~月島律の幸せの掴み方~
はじめまして。皆様!
この作品は登場人物誰もが闇を持っています。その闇とともにどう生きていこうか足掻いている登場人物の物語です!
何故消えようとするのか。何故生かそうとするのか。
登場人物の気持ちの変化を少しでも共感していただけましたら幸いです。
趣のある喫茶店と言えば聞こえは良い。
妙にノスタルジックな気分にさせてくれるそこは二人の隠れ家みたいなものだ。
マスターは品のある髭、グラスを磨きながらいつも通り『それ』に聞き耳を立てていた。
「・・・それで?」
月島律は憂鬱そうに昔ながらのクリームソーダのスプーンをゆっくりと回す。
「決まったそうだ」
今度はタバコを灰皿に押し付けながら男がにやりと言った。
「美大だ」
「また大層な分野に行き着いたな」
男は一冊のノートを机に差し出し、月島に見るように促した。
やれやれと彼女はノートを見る。
「どうやって関わる気だ?私の居る大学に入るよう促すんじゃなかったのか?」
「どうにもそいつは絵画に興味があるらしい」
男の顔をマスターはちらりと見る。
切れ長の目にすらりとした鼻。うっすらと薄ら笑いをしている。
黙っていればまるで人形のような顔立ちだが、彼の顔は笑みで歪んでいる。
それが妙に不気味でマスターは彼の顔をつい見てしまう。
狂気じみたあの笑い方は忘れられそうにない。
「月島」
「どうしたの?」
「本当に消せると思うか?」
男はくっと笑いながら問いかけた。
「お前が望むなら・・・ね」
月島は振り返りマスターをちらりと見た。
ここももう限界か。
なにしろこいつの面構えが悪すぎる。
月島は食後の薬を飲んだあと男と店を出る。
男は後は頼むと言わんばかりに先に歩き出す。
ネオン煌めく繁華街とは違い少し落ち着いた道。
私の名前は月島律。
この男。星田奏の消したい人物を消すため活動している。
安心して欲しい。
殺し屋では無い。
私は京台大学の准教授。専攻は文系全般。普段は偉大な偉大な教授にこき使われている哀れな身だ。
この星田という男とはあるバーで出会った。
妖しげな雰囲気で女性を誘っているというこの界隈で噂の有名な男だ。
声をかけられたのは三ヶ月前。
最初は無視だった。普通は一回無視されたらあきらめるもんだと思って無視し始めて二週間。
……こいつ。
まだ話しかけてくる。
うざい。うざい。うざい。めんどくさい。めんどくさい。めんどくさい。
私はとうとう根負けしたらしい。
気付いたら星田と話していた。星田は話術があり、人を魅了する天才だった。
それは彼自身の努力の結果なのか天性のものなのかはわからない。
「それでね?」
星田はいつも私の隣りに座る。
「……なんだよ」
私が不貞腐れてまた話を聞いていると星田はこう言った。
「消してほしい人がいるんだ♪」
「はぁ……自分でやれば?そんでもって殺人だか殺人未遂だかで捕まって刑務所で暮らしな?おめでとう。解決したな。」
「僕もできるものならそうしたいんだけどそういう次元じゃないんだよねー」
「意味がわからないわ。殺れよ」
「ふふ。それが京台大学の准教授の言うことかなぁ?」
私はハッとした。
「なんで!なんで私の身元を!?」
「この間、たまたま偶然。なんてことでしょう。見たんだよね。」
「何を!?」
「京台大学のホームページ♪君。写真付きで紹介されてたよ?優秀なんだって?」
「なんでたまたま偶然、京台大学なんかのホームページ見るわけ?」
「ネットサーフィンしてたんだ♪」
(どうやったら辿り着くんだよ……)
「とにかく協力してほしいんだ。本当は心理学にも詳しい人がよかったんだけど」
「……じゃあそういう人探せば良いんじゃない?」
「皆、おじいちゃんだったんだよね。僕。おじいちゃんには興味無い」
(お前の私情かよ)
「じゃあ全会一致でそいつ消そう♪」
「だから!巻き込まないで。」
『意味がわからないわ。殺れよ』
「何今の?」
「君の発言」
「あ?」
「ここだけ聞くと物騒だね♪」
星田はICレコーダーをひらひら見せてきた。
「は……!そんな一言で警察が動くと?」
「動かないね。でも皆君に興味を持つよね?こんな発言をする人はどんな人だろう。どんな過去を持つだろう。」
そのとき私は察した。
遅すぎる察しだ。
星田は私の全てを知っている。過去も含めて。
どこから調べた?口を割る人間なんて……
いや。業の深い人間だからこそ。
「ふふ……っ!」
「あれ?どうかした?」
「わかった。消すのを手伝ってやる。その代わり報酬は五千万。」
「りょ」
「いや……払えるのかよ。払えるなら殺し屋でもなんでも雇えよ。」
「だからー。そういう次元じゃないんだよ♪」
「ふーん」
あれから三ヶ月。
星田と狙いの人物を消す為の情報をバーで調べていたところだ。
私は一週間後。そのターゲットと接触する予定だった。
だがそのターゲットが私の居る大学ではなく美大に進もうとしているらしいことがわかったんだ。
「……モネ」
「あ?」
「とりあえずモネって言っておけばオーケーじゃない。」
「バカか。美大目指してるってことはそれなりに作者や作品や作品の背景なんかも勉強してるはずだ。なによりターゲットは絵を描くんだぞ。」
「モネが好きですって言っておけば良いじゃない?」
「それで貫けたらそいつは相当なアホだよ。」
星田はコーヒーのグラスをグルグル回しながらてきとうに応えている。
「はぁー……」
月島はため息をつきながらガラス越しに外を眺める。
「モネって……」
「わかった!わかったよ!やるよ!モネでしょ!?モネが大好きでしゅー。はーと。って言っとけばいいんでしょ!?」
「君ってそういう人だったんだ……」
「お前がやらせてるんだわ!!絶対消せよそいつ!記憶の一つも残させるなよ!」
そして運命の日が来る。
月島律は大学の講義に出ていた。
そいつが来たことに気づくには造作も無かった。
無口で無愛想なそのターゲットはシャーペンを手のひらで回しながら、月島の講義を聴いている。
端正な顔立ちで周りの女子生徒からの視線を集めている。
やがて講義が終わる。
ターゲットが帰り支度を始めたところに月島が話しかける。
「君。私の授業をよく聴いてくれていたね」
「別に」
うっわ。ベストオブ無愛想。関わりたくないタイプ。
それでも月島はモネはともかく美術の話をしてターゲットの興味を引いた。
その日は一日気を遣い、疲れてしまった。
バーにて。
「で?どうだった?」
星田奏は目をキラリとさせて聞いてくる。
「まあ。お前の情報通りだな。さすがやりとりしているだけある」
グラスの氷が溶ける。
「それで?」
私は。月島は真剣に話す。
「お前は誰なんだ?」
「僕?僕は満月とでも呼んでもらおかな♪」
「では、主人格は美大に通いたい星田奏ということでいいな?」
「もちろんだよ」
満月は笑んでいる。
「本当はカウンセリングを受けたほうがいいんだがな」
「それは彼は望んでない。僕だけが消えれば良い♪」
「とにかく彼と友人として親しくなってみるよ」
そこでもしかしたら満月を消す手がかりが見つかるかもしれない。
いつもより夜遅くになっていた。
満月は会計を済ませた。
何でも男として支払いをするのは当たり前とのことだ。
月島は今は決してそんな時代じゃないと思っていた。
遅くなったのでタクシーを呼んだ。
待っている間。
月島は星田にどう関わろうか考えている。
満月はただただそんな月島を見つめていた。
タクシーが来て道路に着き、月島が乗り込もうとしたその時。
「…ありがと」
そう言って腕を引っ張られ腰を引かれ満月は月島にキスした。
あの。今日私の授業を受けていた学生と同じ顔で。
月島はただ黙っている。
「じゃ、おやすみ♪」
満月は手をひらひらさせながら歩いて帰って行く。
月島はしばらくタクシーの中で考えている。
一体何なんだ!?
何が起こった!
誰か私に説明を!
その途端、顔がかぁっと赤くなる。
あの馬鹿野郎!
だから男は嫌いだ!
その夜はいつもより寝付きが悪かった。
月を見上げる度に時は流れているとわかる。
星田奏が月島律の大学に入るには時間がかからなかった。
月島は満月程では無いが話術に長けている。加えて学生からの信頼も真面目とあってか高い。
星田奏は月島の大学のサークルの美術部に入った。
星田奏は月島を信頼している。
おそらく満月も後押ししたのだろう。
それから転々とアジトを変えている二人はあるバーでまたいつもな作戦会議を繰り広げる。
「…大変なことになったんだ」
満月が深刻そうな顔で俯いて言う。
「どうした?星田が宇宙と交信でも始めたか?それなら安心して良い。奴はボーッとしているだけだ」
そう。あれから星田奏を観察し、関わってきた月島律は彼が難しい顔をしているのはなにか考え事をしているのではなく、ただ単にボーッとしているだけだと気付いていた。
「実は…」
「早く言えよ」
満月は月島律がもう少しでキレる手前で打ち明ける。
「奏が…合コンに誘われたんだ…!」
「なぁぬにぃぃぃぃぃ!!!?」
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!
今日の満月たちは如何でしたでしょうか?
コメントなど残していただけると作者は嬉しくて嬉しくてまた頑張れます!
それではありがとうございました!