けている。


ただ、人前に出るときは面を被らなくてはいけないが。




うみ妃への挨拶はあちらが格下の位に当たるということでうみ妃の方からやってきた。


「初めまして、夜見妃さま。風宮を預かりますうみと申します。よろしくお願いします」


そう立ったまま礼をする彼女は本当に子供だった。風家らしく薄水色の衣を着ているのもまるで未熟さを表しているようだった。


「よろしく頼む。わたくしたちは共に妃なのだからそう畏まらずとよもい。時折遊びに来るといい。歓迎しよう。」


顔を上げたうみ妃はこけてしまった。


妃として格上の地位を賜る妃の前での粗相。


周囲が凍りつく中、夜見は涼やかに微笑んだ。


「お気になさいますな、妃殿下。慣れぬ環境ゆえ、誰しも一度や二度はございます。むしろ、そのようなお心の内を知ることができ、わたくしは嬉しく思います。」


うみ妃の顔から強張りが消え、周囲にも安堵の空気が流れた。


誰もが彼女の聡明さと隙のなさに感嘆し、彼女を信頼し、頼りにした。


私はそれを隣で冷ややかに見つめていた。いつから夜見はああなってしまったのだろう。


そうして二人の妃の面会は終わった。




その夜、夜見妃さまの寝る前の世話をしていると話しかけられた。


「うみには、何か見えたか?」


それは、私の能力の話だ。


「いいえ。」


見ようと思わなければこの瞳は光らないのに、どうしてそんなことを言うのか。命令されたら見るけれど。


「そうか」


それっきり話さなかった。




その日は一日休みをいただいたので後宮の散策をしていた。


とは言っても面をつけているので目立つこと目立つこと。行く先々で人に二度見される。


そうして歩いていると、前からやけに主が幼い一行がやってきた。うみ妃だ。


あわてて端によけて頭を下げる。


「あれ?京宮の侍女だよね。一人で何してるの?」


まさか覚えていられたとは。まあこの面姿だしな。


「本日は休みをいただきまして、図書棟に行こうとしましたが日を浴びたくてうろついているのです。」


「なら、今暇?」


無邪気な人。けれどそれ以外の感情もある。しっかりした人だ。


「何かご用でしょうか」


「宮についてきてくれない?」




風宮。後宮内では華宮に次いで大きな宮だ。


そこで私はなぜか妃と向かい合って座っている。


「改めて自己紹介するね。わたしはうみ。華風のうみ。ここの主で妃。こっちは侍女の真耶(まや)


真耶と紹介されたのは無表情でさっきから妃以外の侍女へ視線を送っている。


「京家、雛莉(ひなり)と申します。立場としては侍女になります」


あくまで乳母子。侍女よりこういう暗躍の方が好きだ。


「早速なのだけれど、宮の管理はどうやってしたらいいの?わたし、今まで何もしてこなかったから何をすればいいのかわからないの」


この年齢だと教養を叩き込むだけ叩き込んで送り込まれたのだろう。執務の経験を積むのは教育を終了してからから、よっぽど熱心なら教育の一環として行うがそのようなことを風家がするとは思えない。


だが、私の出る幕では確実にない。


「なら侍女に任せるとか夜見妃に教えを乞うとかありませんでしたか?」


なぜいきなりこちらにお鉢が回ってくるのか。


「侍女は、元々ついてきた人たちではないから…妃に伺うのは少し…」


そう着物の裾をいじって話している。かわいらしいというか、妃らしくないと言うか。


「あなたは侍女の中で違う衣を着ていたから侍女頭かと思って、知ってるかなって。」


そういう教養はしっかりしている。


「わかりました。妃に許可をとってからでないと私は自由に動けませんので、まず許可を取りたいので書類を書いていただいてよろしいでしょうか?」


さすがに乳母子の独断で一応敵である妃の援助はできない。


うみ妃はすんなり書いてくれたので、早速夜見妃さまに見せに行った。


「私はあくまでお母さまの娘なだけでここにいる、力のない模様のない京家だ。あなたが一々許可を取る必要はない。」


「しかし、形式上は許可が必要なのです」


そんな問答を三回ほどやってから許可を出してもらった。




「それでは、まずこの宮の人員についての資料をいただけますか」


侍女頭らしい真耶が取ってきた書類は今の勤務者の経歴と顔写真と今の配属先が書いてあった。こんなもの外部の私に見せてもいいのだろうか。


「妃、私はいつ戻るかわからないので学んでください。わからないところはどんどん聞いてくださいませ」


妃は顔の周りを二本の三つ編みにしてくるりと巻いていた。




あのとき引き止めればよかった。


私はただのお母さまの娘で、雛莉は高位な能力者だから、私が制限するべきではないと思った。


けれどそれを受け入れて去っていく雛莉を見て、なぜだか引き留めたいと思ってしまった。


「妃に不似合いだ」


自嘲の言葉は誰にも拾われずに薄暗い部屋に落ちた。


むかしから妃らしく振舞って。そうあるべきと教えられて。


それを後悔したことはない。けれど…




わかったのはここの人たちは碌でもないことだった。


やけに侍女が多いし、仕事の効率も悪い。無駄に人数がいる分仕事が有り余っている。


うみ妃曰く、真耶以外はここにいた人たちとのことだ。


その人たちをなんとかする方法はないのかと考えていると、夜見妃さまから呼び出された。


「あの宮、気がついていると思うけれど妃への忠誠心がない。何か対策は打てるか?」


「仰せのままに。」


なにせ私の目は…




「では妃、明日一日だけ侍女を私一人にしてください。仕事を代わります。」


帰ってすぐに妃に頼んだ。


「なんで?」


「今にわかります」


きっとその方が気がつくだろう。




「おはようございますうみ妃。」


盥に入れた少し冷たい程度の水を差し出す。


その隣には今日の衣装と朝餉が並んでいる。


妃は目をぱちくりさせてから顔を洗って着替えた。もちろん着替えは手伝った。


その後髪を整え今日のやるべきことを済ませる。


本当にやったのは侍女の役割だけだ。けれどうみ妃は呆気に取られていた。


「なんでこんなにしてくれるの?」


「普通でございます。むしろ妃にこの程度しかできずやはり一人だと不便ですね」


これでわかっただろう。




翌日、うみ妃は侍女全員を集めた。


もはや宮女ほどいる侍女。中にはみたことない顔もいた。


「今から名前を呼ぶから、呼ばれた人は出てきて。」


そうして真耶を含めた三人ほどの名前が呼ばれた。


「それ以外の人は風宮から解雇します。あなたたちは職務を怠りました。これほどの人数がいながら私の着替え一つ手伝ってはくれない人たち、中には今日初めてみた人もいます。よって、必要ありません。」


普段は気弱だけれど、こういうところはさすが大貴族の姫なだけある。


案の定侍女たちからは不満が溢れている。


「あなたが大人しくしていればよかったのに!」「あなたが勝手にできると思っているのか!」


これは大変なことになった。とりあえず通る声を意識して話す。


「たとえあなたたちが真面目な侍女だったとしても今の言葉は許されることができません。ここは妃に対する暴言には、厳しいのですよ。」


静かになった侍女たちへ、うみ妃が再び言い放つ。


「わきまえなさい。そしてさっさとさりなさい。」




「改めてありがとう。」


「私は大したことをしていないです」


お礼を言われても、その手柄は夜見妃さまのもので、私のものではない。だから意味はない。


「失礼いたします。」


そこに真耶が入ってきた。


何か伝令を持っている。


「雛莉さまに、京宮に戻ってくるようにという伝令です。」

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