9
レナルド様が屋敷に帰ってくるようになって三日目。
今日も一緒に夕食を食べた。食事が終わり部屋に戻ろうとしたらレナルド様から話しかけられた。
「よ、よければこの後一緒にお茶でも飲まないか?」
「!はい、喜んで」
実は屋敷に帰ってくるようになって三日目だが会話をするのは初めてだった。
私から話しかけてもよかったのだがレナルド様が何か話したそうにしているので待っていたのだ。
城の執務室では寝不足でハイテンションだったからなのかたくさん独り言をしゃべっていたのに、まさか話しかけられるまで三日もかかるとは思ってもいなかった。
レナルド様は使用人にお茶を淹れたらさがるようにと指示を出していたようだ。なので今部屋には私とレナルド様の二人っきりだ。
一体どんな話をされるのだろうか。
「…オルレシア」
「はい、っ!ど、どうかされましたか?」
名前を呼ばれレナルド様の顔を見ると真剣な表情で私を見つめていた。
「今さらだが謝らせてほしい。婚約中も結婚式もそれにけ、結婚式の夜もすまなかった。私が不甲斐ないばかりに君に悲しい思いをさせてしまった。許してくれなくてもいい。だが謝罪することだけは許してくれ…」
レナルド様はとても申し訳なさそうに謝ってくれたがそもそも私は全く怒っていない。
確かに普通の貴族令嬢なら怒り狂ってるかもしれないが、私も前世では上司から仕事を押し付けられて夜遅くまで残業をしていた経験があるのでレナルド様の苦労は理解できる。
むしろ今まで頑張ったねと褒めてあげたいくらいだ。
「…ダメ、だろうか?」
「ダメなんかじゃありません!レナルド様はこうして直接謝ってくださいましたもの。それにレナルド様が忙しいことは知っていましたから怒ってなんていませんよ」
「お、怒っていないのか?」
「ええ。むしろ今までよく頑張りましたね」
私はそう言いながらレナルド様の頭を撫でると、レナルド様は顔を真っ赤にして固まってしまった。
「レナルド様?」
「っ!…オルレシアが可愛すぎる」
「何か言いましたか?」
「い、いや!」
「それならいいですが…」
レナルド様はその後もぶつぶつと何か言っていたので私は静かに見守っていたが、急に顔を上げた。
「オルレシアっ!」
「は、はい!」
「えっと、その…、っ!きょ、今日この後、結婚式の夜のリベンジをさせてくれないだろうか?」
「えっ!?」
急に何を言い出すかと思えばまさかお誘いだった。
さすがに私も声を出して驚いてしまったのだが、それをレナルド様は拒否と捉えてしまったようだ。
「す、すまない!嫌だったよな…。今のは聞かなかったことにして「い、嫌じゃありません!」…えっ?」
私は突然のことで驚いてしまっただけで嫌なわけではない。むしろ嬉しいくらいだ。
それなのに勘違いされて無かったことにされるのは嫌なので話を遮ってでも自分の気持ちを伝えなければと思った。
「レナルド様にそのように仰っていただけるなんてとても嬉しいですわ。私はレナルド様と愛し愛される夫婦になりたいのです。…私のこの願い、叶えてくれますか?」
「っ!もちろんだ!あぁオルレシア、愛してる!」
「私も愛しています」
そしてその日の夜、私たちは晴れて本当の夫婦となった。
それからすぐ私達夫婦に男児が誕生した。
その三年後には女児が誕生。
男の子にはオルト、女の子にはルナリアと名付けた。
もうすでに小説とは違う展開になってしまっているがもし女の子が生まれればルナリアと名付けると決めていた。
たとえ我が子が小説の中の悪役令嬢だったとしてももう悪役令嬢になることはないだろう。
オルトとルナリアは私とレナルド様、それに屋敷のみんなから愛されすくすく育っている。
それにまもなく三人目が生まれてくる。これからもっとにぎやかで楽しくなるだろう。
私は今願いが叶い、たくさんの愛に溢れた幸せな毎日を過ごしている。