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9.まさかの引き抜き!?


「いやあ、ミン婆とイリスがいてくれて良かったよ。じゃなきゃ、あんなにすんなり信じてもらえなかったよな」

「いえいえ、私など大した役には……ミン婆さまのおかげです」

「ふぉっふぉっふぉ、わしは長年冒険者をやっとるからのぅ、信頼度が違うんじゃよ、信頼度が」


 俺たちはギルドの入り口で、ケヴィンとライを待っていた。

 ケヴィンとライはギルドの裏口に、ダンジョンで手に入れたお宝を預けに行っている。

 ダンジョンで手に入れた物は、金銭以外は一度ギルドに提出しないといけないからね。もしかしたら武具のうちいくらかは盗難届が出てるかもしれないし。


 そして残る俺たちはギルドの受付に行っていた。

 クエスト登録したダンジョンとは別のダンジョンのボスを倒しちゃったから、経緯を説明するためにね。


 あの後、ケヴィンはマジですべての武具と、宝箱から出した宝石や金貨、銀貨をすべてオークの腰布に包んでしまった。

 でもさすがに大きすぎてケヴィン一人じゃ持ち帰れないから、ケヴィンが引っ張って引きずって、俺とライが交代で後ろから押して帰ってきたんだけど……。


 ううっ、何度も洗ったけど、まだ手が臭い気がする……。

 でもさすがオークが履くだけあってメチャクチャ丈夫な生地で、ずっと引きずってたのに破けなかったなぁ。

 ていうかギルドの人、臭くてビックリしただろうな……。


「それにしても、ダンジョンってボスを倒すと他のモンスターが消えちゃうなんて知らなかったなぁ」

「なあに、有名な話じゃぞ。そうでなければ帰還時に大変じゃからの」


 ミン婆はそう言うけど、俺みたいな【商人】の家に生まれた子どもは、冒険者に夢しか見ないからねぇ。


「でもそれなら余計にオークを倒しておいて良かったよな。ダンジョンの出口までもけっこう距離あったしさぁ」


 しかもゴブリンの巣から出る通路は二つあって、どうやらダンジョンの入り口からの道順は二つあったらしい。

 もしボスを倒していなかったら、ゴブリンに挟み撃ちにされる可能性もあったってわけだ。


 いやぁ、つくづくあのダンジョンは俺たちにはまだ早かったよなぁ。

 でもこの先はもっといろんな冒険が待ってるわけで……大丈夫かなぁ?


「あら、中央広場の方が賑やかですね」


 時刻は日没直後。

 ギルド前の通りは夕飯時というのもあって人通りが多かったけれど、中央広場の方からはさらに女性陣の華やかな声が聞こえてくる。

 なんだろ? 今日は別にイベントごともないはずなのに。


「おや、どうやらこっちに近づいてくるようじゃぞ」


 ミン婆の言うとおり、その華やかな声は俺たちの方に向かって近づいてきていた。


 そしてほどなく、ぱっと見で俺たちとはレベルが違うだろう、きらびやかな装備を身につけた女性陣の姿が見えてきた。


 スタイル良く鎧を着込んだ【戦士】に、美しい光沢のあるローブを羽織った【魔法使い】、そして繊細な刺繍をあしらった革鎧の【シーフ】や、貴金属で飾り付けられた両手杖を持つ【神官】たち。

 そろいもそろって一流感が半端ない。

 それでもって容姿がそれなりに整っているのが驚きだ。

 恐らく十代から二十代前半の女性ばかりに見える。


「な、なんなんだ、この人たち……」

「この町のギルドでは見たことのない方々のような……?」


 俺とイリスが呆然としていると、ミン婆がすぐ近くまできていた女性陣の一人に声をかけた。


「おぬしら見ぬ顔じゃの。どこから来たんじゃ?」

「あら小ちゃなお婆ちゃん、こんばんは。私たち、今日の正午にこの町に着いたのよ」

「ふぉっふぉっふぉ、わしらはダンジョンに潜っておったでな」

「ええっ、お婆ちゃん、冒険者なの? すごいわぁ!」


 さすがミン婆、コミュ力が高い。

 俺はお姉さま方の迫力に負けて声をかける勇気すらないよ。


「して、美しいおなごの冒険者ばかりが集まって、賑やかなパーティーじゃのぅ」

「違うのよ、お婆ちゃん。私たちのリーダーは男の人なの。誰だか分かる? すっごい人なんだから。なにせあの【剣聖】オベリオの……」


 女性の一人がそこまで口にしたとき、隣に立つイリスの肩がビクッと震えたのが分かった。


「イリス、どうかした?」


 しかしイリスはどこか遠くを見て顔をこわばらせたままだ。

 なになに?

 なにかこっから見えるのか……?


「やあ、イリスじゃないか!」


 それは艶やかな中低音の好青年的な声だった。

 もう声だけでイケメンだって分かるくらいの。

 反射的に声の主を探せば、女性陣たちがサッと左右に分かれて一人の男が姿を現した。


 それは南の海のようなエメラルドグリーンの髪を長く伸ばした男だった。

 やけに整った顔立ちで、甘い笑みを浮かべてる。白い歯がキラリと光り、周囲にいた女性陣からは小さな溜め息が漏れた。


 しかも顔だけじゃなくてスタイルもいい。

 すらりと背が高く、それでいて均整の取れた身体には赤と銀の上質な鎧を着込んでいた。

 赤いマントと、腰に下げられた立派な両手剣からすると【戦士】か?


「なんかすごいのが来たな……イリスの知り合い?」

「オ、オルティカさま……」

「オルティカ?」


 ん? どこかで聞いたことがあるような気がする。

 なんて思っていたら、そのオルティカという好青年がイリスの目の前まで歩いてきた。


「君が王都を出て以来だから、半年ぶりかな? ああ、少し痩せたんじゃないかい? もちろん、そんなことで君の美貌は変わりやしないけど」


 おお、なんだか歯の浮くようなセリフだ……こっちの方が恥ずかしくなってくる。

 てか、こいつ何? イリスの知り合いなの?

 やたらとイケメンだしスタイルもいいもんだから、俺はなんだか胸がざわついてしまう。


「オ、オルティカさまは、お元気そうで」


 イリスがぎこちない笑みを浮かべた。

 けれどもその視線はさりげなく、オルティカの背後を漂い、誰かを探しているかのようだ。


「ああ、君のお姉さんなら今回は同行していないよ。ちょうど出発する前日に君のお父さまが体調を崩されてね、そばについていたいと言って」

「えっ、お父さまが!?」

「君には連絡が行っていないのかい?」

「そう……ですね……」


 動揺している様子のイリスにオルティカは少し考え込んで、「うん」と頷いた。


「まあきっとすぐに回復したから、君に伝えるまでもないと思ったんだろう。それより……」


 それまで俺の存在に気づいてもいなさそうだったオルティカが、突然俺に視線を向けてきたもんだから、バッチリ目が合う。

 淡い水色の瞳に見つめられ、俺は思わず視線をそらしてしまった。


「彼と……まさか、そのご老人が君のパーティーメンバーなのかい?」

「は、はい、他にあとお二人いますが」

「そうか……なんというか……うむ、やっぱり君は私のパーティーに入るべきだよ。奇跡の対価のことなら気にしなくていい。うちには三人の【神官】がいるし、彼女たちがスタミナ切れしたときに君が頑張ってくれればいいから」


 ちょっと、どゆこと!?

 まさか、イリスを引き抜こうとしてる?

 慌てる俺の横で、イリスはらしくないくらいにブンブンと首を振る。


「こちらのアタルさまのパーティーはとても居心地がよくて、私はこれからもっ……」

「しかし君はそんな低レベルのパーティーには似合わない。君のお姉さんには私からよく話しておくから」


 おいおいおい。

 低レベルって!

 いや、確かに俺のレベルは低いんだけど!


 なんとなく状況が読めてきた。

 このオルティカってやつはイリスの知り合いで、自分のパーティー……この美人なお姉さん方ばかりのハーレムパーティーにイリスを入れたがっている、と。

 しかも三人の【神官】がスタミナ切れしたときにイリスの出番がくるって……それってつまり、イリスを補欠的な立場でパーティーメンバーにしようとしてないか!?


「あのさぁ、お兄さん、外見だけで低レベルとか言っちゃうなんて、人としてどうかと思うけど」

「ア、アタルさまっ……」


 俺はムカッときて、つい口に出ていた。


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