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7.オークを倒せ!


 見上げた先、オークの顔を見て血の気が引いた。

 剣を振り回すライにいらだったのか、オークはライの剣ごと無理矢理口に押し込もうとしていた。

 ライが剣をつっかえにして抵抗するも、オークの分厚い唇をサクッと切っただけでオークの動きは止まらない。


「やばいっ、ライ!」


 ライが食べられる!

 ファイアボールが無い今、もう打つ手は……。


 絶望の中、見上げる俺の目の前で、ついにライの頭はオークの口の中に消え――。


 シュパッ!


 聞き慣れた、小気味のいい音。

 白く細い何かが空間を切り裂き、オークの片目に突き刺さった。


「えっ!?」


 それは俺のボーガンの矢だった。

 飛んできた方を振り返れば、床に下りたミン婆が俺のボーガンを構えてニヤリと微笑んでいる。


「ふぉっふぉっふぉ、わしにかかればボーガンもこんなもんじゃて」

「ミン婆!」


 さすがのオークも目を潰されたらたまったもんじゃない。

 さっきの俺の時と同様、ライから手を離し、目に突き刺さったボーガンを抜こうと必死だ。

 でもボーガンの矢は細い上に、深々と突き刺さっていて、オークのデカい手じゃ簡単にはつかめない。


 俺は床に落ちたライに駆け寄った。

 オークは痛みのあまりふらついて、倒れたライを今にも踏みそうだったから。


「ライ、立ってくれ! ライがいないとオークは倒せない!」


 ライはうつ伏せに倒れていて既にヘロヘロっぽいけど、何とか立ち上がらせて、俺はケヴィンを呼ぶ。


「ケヴィン、今のうちにオークの膝にこのロープを結ぶんだ!」

「ロープだって!?」

「転ばせて、そんで最後にライの剣でトドメを刺そう!」


 ケヴィンが頷き、俺とケヴィンとでバタバタ動くオークの足にロープを巻き付けていく。

 そしてオークの動きが止まったところを見計らって、ケヴィンが端を結んだ。

 これで良し!


「グオオオオッ!」


 ホール全体が揺れるほどの咆吼。

 ビックリして見上げれば、オークは片目からダラダラと真っ赤な血を垂れ流して、ミン婆の方を見ていた。

 まずい、ミン婆はボーガンを持ってる!


「ミン婆を助けねえと!」

「待ってケヴィン! ロープの中間地点を持って引っ張るんだ、その方が早い!」

「なんだって?」


 細かい作戦を説明して納得してもらう余裕はない。

 ケヴィンの太い腕をひっぱって、柱とオークのちょうど中間点を目指す。

 そして床にたわんで落ちていたロープを拾い上げた。


「すぐにロープがピンと張るから、ロープに対して垂直方向に引っ張るんだ!」

「あ? なんでだ?」

「てこの原理の一種だよ。オークの足を直接引っ張るより、こうした方がずっと簡単に転ばせられる」


 てこの原理はこの世界でも知られているけど、前世ほど学問が進んでるわけじゃない。

 いや、厳密に言うとこの世界では全員が受ける教育は前世の中学レベルで、そこから先は学術系の職業に就いた人しか学ばないって感じだ。

 まあそんなのはケヴィンには関係ないか、どうせ勉強は嫌いだろうし習ってても忘れてるよ、きっと。


 そうこうしているうちに、オークがミン婆の方に近づいていってロープが張りつつあった。

 頼む、切れないでくれよ!

 ミン婆はボーガンをさっさと捨ててあのリクガメ速度でちょこちょこ逃げているけれど、オークはまだミン婆をロックオンしている。

 そうか、ミン婆がいつも背負ってる風呂敷の中に、ナイフとか武器になる物があるんだ。


「そんならロープを引くより、内側から体重をかけてロープを押した方がいいんじゃねえか?」

「さすがケヴィン! よし、足を浮かせたタイミングを狙ってせーので押すぞ!」

「おうっ!」

「今だ! せーのっ!」


 ケヴィンと息を合わせて、ロープをつかんで押すようにして走る。

 太い荒縄が指に食い込んでミシミシと痛んだ。

 でも、力を緩めるわけにはいかない!


「おっしゃああああっ!」


 最後はケヴィンが腹にロープを食い込ませ、走る勢いと体重すべてをかけて押し続けた。


「グオオオッ!」


 苦しげな声と共に、オークの身体が大きく傾いだ。

 ロープを結びつけた方の足を持ち上げたタイミングで引っ張られて、バランスを崩したんだ。

 そして――。


 ズッシィィィィン!


 大げさじゃなく、俺の身体が数センチ浮くくらいの振動だった。

 ついにオークが倒れた!


「今だ! 今のうちにライの剣でオークの首を切るんだ!」


 ライはミン婆を助けるつもりだったのか、オークのすぐ側にいた。

 そして俺の狙いどおり、剣を構えてあの大木のようなオークの首に剣を突き立てる。


 でも……。

 ライの力が弱いのか、表面を傷つけるくらいでなかなか刃が通らない。


「ケヴィン、ライを手伝って!」

「任せろ!」


 ケヴィンと俺は急いで駆け寄り、剣を突き刺そうと奮闘していたライに手を貸す。

 これだけ近けりゃ、ケヴィンの武器が苦手とかいうのはもう関係ない。

 このまま深く刺して横に切れば、太い動脈を傷つけられるはずだ。


「くっそ、かてえなあ!」

「グオオッ! ガアッ!」

「うわっ!」


 剣が十センチほど刺さったところで、転倒の衝撃から立ち直ったオークが手で俺たちを払ってきた。

 ゴロゴロと転がり身を起こすと、オークも立ち上がろうと手を突いている。

 まずい、立ち上がられたら、また転ばせられるかどうか……。


 そこで俺は腰にくくりつけていたあれの存在を思い出した。

 激しく転がったけど、壊れてないよな?

 俺の腰には黒い巾着が一つぶら下がってる。

 中に入っているのは……。


 俺はそれを出す間も惜しんで、急いでオークの近くへと駆け寄った。

 そしてオークの顔のすぐ目の前に飛びだして、巾着を手に取る。


「これでも食らえ!」


 一瞬で周囲に白い光が満ちた。

 中から出した物――それは光石灯だった。

 こっちのダンジョンに下りてからは必要なかったから、遮光性の巾着に入れてリュックにしまっていたんだ。


「グアァッ、グッフー!」


 目の前でまぶしい光を当てられ、オークは両手で顔を覆ってゴロゴロと床を転がった。

 その勢いで俺はまた吹っ飛ばされて、光石灯もどこかへ飛んでいってしまう。

 でもこれで時間が稼げたはず!


「今のうちだ! 立ち上がる前にっ……!」


 すると仰向けになったオークの胸の上に、ライの長身があった。

 吹っ飛ばされたときにダメージを受けたのか? フラフラしながら、オークの首に近づいていく。

 でもオークもじっとはしていない。

 目をひとしきりこすったら、首をもたげて立ち上がろうとしている。

 くっそ、光石灯はどこだ!?

 慌てて周りを見渡すも、目の届く範囲にはない。


「ああああぁっ!」


 一瞬誰の声か分からなかった。

 見れば、ライの下半身がまるごとオークの口に食われていた。

 ライの深緑のマントが一気に赤く染まっていく。


「ライ!」


 なんで!?

 どうして!?

 ライが死んじまう!


「に、にっ……<肉を切らせて骨を断つ>!」


 何が起こったか分からなかった。

 それがライのスキルだと気づいた時には、ライの上半身がビックリするくらいの速度でグリンと回転して、一拍後、ザパアッと真っ赤な血しぶきが飛び散っていた。


 ライが、オークの首を切ったんだ!


「すっご!」

「ふぉっふぉっふぉ、さすがじゃのぅ、強力なスキルじゃて」


 いつの間にかすぐ横にミン婆が来ていた。

 余裕だな、おい!


「グオォォォォ……」


 すごい大量出血で、ついにオークの声からも力が失われていく。

 やった、やったんだ!

 ついにオークを倒したぞ!


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