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夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
一章 姫君は神とともに
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空に知られぬ雪、中

「どうしてこうなったのですか…」


小夜は机に突っ伏して悶ええている。


「さあ」


「姫さまのせいではありませんか…」


最近姫巫女さまからの手紙が絶えない。


そのおかげで後宮内に”京姫”の存在を知るものが増えた。


「次は正式に存在を認めてもらうことが課題だよね」


「そうですね。こうなった以上華宮(はなみや)さまに承認いただかないとまずいですね…」


華宮さまか…


前の華の方の妹にあたり後宮内を統治されているかただ。


けれど…


「華宮さまはほとんど外に出ないよ?」


そこだけが難点…


「ああ、こうなったらお姉さまに頼んで華宮(はなのみや)につれていってもらおうかしら…」


「姫巫女さまのお手を煩わせないでくださいませ。ただでさえわたしは京家と連絡を取る手段を持ち合わせていないので指示を仰ぐこともできないのですよ」


小夜は苦笑いながら伝えてきた。


誰か来たのでわたくしは隠れる。


はあ、これから安心できるまでどれほどかかるのだろうか…


「姫巫女さまからの手紙です。」


小夜がまた封筒を差し出してきた。



「あれ、やけに太いね」


覗いてみると、もう一枚封筒が入っていた。


そこに書かれているのは大輪の花。


「まさか…」


お姉さまからの手紙をまず読むことにして手紙を開く。


「小夜、その必要はなくなった。」


「なぜです」


「お姉さまが六花姫さまと交渉してわたくしの存在を認めさせた。今度3人で茶会をやるらしいから、そのつもりで」


小夜は絶句していた。


わたくしも共感する。なぜこうなったの…




「お初にお目にかかります。華宮の主代行である水華(すいか)、金羽の資格を持っております六花と申します。」


金羽の六花姫がわたくしに頭を下げている。


それはわたくしを水羽と、皇女だと認めているということ。小夜は絶句していて、お姉さまはどや顔をしている。


確か華宮さまはわたくしのおじい様にあたる先代の華の方の年の離れた妹だ。


つまり六花姫はわたくしの従姉叔母にあたる。


「顔を上げなさい。こちらこそお招きいただきありがとう。姫巫女さまもおられますし、入りましょう。」


六花姫はわたくしたちを奥に案内した。


「宮の造りは桜宮と似ているのですね」


「はい。お菓子をどうぞ。」


六花姫がふわふわとしたどら焼きのようなものを差し出してくる。


「ありがとう」


食べていると、やけに二人が見つめてくるような気がした。


「なにか」


「いいえ。かわいらしいと思いまして」


六花姫のとりつくろわないその言葉に、危うくのどに詰まらせそうになってしまった。


「よくこれまで生きてこられた、露見しなかったことよね」


「ああ、小夜が守ってくれていたのです。」


わたくしたちの力は口に出すべきではない。


「あなた、いまいくつ」


「わたくしですか?十になりました」


二人は顔を見合わせている。


「ずいぶん幼いのね」


「そうでしょうか。お二人は?」


「14よ」


「17です」


姫巫女さま、わたくしよりたった4つ年上なだけなのにずいぶん大人びている。


「金羽以下は退出しなさい」


そう六花様が手を鳴らすと、姫巫女さまの侍女を除いてみな退出した。


「彼女はよいのですか?」


「ええ。双葉、名乗ってあげなさい。」


双葉と呼ばれたその人は、前に出てきてわたくしに向かって優雅に頭を下げた。


「華水の姫、双葉と申します。内親王である露姫を母に持ち、火羽の資格を所持しております。姫巫女さまやあなた様の従姉にあたります。」


えーっと、従姉でいいのか。


「今は姫巫女さまの侍女として扱いください」


頭を下げる双葉。この人もこの人で大変なのかもな。


「いいわ。座りなさい」


そうして席はわたくしと六花姫が並び、正面に双葉姫と姫巫女さまとなった。


「改めて京姫様。今まで存在を知りながら放置してしまったこと、お詫び申し上げます」


「存在を知りながらとはどういうことでしょうか」


姫巫女さまが六花姫に顔を上げさせて説明させた。


「もともと京姫さまや小夜殿に関しては華の方から知らされており、母と私はずっと昔から知っていたのです。表立っての援助ではないですが、衣食住の整備を行わせていただいておりました」


「そうでなければあなた、とっくに飢え死にしていたわよ。あなたのお母さま、菫の方の葬儀の手助けをしたのも華宮のお姉さまなのよ」


華宮のお姉さまと呼ばれた六花姫は顔をしかめて奥に引っ込んでいった。


「あの、華宮のお姉さまとは?」


恐る恐る聞いてみると、姫巫女さまはにっこりと笑った。


「六花姫には私のお兄様との縁談があるの。つまり義姉よ」


「姫巫女さまの兄上様となると、東宮の風宮の兄上のこと?」


姫巫女さまはすっと目をそらした。双葉姫がやれやれと首を振る。


「いいえ。兄上に嫁ぐのは、双葉の方よ」


双葉姫が兄上に嫁ぐ、そしてお兄様とは六花姫が…だんだん混乱してきた。


「それより京姫、あなたにはお姉さまと呼んでと頼んだのだけれど」


だってずっと姫巫女さまと呼んでいたから…


「繭姫さま、あまり京姫さまで遊ばないでください」


いつの間にか六花姫が戻ってきていた。


「どうぞ」


六花姫は椅子に腰を下ろして手にしていた紙を広げた。


「これは?」


「私が京姫に仮名をつけろと母が。火羽としてではなく、華宮として京姫さまに仮名を付けるための資料になります」


仮名…そういえばなかったな。真名もないけれど、それを言うべきではないか。


姫巫女さまがとても笑顔で見つめてくる…


「私も一緒に考えていいかしら?」


姫巫女さまと三人で考えることになった。


姫巫女さまは美しい仮名を、六花姫は親しみやすい仮名を上挙げてくれている。


「京姫はどれがいい?私は蛍押し。」


姫巫女さまは蛍を、六花姫は茜や葵を勧めてくる。


「これでいいですか?」


わたくしが指さしたのは夜に鳥と書かれた漢字だ。


(ぬえ)?どうしてこれにしたいのですか?」


「わたくしたちは黒い衣だから…烏姫はなんだか合わなくて。」


姫巫女さまたちは若干浮かない顔だ。


「鵺は不吉の象徴なのです。どうしたものでしょうか…」


「お姉さま、なぜこれを書いたのよ」


しかし六花姫は首を横に振る。


「繭姫さまが書かれたのではなかったのですか」


二人とも書いていないという。


「運命的ね。では、夜鳥でからすと読むのはどうかしら?」


「どのみち鵺と同義よ」


姫巫女さまは首を振る。


「そもそも名前を書くことなんて少ないわ。音はからすひめなのだからいいではないの」


ねえ、と言われ、わたくしの仮名は夜鳥(からす)姫となったのだ。



「ねえ華の宮のお姉さま、儀式っぽいことをなさったら?夜鳥姫への歓迎も込めて」


六花姫は渋ったが姫巫女さまに押されて簡略な儀式を執り行うことになった。




「華宮の名において、水羽京姫に夜鳥姫の名を与える」


本当に、各宮の主と侍女、司書宮女と宣旨のみの式だったが、これでわたくしは正式に京宮の主、そして後宮内での存在を認められた。


「廃名いたします」




「とりあえず一件落着だね、小夜」


小夜も心なしかすっきりした顔をしている。


「良かったですね。」


莉々も喜んでいる。


「禊に行ってきます」


小夜は少しづつ、図書棟と霊宮なら一人で行かせてくれるようになった。だから最近は禊はひとりで行っている。


「もうそろそろ小夜の誕生日だよね。」


「はい。21になります」


小夜はそのまま屋敷に残った。莉々はついてくる。


禊を済ませて立ち上がると、目の前に知らない人が立っていた。


髪は果てしなく白く夜露を含んだようにつやつやと輝いていて、唇はぷっくりと真っ赤。衣はいくつも重ねていて、よく見ると水色でその人が動くとキラキラと輝く。


後ろには黒髪の美しい人がいた。その人は黒い服で裾の方が紫になっている。内側の衣は薄い黄色と白で、なぜかこの人の方が圧倒的に美しかった。


「初めまして京姫。わたくしは泉神(いずみのかみ)。あなたを迎えに来ました」


莉々がピイ、と高い声で鳴いた。

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