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夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
一章 姫君は神とともに
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八重桜、中

小夜(さよ)!久しぶりだね。体調崩してたの?」


その次の日、小夜が久々に待ち合わせに現れた。


「いや、宮の掃除だった。どこ行く?」


「洗濯場にしよう。久々に寒天食べたいし!」


二人で何枚もの洗濯をして、寒天をもらう。また小夜が二つだ。


「小夜すごいよね。すぐ仕事覚えて。」


寒天は一袋に四つぐらい入っていて、全て色が違った。


表面には砂糖がまぶされていてショリショリする。


「そんなことない。覚えること自体なら瓜のほうが早い。わたしは作業が遅い」


そんな風に思っていたんだ。嬉しい。でも、あの暮らしからしてみれば、早く少しでも形にすることに慣れているのかもしれない。


「ありがとうね、小夜。小夜は何色が好き?」


本当に軽く聞いたのだが、小夜は首を傾げた。


しばらく悩んで、寒天を食べる手も止まっていた。


「小夜?」


「ごめん。思いつかない。」


好きな色がないというのは意外だ。


「なんでだろう。好きな概念を抱くまもなかったから、必要なかったから?」


小夜も苦労していそうだな…


「今まで聞いてなかったけど、何歳なの?」


「18。」


うそ、私より二つ年下?全然見えない。むしろ二つぐらい年上だと思っていたのに。大人びてる、いや、大人にならなければいけなかったような感じがある。大人になれなかったけれど大人にならなければいけなかった、みたいな。


「私二十。小夜の方が年上かと思ってた」


小夜はそう?と首を傾げて、帰って行った。


小夜の内側の着物が黒いことに、この時気がついた。




「黒衣って、着用していいの?」


三人に尋ねると、首を振られた。


「京家だけだったよ。その京家もないし。あ、もしかして例の小夜?」


頷くと、一つの可能性が提示された。


「京宮付きなら,京宮であるとわかりやすくさせるために許可されてるかもよー」


それでもなんか違和感がある。


「ただの宮女に、そんなにお金かけた衣着せると思うの?」


黒は高い。単体で黒を出せるものがないからだ。


あるにはあるけれど、それすら輸入品で高価。


「そうそう、少し調べてみたの。例の10年前の妃のこと。そしたらね、その侍女はまだ十歳になってないぐらいだったって。そして、妃か亡くなった日と死因は記されているのに、その侍女はただ死亡とだけ書かれていたの。」


後宮内は一応全員死亡日時と死因を書く。梨花(りんか)は宣旨候補生として入っているので、ある程度の文書を見ることができる。ただし自由が少ないので、そこは私たちで補っている。


「あと、その妃は懐妊していたらしいの。」


「うそ。」


それはみんな驚いた。


「じゃなかったら産褥熱で死亡しないもの。」


それはそうか。そしたら,やっぱりあの宮には…


「探ってみるね。」


けれどそれは浅葱(あさぎ)に止められた。


「話を聞く限りだけど、その小夜は賢いわよ。下手に動くと何をされるかわからないわ。慎重に動きなさい」


「何を言ってるの、浅葱。そんなヘマしないわよ、瓜なら」


苦笑いしてとりあえず宮に戻る。


あの子たちは、仲間だ。でも私は小夜を疑いたくない。あの途方に暮れたように笑って、淡々としているのに苦悩している美しい小夜を。




「何をしているの」


「わ!小夜。脅かさないでよ。」


日向ぼっこをしていると後ろから声をかけられた。小夜は今日は簪をつけている。


「あれ、簪」


「これは昔買ってもらった」


それは,椿のような花で下には水晶のようなものがぶら下がってチラチラと音を立てた。


美しい物だ。小夜によく似合っている。


「さ、どこ行く?」


「瓜が決めて」


そう冷たく言うけれど,声は優しい。そんな小夜が好きだ。


「じゃあ、水宮手伝って!いまの季節落ち葉が大変で終わらないの。いくら主がいなくても整備しなきゃね」


二人でさっき出てきたはずの水宮に向かう。


水宮は三人の宮女で、露宮さまの帰りを待つ場だ。一番京宮に近い宮でもある。まあ、京宮が林に囲まれているのであまり近くはないが。


「あら、あなたは?」


水宮の宮女長で元露宮さま付きの雨花から聞かれたときは、小夜は完璧に受け応えていた。


「京宮付き宮女、小夜と申します。瓜の友人です。本日はこちらの手伝いに伺わせていただきました」


お辞儀も美しくて、やっぱり小夜はいいところの子なのかな。


「あら京宮の…あれでも」


雨花がぶつぶつ言っている間に私は小夜の手を引いて庭に向かう。


「小夜こっち!」


「早い」



二人で掃除をしているといつの間にか陽が落ちていた。


「もうこんな時間。帰るね」


小夜が立ち上がったのを、手首を咄嗟に掴む。


「どうしたの」


「あ、いや、一緒に晩御飯食べない?小夜とご飯食べたことないから、その,嫌なら断っていいけど、」


何を言い訳しているのだろう。


探るため。ただそれだけのため。


「わかった。」


小夜が頷いたので、小夜も水宮のみんなと晩御飯を食べることになった。


晩御飯はその宮の厨房で作ることができるから、当番制になっている。


「小夜、食べるの早くない?私まだ一品も食べ終わってないけど」


「そう?」


小夜はさっさとと食べ終わってしまって、食器を下げていった。


「小夜は何も話してくれないよね,家族とか」


探るため,そう。探るために小夜のことを知りたいの。


「同じぐらい瓜も言ってこない」


髪の簪を小夜が外してバラバラと髪が落ちる。それを藍色の紐で括る。


「もう帰る。またあした」


小夜は止める間もなくするりと外に出ていってしまった。


何かが,壊れてしまった。それを感じて辛くなって,胸が真ん中がぽっかりとなくなったみたいに泣きたくなった。




「もうこないかと思ってたよ」


「なぜ?」


翌日も小夜は来てくれたという、それだけで救われた心地になった。


見捨てられたのではないのだと思って。


「今日はどこに行く?」


「…華宮。大路の掃除の募集をしていた。饅頭」


小夜の一言で決まった。


大路といっても二つあり,一つは後宮の真ん中にある大体の宮と繋がっているもの。ただし霊宮と京宮、幽宮、は繋がっていない。もう一つは周り大路で後宮をぐるりと一周している。こちらは宮女の使うところや宣旨所などにも繋がっているが、霊宮と京宮にはやはり繋がっていない。


私たちは大路の方になった。


「落ち葉しかないね」


「この後平さないとだ」


二人でなんやかんや言いつつさっさと終わらせて周り大路の方にいった。


「なんでここに林があるんだろう。」


京宮と霊宮を囲っている林。けれど図書棟は出ている。他にも宮女所の周りと宣旨所の周り、幽宮の周り、華宮の周りにある。視界は何も通さないぐらいの木が並んでいる。


「下々のものを見ないようにするため。神聖なところを守るため」


小夜が手を動かしながら答える。


「華宮からは華家より格下の人々が見えないように。京宮は霊宮が隣接してるから神聖なところを守るために。」


なんというか、「変な理由なのね」


「わ!浅葱」


いつのまにか後ろに浅葱がいた。


さすがトップの成績だっただけある。


「あの子が例の?」


「そう。小夜!こっちに来て」


小夜は箒を逆さまにしてこちらに歩いてきた。


「こちら私の友達、桜宮の浅葱。浅葱,この子は」


「京宮付き宮女の小夜と申します」


小夜は美しくお辞儀をする。


本当に綺麗で浅葱も見惚れていた。


「よろしくお願いいたします。あら?でも京宮には今誰もいないのではなかったかしら?」


ありがたい浅葱。私が聞きづらいことを聞いてくれる。


「どの宮にも一人はおりますでしょう?」


小夜も応戦する。なんか、二人が言い争いをしているかのように見える。


「あのー、小夜?掃除終わった?」


「ああ、終わった。道具を片付けてくる」


私の分も箒と塵取りを持って元の場に返しにいった。


「小夜…」


「どうかしたの浅葱」


「あの子,嘘をついております。少なくとも京宮付き宮女ではないでしょう」


ではどこの?浅葱はこのように嘘を見抜くことに長けている。私は懐柔に向いているらしい。役割が違う。


「探ったけれど無理だったわ。‘’さよ”に該当する人物を今洗ってもらっているけれど。尾行しても必ず撒かれるの。同業者なんじゃないの?」


「瓜」


浅葱に鋭く咎めれる。私たちは知られてはならない。それを忘れるなと。


「わかってるよ」


私たちは一人であるべきであると。小夜と仲良くなりたいと思ってはならないと。


「ならいいのよ。くれぐれも目的を忘れないように」


私たちの目的を…浅葱はそう言って去っていった。

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