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夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
一章 姫君は神とともに
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十月桜~神はどこへも進めない~下

無事に天上(あまつかみの)大御神(おおみかみ)夢見神(ゆめみのかみ)になってからひと月経った。


霊姫は教育係兼補佐官としてわたくしを手伝ってくれている。


「まず、先代が後半に半ば職務放棄したことによる混乱の鎮圧ね」


聞けば、約百五十年前に当時の戦神であった月姫(つきひめ)が反乱を起こし”ここからすこし離れた世界”でひたすら仲間を増やしこちらを襲ったという事態が起こったらしい。


「その後約百年前に月姫の友人であり対となっていた結神(むすびのかみ)、菊姫が混乱を鎮めたの」


「そういう経緯で月姫は中下(なかのした)に格下げ、菊姫は上級神になったんだよね」


そのとおりと霊姫がうなずく。


「ただ、格下げしたとはいえ戦神ということもあって月姫の影響は大きい。そして罪人は裁かなければならない。けれど先代は裁きを行わなかった。という経緯です」


「月姫は、どこに」



「あら、天上大御神とお見受けいたします。あたしになにかごよう?」


月姫は鮮やかな赤の衣をまとっていて、長く伸びた白髪が衣に流れて唇は血のように真っ赤だった。


「あなたを裁きに来ました。月姫。」


月姫は本当に言われたことを理解しているのか妖艶に微笑んでいた。


「それで?あたしにどんな裁きをくだすの?」


霊姫はここにはいない。なんとなく、絶望させてはいけないと思ったから。


「あなたを、人間に戻す」


月姫は初めて表情を消した。


「それは、あたしたちにとっては罰でも何でもない。知っているでしょう」


ええ、知っている。先代、月影姫も戻ることを願っていた。


わたくしの願いも、似たようなものだ。


長く生きることなんて、地獄でしかない。そんな苦しみを分かち合った人を、人に戻すというのは救いだ。


「できるのなら、戻れるのならなぜもっと早くしてくれなかったの」


「これは罪人にしか使えない力。ああなただからこそ、わたくしは人にするの」


月姫は泣いている。


わたくしは月姫の頬に手を触れる。


「ありがとう、烏姫さま」




「終わりましたか。」


「うん。帰ろう」


月姫はきっと、望んで反乱を起こしたわけではないだろう。


なぜ起こしたのかは知らない。知ったって結局意味がないことなのだから。


けれど確実に、月姫は菊姫に鎮めてほしかった。それだけはわかる。





「へ、教育制度を?」


「うん。今の制度って烏姫が見出した人を誰かの後継者にして教育する、だよね。」


けれどそれではだめなのだ。神によって知っていることと知らないことの差が大きすぎる。


「だから、共通の教育課程を作るの。そうしたら、みんな知っている掟が同じになれるでしょう?」


霊姫はじっと考え込んでしまった。


「なにかわたくしの案、まずかった?」


「いいえ。思いつかなかったわ。すぐに手配するわね。」





久々に小夜を見ようと思って鏡を手に取った。


鏡はいつも私の思う景色を見せてくれる。夢よりもより鮮明に、見せてくれる。


わたくしが願った神となる交換条件だ。


鏡の中の小夜は、キビキビと部下を指揮して京家を仕切っていた。あの頃の必死な小夜とは大違いで、決意と信念を持って京家を復活させていた。


わたくしは何をしているのだろう。


前任者の後始末しかできていないし,それすらも地味で他の人には目につかない。


小夜,変わったな。


そう思うことで,何も変わっていないわたくしがなんだか何もしていないような気がしてきた。


いくら神になっても、いくら味方ができても、それでもわたくしは何も変われない。


小夜は私のことを乗り越えて、しっかりと立て直しているのに、変われないのはわたくしだけ。


変わっていないのは,わたくしだけ。


小夜はちゃんと成長しているし、外に出ている。


わたくしだけが、いつまで経っても。




「仕方ないじゃない。私が特例で,神は基本どこへも進むことはできないのよ。」


それはそうだけど,私は知っている人がどんどん知らない人になっていくのが怖い。


私がいつまでも変われないのを思い知らされて。


「じゃあ、あなたの前任者の話をしましょうか。」


前任者…烏姫様。私よりずっと長い時を神として過ごし、役割を継承して消滅した神様。


「彼女はね、どうしても自分のそばにいて欲しくて私の前任者、信仰神明姫を神にしたの。」


それは、確かに私も考えなかったわけではない。私には小夜が望むかわからなかったし、今の暮らしと引き剥がしてそれ以上に幸せにできないと思ったから、やめた。


「彼女たちはとてもとても長く生きたわ。それこそ,悠久の時とも言えるほど長い時を。」


でもね、と霊姫は続ける。


「明姫は神としての適性が皆無で、髪の毛も黒に近い灰色だった。」


神としての適性は、神となった時にどれだけ髪色が白く美しくなるかでわかる。


基本私は白髪となり切るぐらい適性がある人しか神にしていない。それは前の烏姫も同じのはずだったのに…


「そういえばわたくし、前の信仰神に会ったことないね。烏姫様がそんなに思い入れのある人なら,会ってみたかったな」


霊姫は暗い顔のままだ。


「彼女の適性では下一下ぐらいが限界だったの。でも烏姫様はそばにいて欲しかった。上級神にまで格上げして。でも、明姫の体は上級神の役割に耐えられず、ボロボロになっていった。烏姫様はずっと彼女を生かした。普通の神の何倍も長生きさせて。最後には、明姫の体は限界で灰の一つも残らず消滅した。烏姫様が消失すると同時に。ぼろぼろで、何度も死にたいと願って、最後まで烏姫様の幸せを祈っていた。」


これは,変わらずにいようと願い続けた人たちの末路だ。時系列的にはわたくしが見出され時には明姫はぼろぼろだったということになる。


烏姫がわたくしに厳しく神としての心構えを説いたのは、彼女の失敗を繰り返させないためだったのかもしれない。


「そうなんだ。明姫が格上げされる直前に霊姫は神になったんだよね。なぜそんなに知ってるの?」


霊姫はにっこりと微笑んだ。


「私は過去と未来を見通せる鏡を手に入れているのよ。」


確か,元々だいぶ前の信仰神の持ち物だった鏡は巡り巡って少し前に霊姫の元に戻ってきていた。




ピイィ,と鳴き声が聞こえる。わたくしの鳩の莉々だ。


莉々は人間と神を繋ぐ架け橋となっている。


「おかえり,莉々」


莉々は差し出した手に止まった。


架け橋…この言葉を使ったのは前の烏姫だ。


ふくふくとした鳩は可愛い。


「あなたはどうしてここにいてくれるの?」


もうみんなはここにいないのに。

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