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夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
一章 姫君は神とともに
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空に知られぬ雪、上

いつからだろうか,時々上から見ている人がいるように感じるようになったのは。


それが誰だったのかは今のわたくしは知っている。


わたくしが選んだのだ。


ここに来ることを。


「姫さま、こちらをどうぞ」


「ありがとう小夜(さよ)


わたくしは物心ついた頃からこの屋敷から出たことがない。


いつも小夜がいろいろ世話をしてくれるし聞けば基本何でも教えてくれた。


だからわたくしは幼い頃から自分の立場というものを理解していた。この後宮で生まれたこと,でも死んだことになっていること、今の時点では唯一の京の姫なこと、姫巫女様の妹であること,お母さまは身分が低い人だったこと。


小夜がどれだけ必死にわたくしをまもっていたのか、それをわたくしは何人目かの瓜の時に理解できるようになっていた。


前の夜叉(やしゃ)の時は無理だった。その前も無理だった。


でも瓜のときは、わたくしが小夜のしていたことが理解できるような年齢になっていた。


だから小夜に協力して、瓜を眠らせた。その時小夜は、少し寂しそうな目をしていた、どうしてそんな目をするのか,わたくしは理解ができなかった。


小夜は友達ができたら、友達がこちらに踏み込んできたら,躊躇なく記憶を消す。


友達を作れない、作っても無駄だという状況になってしまっていると、理解したのはだいぶ大きくなってからだった。


それを作ったのがわたくしだということにも。


日中、小夜がいない間はわたくしは一人で本を読んだり手習をしたり莉々(りり)と遊んだりして過ごしていた。


小夜がいない時に外に出ることはできなかったし、暇つぶしの方法を多くは知らなかったのだ。


「ねえ莉々、あなたはどうしてここにいるの?」


利利は物心つく前から、小夜曰く生まれた時の産声でやってきた鳩らしい。


まるまるとしていて、どう見ても鳩に見えない鳩だった。


小夜曰く、皇子皇女は誰でも鳩を持っているらしい。


ならお姉さま、姫巫女様も持っておられるのかな。


利利はわたくしのうえをくるくる飛び回る。少し羽音がうるさい。


「莉々、こっち」手に乗せて外に放つ。


莉々はどこかにねぐらがあるらしく、いつもどこかで寝ている。



「誰?」


上をしきりに気にする莉々。


そして、わたくしもどこからか視線を感じたので上を向いても、誰もいない。


そんなことが八歳ごろから度々起こった。



「莉々,図書棟に行ってみない?司書宮女は知り合いだし、小夜がいなくても行ってもいいわよね」


莉々は返事をしないが、頭の上に止まった。


ギリギリ髪の毛が盛り上がっていると言えなくもない見た目だ。わたくしは珍しい白髪だから。


一人でくる図書棟はなんだかとても遠くて怖かった。


「こんにちは」


「あら、今日は小夜が一緒じゃないのですか?」


「ええ、一人で来てみようと思って。」


そんな話をしてから図書を見て回る。


やっぱり読みたい本がたくさんだ。一回に五冊までしか借りられないから,いくつかはここで読んでいこう。


遠くで話し声が聞こえる。誰だろう。


「繭姫さま、こちらはいかがですか?」


「そうね、…これ、双葉の趣味ではないの。まじめに探しなさい」


まゆ、ひめ…姫巫女のお姉さま?


少しだけ、京家が目指す神祇官の長たるお姉さまを見てみたいと思った。図書棟は幸い広い。


声からしてお姉さまはおそらく1階の読む場所にいるから、上のところに行けば見えるはず。


そう思って上ると、やっぱりそうだった。


ああ、やっぱりお姉さまだ。この国で紫と桜色の衣が許されているのはお姉さましかいない。


わたくしとは真逆の漆黒の髪。つややかに光る髪。美しい動き。姫巫女たる存在として不足ない存在感。


やはりお姉さまはきれいな人だ…でも、わたくしよりは力がない。


そして、そんなお姉さまでも、わたくしとおんなじ。


「繭姫さま、上に人が」


なぜ気づかれたのか、お姉さまの隣にいた水色の服の、水家の人が下を見たまま言った。


あわてて本棚に隠れて、その日は抜け道を使って外に出た。



「姫さま、どうかなさったのですか?」


部屋に引きこもって小夜に心配されるほどだったが、わたくしはとてつもなく後悔していた。


どうして見に行ってしまったのか。小夜がいないときに外に出るべきではなかった。


そんな後悔が、わたくしの中に渦巻いて、そこから動けなくさせていた。


「小夜…」


小夜はわたくしのためにどんな犠牲を払っているのか…わたくしはそれを踏みみじって…


「姫さま?」


「小夜、ごめんなさい。わたくし、小夜がいないときに…」


小夜はすべてを聞くまでもなく、わたくしを抱きしめた。


「いい。姫さま。もともとこんなに遊びたい盛りの女の子をずっと中にいさせるつもりはない。こちらこそごめんなさい。いつもここを離れていて、姫さまにあまり付けていなかったですね。侍女失格です。」


小夜、小夜…



「え、姫巫女さまと双葉姫さまに!?」


小夜は茶器を落としかけた、というか落とした。


「はい…」


小夜は少し考えたがまあうなずいた。


「姫巫女様なら良いです。彼女は比較的温厚であり、後宮内の勢力もそこまで強くはありませんから。」


ひとあんしん、かな。確かに六花(りっか)姫さまより影響力は少ないか。


「小夜は最近何をしているの?」


「特に、今までと同じように過ごしているだけです」


小夜はいつもそっけない。でも小夜は果てしなくやさしい。




「こんにちは。あなたは誰?」


小夜が大事をとって屋敷に残っていて助かった。


なぜ姫巫女さまと双葉姫さまがここにくるの?


「姫巫女さま…このような廃宮に何用でしょうか。」


一応わたくしの生活する区画以外は使用されていないので大丈夫のはずだが…


「わたくしたちは知らべ物をしておりまして、しばしこの宮に出入りする許可を頂けないでしょうか。」


お姉さまの侍女が小夜にが交渉している。


小夜は自分が同席することを条件に許可した。


「困りましたね。姫さま、しばらく部屋を移っていただけますか?寝起きはそのままで、荷物だけを」


小夜…でも、いいの。


「いいえ」


あなたがわたくしのために苦しむ必要はもうないの。わたくしがどうにかするべき問題。


「死ぬまでここに隠れ続けるなど無理。それは小夜も知っているでしょう。なら、わたくしが道を切り開く。」


わたくしが戦うのだ。


「あなたよね、図書棟にいたのは」


早速姫巫女さまにつかまって尋問を受ける羽目になってしまった。


「小夜から小夜の同席の場合のみ許可されたのではないのですか。姫巫女さまともあろうおかたが破るなど」


けれど姫巫女さまは美しい桜家(おうけ)の瞳でこちらを見つめてきた。


「いいえ。妹に会いに来て何が悪いというの。わたくしたちの会合に割り込めるものなどいないわ」


妹…


「なぜそう思われたのですか」


「さあ、勘かしら。あなたはわたくしの妹よ。」


隠しても無駄だろう。姫巫女さまなら何でもできる。


「はい。わたくしは菫の方の遺児、京姫と申します。」


姫巫女さまはこちらに近く。姫巫女さまにやっかいな後ろ盾はいない。ならば、利用できるところをとことん利用しよう。


「なら問題ないわ。京姫、あした桜宮(さくらのみや)においでなさい。」



「なぜ断りもなく約束してしまったのですか…」


小夜にはやはり怒られてしまった。けれどわたくしにも考えはある。


「小夜、これは必要なこと。今のままでは圧倒的にわたくしたちは不利。ここで生き残るには、絶対に見方が必要。姫巫女さまならこちらに近いし後ろ盾がほぼ存在しない。」


小夜ともめて、でも姫巫女さまとの約束は変らないしさすがに一人で行くわけにもいかなくて小夜はしぶしぶついてきた。


せめてと譲られなかったのが、小夜が昔使っていたという黒髪の鬘をかぶることだった。


染めるかかぶるかしないと外に出さないと一歩も譲らず、わたくしがおれたのだ。視界に映る髪が黒いことに違和感を覚えながら姫巫女さまのもとに向かう。


「あの方は誰?」「京宮にいたそうよ」「まあ、じゃあ例の座敷童子?」


みんなが噂している。そりゃあそうか。


第二皇女の存在を知るものはほぼいないもの。


「姫巫女様、お待たせして申し訳ありません」


「いいえ、わたくしが待ちきれなかったのです。おはいりなさい。」


姫巫女様の丁寧な対応。通された部屋にあったお菓子にお茶や調度品。すべてが1級品で京宮との差を感じた。


「何もここまでのおもてなしをしていただかなくてもよろしいのですが…姫巫女様の進退にも関わりましょう」


「何を言っているの。京はわたくしの妹よ。わたくしずっと1番下で妹が欲しかったのです。どうぞお姉さまとお呼びください」


姫巫女様、口調が違う…


「けれど姫巫女様は天羽でわたくしは水羽です。」


姫巫女様は茶器を置いた。


「では、繭姫としてあなたに向き合いましょう。ひとつ頼みたいのだけれど、いいかしら」




「なぜこうなったのですか…」


「姫巫女さまの協力が得られたから、もう少し喜んだら?」


姫巫女様は京家、姫巫女についての情報を提供する代わりにこちらがわたくしたちを庇護すると持ち掛けてきて、了承したのだ。


「それはそうですが…」


「それにわたくしも興味があるもん。なぜ京家と姫巫女が存在するのか。」


こうして、わたくしの存在は後宮内で実質的に露見したのだ。

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