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夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
一章 姫君は神とともに
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蝶と花々、勝利の花

私は確かに当主になりたかった。


でもそれはこんな方法ではなくて、正々堂々勝負して勝ち取りたかった。


みんなと過ごしていたかった。


でも、それを奪ったのも、間違いなく私だった。



「どうして、どうして」


私はただ一人残ってしまった。それに伴い自動的に次期当主に格上げされた。


そんな報告すら、空っぽだった私の耳には入らなかった。


天弓(てんきゅう)…」


当主様は寄り添ってくれた。けれどそれすら私には邪魔だった。


「なんで、なんでみんなはいなくなってしまったの。なんで、…」


当主様は少し寂しそうな眼をした。


「いいえ。」


当主様はお茶椀を置いた。


そして煙草を吸うためにヴェールを外した。


その顔には、ただれたような跡があった。


「それはやけど…いえ、きのこ?」


「よくわかるわね。そうよ。これはまだわたくしが五名で当主候補選抜を受けていたころの話なのですが、よいですか?」


当主様がこんなにはなすの、初めてだ。


「私たちは五人で全員同い年でした。平和だったのです。10歳のころまでは。」


10歳…けっこう大きくなってからなのだな。


「ある候補者が食事に毒を盛りました。きのこです。

わたくしの能力は精神感応であり触れたものの過去を知ることができるので、その器は嫌な予感がして手を付けていませんでした。今思うとみんなに伝えればよかったのですが、わたくしはそれをしませんでした」


当主様の能力を初めて知った…そしてそれがどうなったか…


「わたくし以外の候補者は死亡、当主も亡くなりわたくしは急遽当主となりました。

毒をもったものは身分剝奪のうえ寺に送られ、翌日亡くなったそうです。」


守れたはずの命。それが目の前で消えていく。


私はまだ会えるという希望がまだある。霧雨(きりさめ)姉さんはあらかじめいつ死ぬかわからないといわれていた。


当主様は…もう何年、その座に座っているのだろう。血塗られた座に、たった一人で。


仲間も相談できる人物もおらず、ただ過去の後悔を胸に、たった一人で。


「その時にわたくしの身の回りで唯一生き残ったのが、夕雷(ゆうらい)です。当時は小さな女の子だったのですよ?」


夕雷は私からしてもおばあちゃんだ。当主様は若いと思っていたが…


「あなたはどうしたいのですか?望まなければ、この座に座らなくてもいいのですよ。」


当主様…ありがたい。今の私には絶望が多すぎる。それでも、私に残された道はこれしかないのだ。


私には道がこれしかないのだ。私が逃げたら、誰かが付くことになる。


悲しい思いをするのは私だけで十分だ。


「いいえ。3人の思いを受け継ぐために、私はそこに行きます」


当主様は承諾してくれた。




それでもつらいものはつらい。


ぼんやりと外を見ながら過ごしていた昼下がり、誰かが部屋にやってきた。


「美利?どうかしたの?」


「こちらを」


美利は大きな分厚い封筒と小さな封筒を渡してきた。


「これは?」


深夜(みよ)さまが去られる前に私に託したものです。天弓さまに渡すようにと。少々時間がかかってしまいましたが。」


美利はそれだけ伝えるとさっさと帰っていった。


開くと、それは何日かの京家の人の行動記録と不審者情報だった。


「なにこれ…」


じろじろ眺めていると、後ろに美夕(みゆう)がやってきた。


「何ですか、それ」


「深夜が残してくれていたの。なにかわかる?」


美夕はいくつか手に取った。それをいくつか見つめてから、手を握ってきた。


美夕の精神感応の発動条件だ。


『これらはおそらく深夜さまの残された手がかりです。うまく使えば、御三方を落とした人物を特定できます。深夜さまがどこまで指示したのかはわかりませんが…』


私は書類の中から能力の応用に関するものを取り出した。


そして深夜が”希望を伝えさせた”会議の議事録とその後の流れ、私がここに来るにあたって両親と当主様が交わした約束。


夕月(ゆうら)がいなくなったときの警備、夕葉が疑われた理由、その罪状。




「当主様、今度の会議に参加させていただきたく存じます。」


当主様はヴェールをかぶっていて表情はよくわからなかったが、承諾してくれた。


多分当主さまは私が何をしようとしているかわかっている。


それでも私のためにやらせてくれる。


「きっとこれをやり遂げたら、立派な人になることでしょう。天弓、わたくしの後継ぎがあなたでうれしいわ」





わたくしはきっともう当主の座にふさわしくない。


20も年下の人々になめられて、言いなりにさせられる。


わたくしはそもそも正式に当主となる資格を持っていない。


ただ欠員が出たから、その当時適齢で生きていてもともと補佐として目されて教育されていたから選ばれただけだ。


天弓はきっといい当主になる。必要な時に動くことができるし、やさしいし、多分あの中では1番上に立つ素質を持っていた。次点で霧雨だ。


わたくしとはちがい、しっかり資格を持っている。すこし熱中すると猪突猛進で周りを見ずに目標に向かって行ってしまうが、それを差し引いても高い洞察力と粘り強さ、弱いところを自分で修正するところもあって、十分に当主は務まる。


あの時…会議に参加したいと言ってきたときの目を、きっとわたくしは一生忘れない。


あの燃える炎のようで果てしなく冷たくて意思があって凛とした強い、でもつついたら壊れそうな危うい彼女を。


彼女はきっと、何かを壊してしまう。それでもやらずにいたら彼女が壊れる。


前は深夜がいた。深夜は天弓を様々な角度から支えていたし、天弓も信頼していた。あの二人はずっと一緒にいてほしかった。


ああ、でも引きはがしたのはわたくしか。ああいえば深夜は断らないと、わたくしはわかっていた。


「当主様、すこしよろしいでしょうか」


「ああ美利。どうぞおはいりなさい」


美利はわたくしが当主になってから唯一利家になった人だ。もともと前の当主候補だった。いまはしっかりと利家をやっている。


「美利、あなた夕葉たちには会わなくてもいいの?」


「そもそも今いません。いても会う気はありませんよ。」


まったく、ずいぶんこじらせたこと。


「で?どうかしたの?」




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