8.訳ありパーティー結成?
さっそくケヴィンという頼もしすぎる壁役が見つかった。
まだパーティーメンバーは3人だけど、俺は冒険への期待でドッキドキのわっくわくだ。
「あっ、俺、まだギルドに冒険者登録してないんだった。急いでしてくる」
「それならついでに、簡単な依頼も受けてみましょう! 一つくらいなら今日中に終わると思いますし。先ほどの噛みつきウサギは……敏捷性の高いモンスターですが、大丈夫でしょうか?」
イリスがケヴィンに問う。
その身体のサイズからして、どう見てもケヴィンは素早い敵が苦手そうだ。
第一、武器だって大きすぎて……あれ?
「ケヴィン、剣は?」
「もしかして槍でしょうか? ……でもなさそうですね」
背中に大きすぎる盾があるものの、どこをどう見ても武器がない。
ケヴィンならでっかい両手剣をブンブン振り回しそうなもんなのに。
不思議がる俺たちを見て、ケヴィンは「ああ、そうだった」と頭を掻く。
「いやあ、俺、すげえ不器用みたいでな、剣も槍も斧も、ぜんぜん使えねえんだよ」
「ええっ、じゃあ武器は? ってか、スキルは武器がないと使えないんじゃないの?」
【戦士】の場合は普通は攻撃スキルで、良く聞くのが【ダブルスラッシュ】という、一振りで二回攻撃できるスキルや、【会心の一撃】なんていう、普段の倍以上の威力を出せるクリティカルヒットのスキルだ。
あ、もしかしてケヴィンは素手で戦うのかな……【会心の一撃】なら拳でもいけるのかもしれない。
「別に壁役やんのに剣なんかいらねえけど、魔法もあんま得意じゃないんだよなぁ」
「魔法? 魔法はだって、【戦士】は……あ、【騎士】って魔法使えたっけ? ケヴィンって【騎士】なのか?」
「【聖騎士】であれば奇跡を使える方もいますね。【騎士】ですと……魔法は使えないような……?」
「俺は【騎士】じゃねえ、【魔法使い】だ」
そのケヴィンの一言に、俺もイリスも固まる。
え、今、なんて言った?
「ま、【魔法使い】……だれが?」
「俺だよ、俺」
「なっ……あんた、そんなマッチョなのに【魔法使い】なのか!?」
ビックリしすぎて「なのか」のところで声が裏返った。
イリスも両手を口に当てて「まあ」って顔をしてる。
改めて一歩下がってケヴィンの全身を見る。
マッチョな身体はともかくとして、鎧は胸のプレートが立派な鉄製、かなりの重装備だ。背負っている盾も相当重いだろう。
そして……。
そのケヴィンの太すぎる腰のベルトに、菜箸のようなものが一本挟まっていた。
茶色い木製で、太い方の端は革が巻かれていて……。
「それ、まさか、杖?」
「ああ、これがないと魔法が使えないらしくってな、安もんだからすぐ折れんだよ。これで五本目だったかなぁ」
そりゃあ、そんな太い腰に挟んでたら、あんたの腹圧ですぐ折れるだろうよ……。
とは言わないでおく。
そんなことより、まさかまさか。
このマッチョが【魔法使い】だったなんて!
「聞いたことないよ、壁役の【魔法使い】だなんて……」
「わ、私もです……」
「がはははっ、そうか、なんか照れるなぁ」
なぜか嬉しそうに笑うケヴィン。
びっくりしたけど、まあ……身体を鍛えてる【魔法使い】がいて悪いわけじゃない。
【魔法使い】は基本的に体力や筋力が前衛職に比べて劣るらしいけど、ケヴィンの筋肉はそんな得手不得手を超越してるんだろう。
それにしても【魔法使い】の壁役なんて斬新だなぁ。
いや、マッチョの【魔法使い】が斬新なのか?
とにかく、本人が言うとおり杖以外の武器を使うのには向いてないけど、重い盾を持つにはピッタリだってことで壁役をやってんだろうな。
「そうか、ケヴィンは【魔法使い】か……でも【魔法使い】の方が全体攻撃の魔法が使えるし殲滅力は高いよな」
「そうですね。噛みつきウサギも、剣より遠距離で攻撃できる魔法の方が狩りやすいかもしれません」
さっき遭遇した噛みつきウサギは単体だったけど、あいつらは夕方になると群れで草原に姿を現して食事を始める。
そこをケヴィンの魔法でまとめてやっつけてしまえば効率がいい。
さっきの<コードインスペクション>で、もう一つ役に立つ情報を読み取ったんだ。噛みつきウサギが警戒したときに出す鳴き声で、あいつらは五秒間ほど動きを止めるらしいんだ。仲間からの警告の合図ってやつ。
これも多分、俺のスペシャルな動物鳴き真似でなんとかなるはず。
「あ、すまん、俺は単体攻撃の魔法しか使えねえんだ。あと、俺のスキルは<火炎魔法>だから、火属性の魔法だけだぞ」
「え、なんで単体攻撃だけなんだ? 魔力が足りないとか?」
「別にどんだけ魔法を使っても疲れたことはねえが、魔法ってのは強いやつほど呪文が長たらしくてなぁ、一番簡単なのしか覚えられなくってよ」
「…………は?」
つまり、初歩的な単体魔法しか使えないってこと……?
その理由が、呪文が覚えられないだけ……?
こ、こいつ、頭ん中まで筋肉なのか!?
「【魔法使い】が魔法を覚えなくってどうすんだよ!」
「仕方ないだろぉ? 俺は勉強が嫌いなんだ」
好き嫌いじゃない、頑張れよ!
そう思ったが、太い眉尻を下げて心底困った様子のケヴィンを見ると、これ以上なんも言えない。
なんたって女神さまは、こんな筋肉野郎を【魔法使い】にしたんだよ!
【戦士】でいいだろ、【戦士】で!
俺の職業はまあ良いとして、イリスの奇跡のデメリットといい、ケヴィンの職のアンマッチといい、女神さまも意地悪をするよなぁ……。
「まあ仕方ない。単体攻撃でも一応戦えるだろうし」
「そ、そうですね……ですがもう一人、攻撃スキルを持った方がいないと、ダンジョンなど少し難易度の高い依頼は厳しいかもしれませんね」
「そうだなぁ。まあとりあえず今日は冒険者登録をしてくるから、三人で噛みつきウサギを狩れるか試してみよう」
「はい、頑張りましょう!」
俺は若干の不安を抱えつつ、ギルドのカウンターへと向かった。
得体の知れない【プログラマー】の俺と、デメリットがでかい【聖女】のイリス。そして単体魔法しか使えないマッチョな【魔法使い】のケヴィン。
なんだかそろいもそろって訳ありな感じだけど……逆にそんなところが仲間っぽくていいかもしれないな、うん。




