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6.イリスは訳あり【聖女】?


「素晴らしいです! モンスターの習性が分かるなんて、すごいことじゃないですか!」

「確かにそうだよなぁ」


 興奮するイリスは、なおも続ける。


「モンスターがどういう行動をするのか分かっていれば、不要な戦闘を避ける事ができますし、ダンジョンのボスモンスターと戦う難易度もぐっと下がりますよ」

「そうなんだけど……さっきはああ言ったけど、俺みたいなのが冒険者になって大丈夫かな? だって戦えないんだぜ?」

「それなら私もですよ? 戦闘にはまったく向きませんから」

「そりゃそうだけどさぁ」


 イリスにはプログラミングの話なんかしても理解できないだろうし、俺も上手く説明する自信がなかった。

 だから<コードインスペクション>はモンスターの習性や行動パターンを文章に変換して読むことができるスキル、って感じで説明してみた。


 すると彼女はすごいすごいと大興奮してくれたもんだから、俺も調子に乗って「このスキルがどんなものかもっと色々試したいし、このまま冒険者になろうと思う!」な~んて言ってみたんだけども……。


 町に戻り、冒険者として登録するためにギルドに向かいながら、だんだんと不安になってくる。

 そりゃモンスターの行動が分かるんだから、【プログラマー】は冒険者向けの職業なんだろう。

 でもさぁ……俺が味方に提供できるのは、ただの情報だけだよ?

 戦力はもちろん、補助魔法も奇跡も出なけりゃ、【シーフ】みたいに罠を解除してみんなを助ける事もできやしない。


「あ~、つまり、俺は軍師みたいなもんなんだよな。戦場にいて敵の行動を分析し、味方に指示をだすだけ、と」

「わぁ、かっこいいです~!」


 イリスがあのパープルの目をキラキラさせて褒め称えてくれる。

 うう、さすが【聖女】……転職に失敗してささくれ立ってた俺を癒やすどころか、おだてまくって調子に乗らせてくれちゃって。


「しっかしなぁ、偉そうだよな、それ。【プログラマー】なんて聞いたこともない職業だし、俺の話を信じてパーティーを組んでくれるやつなんているかなぁ?」


 しかも俺は若い上に、見た目もまったくもって冴えない男だ。

 そんなやつの指示を受けて戦うなんて、戦闘職の【戦士】や【魔法使い】なんかはいい顔をしないはず。

 なんせ冒険者になれる職業ってのは子ども達の憧れなんだ。みんな立派なプライドってもんがあるんじゃないの?


 そんな風に悩んでいるうちに、ギルドの前についた。

 夕方近くのこの時間、依頼を終えて帰ってきたのか【戦士】や【魔法使い】、【シーフ】や【神官】といった、いろんな冒険者たちが出入りしている。


「ほら、なんかみんな俺とは別の世界に生きてるって感じがする……」

「大丈夫ですよ、少なくとも私はアタルさまについていきます!」

「……え? いやいや、待ってくれよ! イリスは【聖女】じゃないか。最初に言ったとおり、君ならAランクやSランクのパーティーに入れるだろ?」


 しかも大歓迎で、だ。

 あの噛みつきウサギに噛まれたイリスの怪我は、彼女が背負っていた両手杖を当てて数秒祈りを捧げただけで、綺麗さっぱり治ってしまった。

 しかも彼女が使えるのはその癒やしの奇跡だけじゃない。毒や麻痺も治す事ができるんだから最強じゃないか!


 だけども、またもやイリスの表情がサッと曇る。


「そうでした、その話の途中でしたね。私のスキル<奇跡の対価>は、さまざまな女神さまの奇跡を使えるのですが……対価が必要なのです」

「対価ってどんなの?」

「例えば癒しの奇跡であれば、数日間、何を食べても味がしなくなるんです……何日続くかは怪我の程度によりますが」

「へえ、味が……え?」


 今、なんて言った? あ、味……?


「つまり、味覚がなくなるってこと?」

「そうです。解毒であれば、数日間、全身の皮膚が……紫色に染まってしまいます」

「ぶはっ! 紫って!」


 ウケる!

 想像すると超ウケる!

 しかしイリスの深刻そうな顔に、俺の笑いも直ちに鎮火する。


「いやあ、すごいな……紫か、そうか……」

「さらに麻痺であれば、数日間、体中から硫黄のニオイが立ち上るのです」

「ぶっ、硫黄!? そ、そりゃキツい……」


 笑いをこらえるのに必死だ。

 なんだその奇跡、超笑えるじゃんか!

 女神さまも面白いことするなぁ。


「アタルさま、今、面白いって思いましたよね?」

「うっ……まあ、そうだね……」


 正直に白状するも、イリスは嫌な顔をせず、切なそうに苦笑する。


「皆さん、最初はそうなんです。それでAランクのパーティーに入れていただいた事もあります。しかし……」

「そうか、毒消しをしたら身体が変な色になるし、麻痺を治してもらえば臭くなる。Aランクほどのパーティーならプライドが高いやつが多いだろうし、そんな状態でしばらく過ごすのは恥ずかしいよなぁ」

「そうなのです……」

「でも一番使うのは癒やしだろ? 味がしないくらい、たいしたデメリットじゃないって」


 俺んちの雑貨屋でも、毒消しや麻痺治しの薬はよく売れる。

 でも一番売れるのが傷薬だ。

 この傷薬は聖職者の奇跡ほどじゃないけど、身体の治癒力を高めて簡単な傷なら数分で治るし、戦闘でヘトヘトになっても、ある程度体力を回復してくれるって代物だ。


 パーティーに聖職者は必須だけど、聖職者にばかりに頼っているとすぐにスタミナが切れて役に立たなくなるらしくって、傷薬も必需品なんだってさ。

 ちなみにこの傷薬や毒消しなんかの薬は【薬師】っていう職業の人たちが作ってて、自分たちで売ったり、うちみたいな小売店に卸したりしてる。


「それに俺なら、身体の色が変になろうが臭くなろうが、自分で毒や麻痺を食らった結果なんだから我慢するけどなぁ……」

「ふふっ、ありがとうございます」


 それでやっとイリスの暗い表情がちょっとだけ晴れて、俺も安堵する。


「ですが癒やしの奇跡は……パーティーに長くいればいるほど迷惑になるようで」

「え? そんなことないって。だって味がなくなるだけだろ? 飯が食えなくなるわけでもないし、周りに治癒を受けたってバレるわけでもないじゃんか」


 毒や麻痺に比べればだいぶ地味なデメリットだ。何をそんなに迷惑だっていうんだろ?

 けれどもイリスは真剣な顔で俺に尋ねる。


「上のランクのパーティほど、日数のかかる難易度の高い依頼を受けるのですが、無事にやり遂げて町に帰ってきた後に何をするかご存じですか?」

「え~っと、依頼をクリアして帰ってきたら、ギルドに報告だよな」

「はい、そして報酬をもらったその後は?」

「報酬の分配?」

「それもそうですけど……最後に打ち上げをするんです。依頼達成を祝ってパーティの皆さんで食事をするのが普通らしいのです」

「打ち上げ……あっ、そういうこと!?」


 ギルドのある大通りには、たくさんの酒場や料理店がある。

 これはみんな、冒険帰りの冒険者達がメインターゲットなわけだ。

 たいしたことのないCランクのパーティーなら、簡単な依頼を日帰りでこなして普通に食事して終わりかもしれない。

 でもランクが上のパーティーは数日かかるような危険な依頼をこなして、そして無事に帰ってきたら美味しい料理で腹を満たして、美酒に酔う。


 ……そのときに、もし何の味もしなかったとしたら。


「そうか、打ち上げで味がしないなんてがっかりだよなぁ」

「そうなのです……」


 なるほどねぇ。

 だからあんな冴えないキモオタパーティーにいたってことね。


「Bランクのパーティーにも入れていただいたことがあるのですが、Bランクのかたの方がAランクのかたより怪我を負ったり毒を受けてしまうことが多くて……」

「そうか、デメリットを受ける回数が多けりゃ、段々嫌になってくるってことか」


 数日間、味がしないくらいでわがまま言うなと思ったけど、もし毎日怪我をしてイリスに治してもらうような状況になれば、ず~っと味がしないってことだ。

 なかなかにしんどいだろうなぁ。


「ですので……アタルさまも、もし嫌になってしまわれたら遠慮なく言ってくださいね。また新しいパーティーを探しますので」

「なに言ってんだよ、嫌になんてなるもんか! だって君がいなけりゃ、俺はこれから先もず~っと自分をゴミ職のゴミスキルだって思ったまま、実家の店を手伝ってたんだ。命の恩人みたいなもんだよ」

「そんな、大げさですよ! 私も前のパーティーから抜けられなくてアタルさまに助けていただきましたし」

「なっ、あれくらい、大したことっ……って、何ギルドの前で言いあってんだか。じゃあ、とりあえずお互い嫌になるまで一緒にパーティー組むってことでどう?」

「はい!」


 返事をするイリスがあまりにも嬉しそうで、俺の胸まで熱くなる。

 ていうか、これまでの人生でも前世でも、こんな可愛い子と仲良くなったことはなかったもんなぁ。

 前世で死にそうになりながら……ていうか結局死んだんだけど、とにかくプログラマーをやってて良かったよ。


「まずは俺のスキルの結果を受けて、モンスターを倒してくれる人を探さないとな」

「それなら冒険者登録の前に、少しだけパーティー募集の掲示板を覗いてみましょうか」


 ということで、俺たちはいそいそとギルドの中に入っていった。


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