表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
一章 姫君は神とともに
13/36

八重桜、上

女優さんがいた。確かその劇は色々な地域を回っていて、たまたま私の住んでいた地域にやってきていたのだ。


内容は覚えていない。なんとなく美しい悲しいお話だったとだけ。


その主役の女の人は,とても美しかった。最後に、何かの台詞を言って倒れるところが,本当に美しくて、私は手が痛くなるまで手を叩いた。そのときに私は女優になりたいと思ったのだ。


それから三年たち、親が亡くなり演劇学校を退学することになった。


そんな私に、あの方が手を差し伸べてくれたのだ。女優よりも演技を必要とされる場に。




「おはよう、(うり)


後ろから声がした。美しい声だ。私はこの声を知っている。


小夜(さよ)!おはよう,ってもう昼食終わったよ?本当にのんびりさんだね」


彼女は小夜。京宮に専属の宮女らしい。京宮は今は使われていなくて、人がいない間も綺麗にするためとかって担当なのだと前教えてくれた。


「そう?瓜、何か手伝うよ」


小夜は毎回こうして手伝ってくれる。自分も忙しいだろうに。


「じゃあ,洗濯を手伝ってくれる?そしたらお駄賃貰えるし!」


二人で色々な場所の手伝いをしてお駄賃をもらう。それは私の‘目的’にも向くのでいいのだが,小夜も一緒にやってくれる。初めて会ったのもこの洗濯場だ。


「瓜は水宮の宮女なのよね?」


時々思うのだが、小夜は本当に所作とか喋り方とかが綺麗だ。そこそこの身分の生まれなのかな…


「そうだよ。どうかしたの?」


「いいや」


小夜はテキパキと仕事を終わらせ、饅頭を二つもらう。


一つを懐にしまって一つに齧り付く。


「早いよー!」


私も並んで饅頭を食べる。綺麗にできたら二つ、普通なら一つ、やり直しならちいさな饅頭だ。


小夜は三日ぐらいで二つもらえるようになっていた。物覚えもいい。綺麗な動きしているし、やっぱりいいところの子?


「瓜は、ここを出たらやりたいこととかある?」


饅頭を食べながらそんなことを聞いてくるので驚いた。


「んー、あんまり考えてないかな。とりあえず今が大事!それに、私は水家に仕える身だし。小夜はどこの所属なの?」


「京宮」


そうじゃなくて,後ろ盾…


まいいか。年季は長い。きっとそれまでになんとかできる。小夜程度。


「もう帰らないと。じゃあね」


小夜はいつも八つ時には帰ってしまう。だから私とは二時間ぐらいしか一緒にいない。


「うん。また明日ね!」


小夜はいつも一つの饅頭を持って帰る。食事の時にいくら探しても食堂にいない。不思議な子だ。いっそいないのかもしれない。それも調べないと。私は‘瓜’なのだから。




「おはよう」


その日は、小夜が珍しくお昼ご飯前にやってきていた。


「珍しいね。一緒にご飯に行く?」


「いや、調理場に案内して」


各宮の調理場、尚食(しょうしょく)にはあまり立ち入れない。毒の混入を警戒して,だ。ただ宮女向けの食堂ならある程度自由が効く。


「いいよ。こっちだよ〜!」


調理場は初めて中に入ったが,今の時間だと空いていた。


「あ、私ご飯食べてない。ごめんね小夜、待ってて!」


あと二十分でご飯の時間が終わる。今が一番混んでいるのだ。


ここも貴重な情報交換の場。抜けるわけにはいかない。


「あー瓜。遅いじゃん」


「ごめんごめん。今日はどんぶりだ!」


いつもの四人の元に向かい豚丼を食べる。


「ねえねえそういえば知ってる?」


梨花(りんか)がニコニコ話を振ってくる。


「なにを?」


「京宮なんだけどね」


三人が会話しているのを食べながら聞く。


「京宮って、白髪の小さな座敷童子が出るらしいの!」


宣旨候補生の梨花が自信満々に言うのを、風宮付きの(らん)が呆れて見る。


「そんなことー?」


桜宮付きの浅葱(あさぎ)からも呆れられている。


「ちょっと。でもさ、確認してみても今京宮付きって誰もいないんだよ。」


今度こそ私はそちらを向いた。


「どう言うこと?今京宮付きがいないって」


「そのまんま。10年前まではいたらしいけど、死んだみたいだね。侍女から妃になった人と,その侍女が居たって。」


じゃあ小夜は嘘をついているの?


京宮付きはいないって…でも,小夜のあの顔も,声も,ぬくもりも本物。


「あ、その人は知ってる。有名だよね。」


「ねー」


これは確認してみる必要がありそうだ。




「あれ?料理長、小夜どこ行きましたか?」


「ああ、勤め先に戻ったんだよ。十分で戻ると言っていたから,もうそろそろ戻るんじゃないか?そこで待っていたらどうだ?」


大人しくそこ、と指された椅子に座る。


「あ、瓜。思ってたより早かった」


小夜がなんてことないようにやってきた。


「うん。急いだからね。今日はどこ行く?」


幽宮(かくれのみや)の掃除?」


幽宮。今は使われていない宮。かつては使われていたらしいが、今では付きの宮女すらいない、寂れた宮だ。


「なんで?」


「あそこ、一番多くおやつもらえる。やりたがる人がいないから。昨日張り紙を見つけた」


淡々と語るがその間にも移動する。


後ろから見ていてふと気がついた。


「小夜って意外と茶色いんだね,髪の毛」


小夜はぱっと目にも止まらぬほど早く髪をおさえた。


「うそ、わかる?」


「そんなに。どうかしたの?」


小夜は首を振ってまた歩き出した。


何があるというのだろう。髪が茶色の人普通にいる。薄茶なら桜家や蘭家などの人だが、小夜はおそらく茶色だ。何を気にすることがあるのだろう。


「ここだ」


幽宮はそれほど壊れていない、どころか結構綺麗だった。


隣が姫巫女繭姫(まゆひめ)さまのいらっしゃる桜宮なのも関係しているかもしれない。


「いらっしゃい〜!」


草むらから飛び出てきたのは二十代半ばぐらいの女の人。


「あなたたち、手伝いに来てくれたの?!」


「はい。水宮の瓜と京宮の小夜です」


京宮の、のところで不思議そうな顔をしたがその人は一応自己紹介してくれた。


「元桜宮付きの(はなだ)と言います。ここの専属宮女をしています。」


繭姫様付きにしては年が結構いっている。もしかしてその前の桜宮の主人の代からいるのかな。縹は癖毛の髪を腰まで伸ばして三つ編みにまとめていた。ところどころに葉っぱがついていて、それも可愛らしい。おっとりしていそうな感じがするが、振る舞いは元気そのものだ。


「では、とりあえず仕事を手伝ってください!もう大変なの!」




「疲れた」


小夜が珍しく弱音を吐くほどきつかった。庭掃除から掃き掃除拭き掃除など本当にたくさん。


「でもその分お菓子はたくさんもらえたね。あ、もう日が傾いてるよ」


それを見て、小夜は少し青ざめたが、そのまま歩いてくれる。


「明日も行こう」


頷いて、聞きたかったことを聞くことにした。


「ねえ、小夜は京宮の仕事はいいの?」


「ああ、隣が図書棟だから司書の宮女が一人いて庭とかはやってくれる。あとは朝と夕方に終わらせている」


水宮は五人で昼までかかるし、なんなら超えるのに小夜はすごい…


「そうなんだ。大変だねー、お互い」


ふと見上げると,まるまるとした毛玉が飛んでいた。


「あれ、なんだろう。小夜わかる?」


小夜はフラフラと近寄り、手を差し出した。


その所作が、どうしようもなく美しかった。


まるで黒鳥の羽のようにふわりと袖が広がり、手の先に毛玉がとまる。


毛玉と思ったのは鳥だったみたいで,小夜の手で跳ねている。


「ごめん、帰らないと。また明日」


小夜は鳥を上に投げるように離すと自分も走って帰って行った。髪を留める紐が藍色なことに、初めて気がついた。


どうして白い衣なのに黒鳥と思ってしまったのだろう。




「今日も幽宮に行こう」


小夜の提案に乗って,幽宮に向かう。


「今日も来てくれたのー。ありがとう。じゃあ今日はこっちの池を綺麗にしてね」


池…


それは本当にただの池だった。濁って,汚い。


けれど小夜は文句も言わず黙々と作業した。


八つ時前には終わって、二人でおやつをもらった。今日こそ聞こうと思っていると、あの鳥がやってきた。


「小夜、その鳥は?」


「鳩。」


としか教えてくれない。でも、ここで鳩って宮さま達しか持っていない。もしくは宮さま付きになっていない鳩。でもそういう鳩は何も反応しないし食べない。


この鳩はまるで…


「もう帰るね。このおやつあげる」


そう言って月餅だけを渡してくれてさっさと帰っていった。長い黒髪は今日は茶色くなかった。




その日、小夜は来なかった。幽宮に行ってもいなくて、不安になった。


「小夜、何してるのかな」


「あれー?あなた達って同じ宮付きなのかと思ってた。ずっと一緒にいたし違ったんだね」


「最初に小夜は京宮付きだって教えたよ?」


今日は縹と二人で幽宮の中の掃除。


決して入るなという鶴がいるのかと疑う部屋を教えられ,それ以外を掃除しているがなんと言っても埃が多い。


手を動かしつつおしゃべりをするが、これが意外と楽しかった。


「縹っていつからここにいるの?」


「んー、大声では言えないのだけれど,姫巫女繭姫様のお母上であらせられる玉兎妃(ぎょくときさき)さまの侍女をしていたの。ほら春花宮(はるはなのみや)さまっておられるでしょう?水宮の主の。その方の侍女もしていたから,もう15年ぐらいはここにいるわね。」


姫巫女さま…雲の上のお方だ。姫宮であり神祇官である。


「なぜ大声では言えないの?大丈夫。ここは二人だけだから」


縹は驚いてから顔を近づけてきた。


あの三人から男を連れ込んで身分剥奪で幽閉になり今はどこにいるのかわからないと聞いていたが、その侍女に聞くといいことを教えてもらえるかもしれない。


「玉兎さまは実の弟君、桜の方と子を成したのよ。その方がここの主である姫巫女さまの兄上、佑さま。それが露見し身分剥奪され、現在は桜宮に幽閉されているの。」


予想を少し超えたことだった。


「なぜ教えてくれたの?」


「さあねー。瓜、これを機にこっち付きにならない?二人なら楽しいと思うの」


ありがたくお断りしておいた。


変更するなら京宮がいい。あ、京宮付きになれないか打診してみよう。


小夜には、何かある。




「ダメです。京宮と霊宮と図書棟は人員の移動が禁止されていますから」


水宮宮女長に無下にされたが、ますます謎は深まる。


小夜はあれ以来見かけないし。


「ねえねえ、今京宮付きの宮女って知らない?」


昼に浅葱たちに聞いてみると、もうそれはそれは会議案件となった。


「今いないよ。誰も。」


「でも私会ってた。見てない?黒い服を着た長身の同い年くらいの」


三人ともその子,小夜は見たことあるらしいが、京宮付きはありえないという。


「ないよー。京宮は廃宮でしょうー?」


ふと、ある可能性に思い至った。


「ねえ、前十年ぐらい前に侍女から妃になった人がいたって言ってたよね。」


「言ったよ。」


「まさかその人が生きてる、なんて言わないよねー?」


三人は、私の仲間。大丈夫。


「そして、白髪の座敷童子が出るって」


「言ったね」


「まさかその人だって言うの?でも年齢が合わないわよ。その人だったら座敷’童子’とはならないのではないかしら?」


そうではない。あなたたちならわかるでしょう?私が言いたいこと。


一緒にあの地獄を乗り越えた仲間なら。


「みんなで探ってみて」


空は秋らしく涼しく晴れていて,風が吹いて葉がさらからと飛んでいった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ