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…とそんなことを思い出しながら私は今王城のとある部屋に不法侵入している。
"透過"の魔法を使っているので気づかれることはないし、そもそもこの部屋の主は疲れているだろうから魔法を使わなくても気配さえ消せば気づかれないだろう。
――ドンッ!
「!」
「くそっ、どうして私はまだここにいるんだ!」
部屋の主が苛立たし気に机を叩いた音に驚いてしまった。
声は出さないように気をつけなければ。
部屋の主の独り言は続く。
「本当なら今頃愛しのオルレシアと夜を過ごしていたはずなのに!なんだって結婚式の日まで私に仕事を回してくるんだ!宰相なんてなりたくなかったしなんなら今すぐ辞めてやりたい!…でもそうしたらオルレシアにダメな男と思われてしまうかもしれない。っ、それはダメだ!八歳も歳上の私なんかと結婚してくれたんだ。オルレシアには少しでも格好いいと思われたい!」
この部屋の主であるレナルド・ミラスティの独り言はまだ続く。
「…でもだからって大臣達は私が若造だからとわざと仕事を押し付けてくるんだっ!侯爵家の私でも断るのが難しい奴らばっかりなのが腹立たしい!しかもかなり重要な仕事を押し付けてくるなんて頭がおかしいんじゃないか?私も沢山の仕事を抱えてるっていうのに…!断れない自分も情けないがやらないと困る人が出てきてしまうから結局私が毎日夜遅くまで仕事するしかないんだよな…。はぁ…オルレシアに会いたい…」
「……」
私が結婚することに不安を抱いていなかった理由がこれだ。
どうやら私はレナルド様に愛されているようなのだ。
手紙や二人で出掛けているときにはレナルド様の気持ちに気づかなかったが、婚約してから三年が経った頃に交流が減ったことに不安を抱いた私は今と同じように部屋に侵入してレナルド様を調べていたのだ。…公爵令嬢としてはとても褒められたことではないが私の人生がかかっているのだ。なりふり構ってはいられなかった。
調べた結果は大臣やラシ兄様に仕事を押し付けられ、毎日まともに寝ることもできずに仕事をしていたことにより私との交流が減ってしまっていたのだ。
宰相なのだから断ればいいのにと思ったが仕事を押し付けてくる相手はレナルド様より歳上でかつ格上ばかりだった。それに王太子であるラシ兄様も。
それにレナルド様は責任感がとても強い人なのだろう。自分の仕事も押し付けられた仕事も手を抜くことはなかった。
しかしこのままでは小説どおりになってしまうかもしれない。でも今の私はただの婚約者なのでレナルド様の仕事に口を出すことはできない。
どうしたものかと考えて出した答えが、結婚して晴れてレナルド様の妻になったらレナルド様の仕事を減らす手伝いをすること。(もちろん秘密裏に)
そして仕事が減ればレナルド様の負担は減るし私との時間ができる。
そうすれば仲良し夫婦も夢ではないはずだ。
そうと決めた私は結婚式までに仕事を押し付けてくる輩の調査をしていたのであった。




