レナルド視点
「で、さっきのはなんだったんだ?」
私は今ラシード殿下の執務室にいる。そして先ほどのことを聞かれている最中だ。
先ほどよりは落ち着いたがまだ心臓がバクバクしている。
「…私にもよく分からないんだ。令嬢と目が合った瞬間身体中に衝撃が走って、それに心臓もすごい速さで動いてて…」
「はぁー。…いいかレナルド、それはおそらく一目惚れだ」
「ヒトメボレ…?」
「そうだ。それならお前の言う症状に合致する」
「…」
女性が苦手である私が一目惚れだなんてあり得ないと頭で否定してみるものの、ふとした瞬間に先ほどの少女を思い出すと心臓がうるさくなるし顔も熱くなる。
それに少女のことをもっと知りたいと思っている自分がいる。
これは一目惚れだと認めるしかないのだろう。
「まさかあのレナルドがシアに一目惚れとはな…」
「…ラシード殿下。あのご令嬢はどこのご令嬢なんですか?」
「あぁ、レナルドの名前はシアに教えたけどシアの名前はレナルドに教えてなかったね。彼女はオルレシア・バレンティノ。バレンティノ公爵令嬢だ」
「!バレンティノ公爵家のご令嬢…。公爵家に私達より少し年下のご令嬢がいるとは知りませんでした」
「ん?少し年下?レナルド何か勘違いしてないか?確かにシアは大人びて見えるがまだ十歳だぞ?ちなみに私のいとこだ」
「は?十歳…!?」
まさか十歳だとは思いもしなかったのですごく驚いた。所作や話し方で十四、五歳かと思っていたのだ。
「…十歳と十八歳はダメか?」
「おーい、レナルド?」
「……」
私はこの後どうやって帰ったか思い出せないが気づいたら自分の部屋にいた。
「八歳、八歳…。十歳と十八歳だからイケナイような気がするのか?じゃあ十八歳と二十六歳なら……っ!」
不思議と同じ年齢差でも年齢が上がるとイケナイ雰囲気が和らぐことに気づいた私は部屋から飛び出し父のもとへと向かった。
(今の時間なら父上は母上と一緒にいるはずだからちょうどいいな)
そして目的の部屋にたどり着いた私は勢いのまま扉を開けた。
「父上母上!婚約したい人ができたので協力してください!」
――パリーン
「は?」
父は驚きのあまりカップを落とし固まり、
「きゃあ~!」
母は喜び叫ぶのだった。
その後全員が落ち着いてから改めて話をして無事に両親の協力を得ることができた。
また後日ラシード殿下から教えてもらったのだが、バレンティノ嬢に婚約者はいないそうだ。
それに王太子妃になるのでは?との噂については絶対にないらしい。
「ほら、この間も言ったけど僕たちはいとこなんだ。僕の母とシアの母は姉妹でね。だから昔から付き合いはあるけど、どっちの母親もいとことの結婚はさせたくないって言ってるんだ。父もバレンティノ公爵もそれで納得しているから僕とシアの結婚はあり得ないさ。それに私には愛する婚約者がいるからね。そもそも婚約者がいるのにそんな噂が出るのがおかしな話なのさ」
あははは、とラシード殿下は笑って話していた。
ラシード殿下の話が本当であれば私にもチャンスがあるはずだ。
ただ今すぐに婚約を打診するのではなくしばらくは準備期間にしたほうがいいだろう。
侯爵家の嫡男といえど格上の公爵家に婚約を申し込むのだ。私の価値を高めてからタイミングを見計らって婚約を打診したほうがいいだろう。
今後の方向性が決まってから私は今まで以上に努力した。
そのおかげかいつの間にか次期宰相と言われるまでになっていた。
そして四年後、私が二十二歳の時に十四歳のオルレシア・バレンティノ嬢との婚約が整ったのだった。