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夢見幾夜 京の姫君  作者: 古月 うい
一章 姫君は神とともに
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蝶と花々、努力の花・下

夕月(ゆうら)がいなくなって、多少の問題はあれど平穏に過ごしていた私たちの生活は、少しずつ崩れ始めた。


夕月がを連れ出して外部に引き渡したとして、夕葉(ゆうは)は身分はく奪の上、宮院に送られた。夕月も京家の資格こそ剥奪されなかったが、当主候補からは外された。


これにより当主候補は私と深夜(みよ)だけになった。


当主教育はほぼ当主が担うようになった。教育係たちは信用ならないと判断されたらしい。


唯一美夕(みゆう)だけは帝王学の師匠として残ることになった。


どうして…私は確かに夕月に嫉妬していたが、いなくなってほしかったわけではない。どこに行ってしまったの。


天弓(てんきゅう)…」


深夜はおろおろ声をかけてきたが、私は無視をしてしまった。


それを、今でもとても後悔している。





「美夕、天弓が暗いの」


美夕の部屋に乗り込んで問いかけると美夕は付き合ってくれた。


「ああ、確かにね。天弓は霧雨(きりさめ)が大好きだったから、悲しいのかもね」


でも、それなら天弓は当主にふさわしくないと認定されてしまうかもしれない。何とかしないと。


「美夕、これ持っていて。天弓から聞かれたら渡して」


美夕に埋めるつもりだった奴の内一つを手渡す。


「わかったわ」


美夕は何も言わずにそれを受け取ってくれた。


それから部屋に戻る途中、女の人と男の人がいた。天弓の両親だ。


不穏な会話をしていたので2人の前に姿を現す。


「はじめまして。天弓のお父さんとお母さんですね?わたくしは深夜です。」


しゃがんで目線を合わせてきた二人の眉間のあたりに手を添える。


そして能力を発動させて記憶を写し取る。最近の特訓の成果だ。


ついでにわたしと会った記憶を消してその場を立ち去る。結構狡猾になったものだなー。


そしてその記憶を頭の中で読んで愕然とした。なぜそうならなくてはならなかったのかと思ってしまった。


だからわたしは、天弓を守ると決意した。




「ああ、深夜のですか?」


寝る前に机で渡された奴を眺めていると、夕雷に声をかけられた。


「はい。あの子、上達しましたね」


本来なら私は夕葉と同室で、こんな日には2人で話して、夕雷に怒られていたのに…


この闇を怖いと思うこともなくて、空いた空間は埋まっていて、こんな胸の痛みを知るはずがなかったのに。


夕葉が夕月を外に出した、なんて信じない。そんなことは、夕葉は絶対にしない。


長い付き合いだもの。夕葉をはめたのは誰よ。


絶対に許さない。夕葉を傷つけるなんて。





「深夜、こちらに来なさい」


当主に呼ばれてそちらに向かう。珍しいな、当主から個別に呼ばれるなんて。


「あなたの希望通り、あなたの後宮行きが決まりました。」


希望通り…?何を言っているの。


「いいえ。わたくしはここにいたいのです」


当主様は少しだけ悲しそうにしていた。


「ごめんなさい。これはもう決まったことなのよ」


わたしのあきらめが早すぎたこともあり、あっさりと後宮行が決まった。


わたしはそれまでにやるべきことがある。間に合うかわからないので万が一のために予防策を講じる必要が出てきたがそれでも一応用意してきたのだから。



「美夕、美利を呼んできて」


「美利…利家の方ですか?すみません、ちょっと存じ上げないです。」


わたしは目を見張った。美利はこの屋敷に仕える唯一の上級使用人で利家だ。知らないはずがないのに…


「まあいい。わたしが行く」


美利を知らないなんてあり得るのかな…


そんなことを考えながら美利に会いに行く。


「失礼します」


「あら深夜さま。何か御用ですか?少々お待ちください、お茶を入れますね。桃のお茶でいいですか?」


美夕はてきぱきテキパキと用意をする。


久々にここにきても何も変わっていない。キョロキョロと見渡していると、1枚の写真があった。


4人の女の子が笑っている。3人の子供と1人の大人。


恐ろしいほどにものがない部屋に、その写真だけが光り輝いていた。


「さあ、どうぞ」


出されたのはほのかに桃の香りのするお茶。


「いい匂いね。」


「よかったです。で、なにかご用なのですか?」


隣に置かれた月餅を食べながらうなずく。


「わたくしが後宮に行くのはご存じよね。」


「ええ。聞いております。やはり?」


美利はかしこい。さすがに気が付くか、まあ。


「それは口にしてはいけないわ。美利には、頼みたいことがあるの。美利はこの屋敷の管理をしているのよね?」


「はい、そうです。」


話すことが決まっているとやはり話しやすい。


「美利には調査を依頼したいの。わたくしが読み取った記憶を譲渡するので、それをもとに天弓を助けてください。」


きっと次に絶望する羽目になるのは天弓だ。だから、わたしは傷を少しでも活力にしてもらう手助けをしたい。


「承知いたしました。」


美利に使えそうな記憶を渡した奴を預け、所有者を美利に書き換える。


「これで使えるはずよ。あと一つ、頼んでもいいかしら」


「仰せのままに」


わたしは封筒を取り出す。中みはほぼないほどに軽い。


「これを結果と一緒に天弓に渡して。渡すのはわたくしが去って2日以上たってから」


美利は承諾してくれた。八歳の子が考えることなんて、そんなもんだ。




「あなたと共に後宮に向かうものが決まりました。数か月前に京家になった、菫というものです。」


菫…聞いたことがない。でもどんな人であっても、これは覆らないのでしょう?


あなたは弱いから。あなたは操り人形たちに逆らえないから。


だからわたしたちを守ることができなかったのでしょう?ねえ、そうだと思わせて。霧雨が生きていたかも、なんて考えさせないで。どこかに穏やかに四人で過ごす日々があったと、そう信じさせて。


夕月も夕葉も、天弓がきっと守ってくれる。美利とわたしがそうさせる。だから、わたしは大丈夫。



「もう行ってしまうの」


「天弓…」


天弓は青い顔をしていた。無理もない。身の周りから姉妹同然の人が2人の短期かんに去るのだ。


「わたしは大丈夫。天弓はやるべきことをやって。次期当主様」


天弓はやっぱりわたしよりすこしちいさくて、衣が重そうで、押しつぶされそうだったけれど、しっかりと立っていた。


やっぱり天弓は当主にふさわしい。さしだされたことをただ受け取るだけのわたしと違って。


「い、」


天弓がなにかを言おうとしたが、わたしは天弓の口に人差し指を添える。



「さようなら。」

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