5.<コードインスペクション>の秘密
え、どゆこと?
何でこんなところにJavaが!?
だが落ち着いてよく見れば、Javaとも微妙に違う部分がある。
それでも意味は分かる。多くのプログラミング言語は、簡単に言うと英語と数学が混ざったようなもんだから。
どうやらこれはプログラミングされたイベント処理みたいだな。
イベント処理っていうのは簡単にいうと「○○という事象が起こった場合に実行する処理」ってこと。
たとえばスマホのゲームで「スタートボタンがタップされたらゲームを始める」みたいなもん。
「装備する、がタップされたら武器を装備する」とかね。
「これは……逃げる? えっと、一定の音量以上の物音がしたら逃げる、って処理かな。で、こっちのイベントは危害が加えられた時って感じか? 相手に噛みつくって処理に見えるけど……ちょっと待てよ。これってまさか」
まさかまさか。
嘘だろ?
これ……噛みつきウサギの行動を表してないか?
「なんでそんな……えっ、もしかしてモンスターの行動って、プログラミングで作られてるってこと!?」
まさかぁ。
ゲームのモンスターじゃあるまいし。
でも……そうとしか思えない。
つまり、俺の目の前には噛みつきウサギの行動というか、習性を記したソースコードが表示されてるってわけ?
「これ、本当に噛みつきウサギの……あれ、何だ?」
ソースコードの向こうで固まっている噛みつきウサギの胸元が、わずかに赤く光っている。
それは魔力紋といって、俺たち人間が女神さまから職業やスキルとともに職紋をもらうのと同様に、モンスターが魔王からもらうと言われているものだ。
一説には、魔王はこの魔力紋で世界中のモンスターを操っているのだとか。
魔力紋は職紋と違ってすべてのモンスターが赤色で、みな同じ柄の円形が身体のどこかに刻まれている。
つまりこの魔力紋の有無でモンスターか野生動物かの区別がつくってわけだ。
だから噛みつきウサギに魔力紋があるのは当たり前なんだけど、問題は光ってるってこと。
魔力紋が光るなんて、聞いたことがない。
「もしかして、この状況と関係があるのか? 俺がスキルを使ったからとか」
なんて考えていたら、不意にソースコードとは少し離れた視界の隅っこに、すごい早さで書き換わる数字の羅列があるのに気づいた。
それは三桁の数字で、どんどん数が減っていってる。
まるでカウントダウンのように。
「カウントダウン……これがゼロになったら、このソースコードが消えて、俺の視界も身体が動かないのも元に戻るってことかな」
ということは、だ。
いったん整理すると、俺のゴミスキルだと思っていた<コードインスペクション>っていうのはちゃんとしたスキルで、モンスターの習性をソースコードとして知ることができるってことか。
「なんてこったい……どういうことだよ……ここがゲームの世界ならまだしも、普通に生きてるモンスターの行動がプログラミングで決められてるなんて」
理解が追いつかない。
確かに前世の世界で流行ってた異世界転生もののアニメや漫画、小説の中には、ゲームの世界に転生するっていうのがあったけど……モンスターの行動がプログラミングされてるなんてのはあったかなぁ?
ソースコードとかリアルすぎないかぁ?
いや、今はそんなことどうでもいい。
それよりも例のカウントダウンがどんどん減っていってるのが気になる。
十分の一秒でひとつ数字が減るくらいのスピード感だ。このままだとあと一分ちょっとでゼロになるかな?
俺は慌てて、再びソースコードに集中した。
そして、ついに数字がゼロになり、予想どおりに視界も周囲の音も、すべてが戻る。
「戻ったか……?」
俺のその声に反応するように、再び噛みつきウサギが「ギー!」と威嚇の声をあげ、身体を縮ませた。
飛びかかってくるつもりだ。
俺は大きく息を吸う。
「ケーーーーッ!」
俺のその雄叫びに、噛みつきウサギはビクリと身体を硬直させて、倒していた耳をピンと立てる。
そして鼻を二回ほどひくつかせると、くるりと背を向けて、すぐ側の茂みの中に飛び込んだ。
続く、ガサガサと逃げていく音。
「アタルさま……?」
何が起こったのか分からない様子のイリスが、オロオロと噛みつきウサギが去った茂みと俺とを交互に見ている。
なるほどね、俺がスキルを使ってる間はやっぱり時が止まるんだな。
「ああ、さっきのは夜哭ギツネの真似だよ。夜、たまに町の外で吠えてるだろ? 噛みつきウサギって、夜哭ギツネの声を聞くとすべての行動をキャンセルして逃げるらしいんだ」
ガキの頃、友達同士で動物の鳴き真似をしたことがあったっけ。
その中で、ダントツで俺が上手かったわけだけど……そんなどうしようもない特技がここに来て役に立つとはねぇ。
なんて感傷にひたる俺に対し、イリスはまだ不思議そうな顔をしている。
「そうなのですか……?」
「あ、俺のスキルの<コードインスペクション>なんだけど、攻撃スキルじゃなかったよ。でも、すごいスキルかもしれない。もしかしたら、この世界の秘密を暴いてしまうくらいの……なんてね」
「ええっ?」
俺は噛みつきウサギが去って行った茂みを見ながら、イリスにどう説明すべきかを考えていた。
問題は、どうして噛みつきウサギの習性がソースコードになっていたかってところだな。
もしかして<コードインスペクション>っていうスキルは、モンスターの習性をプログラミングに変換して俺に見せてくれるスキルだったりして?
う~ん、それなら別にソースコードじゃなくて文章でいいよなぁ。むしろその方が分かりやすいだろ?
てことはやっぱり、モンスターの習性って誰かにプログラミングされたもんなのか?
誰かって……この場合、魔王しかいなくない?
俺の職業とスキルにはまだまだ謎が多い。
その謎を解くには、もっと多くのモンスターにスキルを使って、いろんなソースコードを見てみるべきだと思う。
ていうか、そうしないと俺のスキルって意味ないよな?
モンスターに向かってスキルを使うわけだし、町の中にいちゃ意味がない。
つまり……俺の職業って、冒険者向けってこと!?
あの、みんなの、そして俺の憧れの……?
そう考えると、今まで袋小路のどん詰まりで足踏みしていたのに、急に目の前の壁がガラガラと崩れて進めるようになった気分だ。
一年前、転職の儀以来、止まっていた俺の人生が再び動き出したってわけだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
やっとアタルのスキルが分かってきたんですが……。
スキルやソースコードの説明は分かりづらくないでしょうか?
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