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7.求む、パーティーの壁役!


 ギルドに入ってすぐ目の前、目立つ場所には、冒険者への依頼が張り出される掲示板がどーんと壁一面に設けられていた。

 それぞれ、どのランクの冒険者向けかも書いてある。


 そしてそこを通り過ぎたギルドの受付カウンターの横に、パーティー募集の掲示板があった。

 手のひらほどの紙に、氏名や職業、スキル、冒険者ランク、さらには得意分野や趣味、アピールポイントなんて欄まである。

 それらは冒険者本人が書いているらしく、ほとんど空欄のものもあれば、顔を近づけないと読めないくらい、米粒みたいな小さな文字でびっしり書かれているものもあった。


「え~っと、【戦士】はこの辺か……最低でも前衛が一人は必要だよなぁ」

「そうですね、モンスターの攻撃を受けてくださる壁役というポジションのかたは必須だと思います」


 【戦士】は剣とか槍とか斧とか、とにかく近接武器で戦う職業だ。冒険者の中でも【魔法使い】と並んだ花形職業で、男の子の憧れの職業ナンバーワン。

 他に防御力の高い【騎士】っていう職業もあるけど、【騎士】は冒険者より王都とかで軍に所属するのが一般的かなぁ。

 【騎士】は普通、馬に騎乗して槍で戦うけど、馬から下りても戦えるらしくて、冒険者になる人もいるにはいるらしい。


「う~ん、ピッタリのがなかなかいないなぁ」


 数の多い【戦士】なら良い人が見つかりそうなもんだけど、Bランクだと「Bランク依頼オンリー」とか「攻撃魔法の使える【魔法使い】必須」とか「報酬分配要相談」とか、なんだか気難しそうなのばかりだ。

 それだけ引く手あまたってこと?


「Cランクの【戦士】であれば、冒険者になってそれほど間がないかたがいいと思います」

「そうなの? ……そうか、長く冒険者やっててCランクってことは、あんまり実力がないってことだもんな」


 道すがらイリスに聞いたところによると、Cランクはいわば初心者ってことらしい。

 まずギルドに冒険者登録をするとDランクに割り振られ、五つの依頼をクリアすればすぐにCランクになれる。そこから中級者であるBランクに上がるにはそこそこの難易度が必要なんだとか。

 ちなみにイリスはなかなか固定パーティーが見つからないものの、冒険者になって半年ほどでBランクになっている。さすが【聖女】さまだ。


「でも初心者の冒険者ってどうやって探せばいいの? 年齢欄が空欄の紙も多いのに」

「若い登録番号を探すのが効率がいいですよ。用紙の右上に書かれてる数字の頭四桁が町を表す識別番号で、その次の八桁が登録年月日を表すんです。最後の三桁が単なる連番だと聞きました」

「へえ! イリスは何でも知ってるんだなぁ」

「いえいえ、私も他の冒険者の方に教えていただいただけですよ」


 照れたように頬を染めるイリスが、何とも可愛らしい。

 今日、イリスに出会えて良かったなぁ。

 優しいし頭もいいし、良い子だし、そして可愛いし。一緒にいるだけで幸せな気分になれる。

 転職してからの一年間、暇さえあれば女神さまへの恨み言をつぶやきながら生きてきたけど、今は逆に感謝したいくらいだ。

 ……ってのは言い過ぎか。

 とにかく、他のパーティーメンバーもいい人が見つかるといいなぁ。


「じゃあ、ここ一年くらいの間で冒険者になった人を探すか」


 そう思って【戦士】の募集用紙を片っ端から見始めたところ、隣の掲示板に誰かが来て何やら紙を貼っている。

 格好からして【魔法使い】っぽい男だ。

 今俺が見てるのはパーティーに入りたい冒険者が自分を売り出すためのパーティー募集の掲示板で、隣は既に組んでるパーティーが特定のメンバーを募集するためのメンバー募集の掲示板らしい。


 うちもいい人が見つからなかったらそっちで探すか……イリスはともかく、【プログラマー】なんて怪しい職業のやつの募集に、誰かが応えてくれるとは思えないけど。


「お、壁役募集か。ちょうどいいな」


 急に俺のすぐ斜め上から低く艶のある声が降ってきて、丸太のように太い腕が今貼られたばかりのメンバー募集の用紙をべりりと剥がす。


「わっ、ケヴィン! あんたはもう来ないでくれ! あんたがいると食費ばっかりかかって利益がでないんだよっ」

「なんだよ、そんなら食費分も稼げばいいだけだろ?」

「それができないから困ってんだ!」


 紙を貼った男がその丸太腕の大男から募集用紙を取り返して、再び張り直している。

 俺は「なんだよ、ったく……」とつぶやく大男をこっそり見上げた。


「おぉ……」


 見上げるほどのマッチョ。

 そりゃもう見事なマッチョだ。

 俺は平均身長よりちょい低いくらいなんだけど、マッチョはそんな俺の頭二つ分くらい大きい。

 大きすぎて、ダンジョンで出くわしたらオークと見間違えるレベル。

 ……ってのは言い過ぎだけど。


 鎧から覗く丸太みたいな腕は筋骨隆々、胸板なんか分厚すぎてイリスの三倍以上はあると思うし、背中には鉄製の巨大な大盾を背負っていて、いかついことこの上ない。

 さらに赤い短髪と、キリッと太い眉に太い鼻筋、大きな口にがっしりした顎。

 顔の作りすらマッチョだぜ。


「すげえマッチョ……」

「あん? なんだ、お前もパーティーメンバーを探してんのか?」


 うっかり心の声が漏れてしまって、マッチョが俺のことを見下ろしてきた。

 だがその視線は意外なことに優しく、蜂蜜のようなアンバーの瞳が温かい。

 それで俺は何とかビビらずに答えることができた。


「まあ……その、前衛職でいい人がいないかなって」

「お! 前衛探してんのか、ちょうどいいぜ。俺が壁役になってやるよ。俺はケヴィン、よろしくな!」

「えっ、マジで?」


 ラッキー!

 こんなたくましい壁役、そうそういないぜ!?

嬉しくてイリスを見れば、イリスもビックリした顔でこっちを見ていた。

 その顔を見て思い出す。


「あ、でもうちってけっこう訳ありで……まだ俺とこの彼女、イリスしかいないんだ」

「へえ、嬢ちゃんは【神官】か?」

「いえ……」


 イリスは例の微妙なスキルのせいか、あまり自分では言いたくなさそうだ。

 それならと、代わりに俺が答えることにする。


「彼女は【聖女】なんだ」

「なんだって? 【聖女】!? そういや聞いたことがあるな、この町には【聖女】のお嬢ちゃんがいるって。だがスキルの奇跡がなんか微妙だとかなんとか」


 おい! デリカシーのないやつめっ!

 俺は心配になってイリスをチラリと見やるが、イリスは慣れているのか、少し悲しそうな笑みを浮かべているだけだ。

 それで中央広場で最初に見たイリスを思い出す。この少しやつれててどこか悲しげな表情……スキルせいで、今までずっと肩身の狭い思いをしてきたんだろうなぁ。


「あんた、人のスキルを微妙とか言うなよ、失礼だろっ」


 なんて言ってからハッとする。

 イリスがかわいそうで咄嗟にそう言ってしまったが、相手はマッチョだ。

 気分を害してどつかれでもしたら、俺は簡単に吹っ飛ぶに違いない。


 しかしケヴィンと名乗ったマッチョは一瞬きょとんと目を見張ったと思ったら、真っ白な歯を見せてガハハハッと笑った。


「おお、わりぃな! 俺、良く言われんだよ、ガサツだって」

「いえ、本当のことですから……」

「んで、お前はなんだ? その格好からすると【戦士】か?」


 【戦士】? 俺が?

 ……あっ、そうだった!

 俺の今の格好は、ギルドからレンタルしたボロボロの革鎧に、安っぽいショートソードだったんだ。


「いや、俺の職は【プログラマー】っていって、なんつーのかな、モンスターの行動や習性を分析する職業なんだ」

「ぷろぐ……? へえ、聞いたことねえな」


 そりゃそうだろうよ。

 俺は心の中で答える。


「でも、モンスターがどういう行動するか分かるってなら、楽に倒せて便利じゃねえか」

「え、まあ、そうなんだけど……」


 あまりにもケヴィンがあっさり信じてくれたので拍子抜けする。

 さっきのイリスの件をすぐに謝ってくれたことといい、このマッチョ、実はすごく良いやつなのかもしれない。


「じゃあ、俺たちとパーティを組んでくれんの?」

「ああ、さっきそう言ったろ?」

「でっ、でもっ、私の奇跡は……!」


 切実そうな声を上げるイリスに変わり、俺が彼女のスキルのデメリットを手短に説明した。

 すると癒やしの奇跡で味覚がなくなるってところだけ、ケヴィンはその太い眉をぎゅっと寄せて難しそうな顔をした。そしてがっしりした顎に手を当ててなでている。


「ん~、飯がまずくなんのかぁ……そうかぁ」

「前衛職ですと、怪我をする頻度も高いですものね……」


 悲しげなイリスの声に、俺のテンションも一気に萎む。

 そういやさっき、募集用紙を貼ってた男が言ってたじゃないか。このケヴィンがパーティーにいると食費がかさむって。

 つまりめっちゃ食うグルメマッチョってことだろ?

 そんなやつにイリスの癒やしの奇跡は致命的だ……断られるのも無理はないよなぁ。


「まあ、あんたみたいな身体が資本のやつには食事は大事だもんなぁ、仕方ないよ」


 また別の壁役を探そう。

 そう思ったのに、ケヴィンの返事は予想を裏切った。


「大きな怪我をしなきゃいいんだろ? 俺は身体が丈夫なのが取り柄だからな、小さな傷はほっときゃすぐ治る」

「え? 怪我しなけりゃって……でも前衛だとどうしても敵の攻撃を受けるじゃないか」

「大丈夫大丈夫、俺、そんな大怪我負ったことねえし」

「そんな、本当に大丈夫ですか? それに毒や麻痺なども……」

「身体の色が変わるとか臭くなるとかはどーでもいいって。飯の件だけは引っかかるが、もし嬢ちゃんに治してもらわないといけないような攻撃を受けたんなら、俺の筋肉がまだまだ未熟だってことだろ? 少しの間、飯がまずくなることくらい我慢するぜ」

「あんた……いや、ケヴィンって、いいやつなんだなぁ」


 なんだか感動したよ。

 身体だけでなく心まで大きいんだな、ケヴィンって。


 よし、これで前衛が一人見つかったから、さっそく依頼をこなせるぞ!

 俺の胸は期待で一気に膨らんだのだった。


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